こちらは2ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
【魏無羨と藍忘機のルーツ】
をクリックお願いします。
精神面がタフだ! 究極の巻き込まれ主人公
令狐冲は主人公としては変わり種です。
愛国心や仇討ちといった目的は特にないし、ビルドゥングスロマンともちょっとちがう。滅法気のいい性格で、困った人を放っておけない。
そうして人助けをしているうちに、災難に巻き込まれてしょっちゅう死にかけます。
裏表がないので「あいつって使えるよな」と罠にひっかかることもある。
そうやって右往左往するうちに、治療できない怪我をしたり、陰謀に巻き込まれたりする。そんな不幸極まりない人物といえます。
常人なら闇堕ちしそうなところを、彼はやけ酒を飲んで音楽を演奏して「ま、いっか」と忘れて突き進んでゆきます。そうして人助けと立ち直ることを繰り返しているちに、なぜか異常に強くなっているのです。
これは魏無羨もそう。彼は江澄のような責任感を背負っているわけでもない。親の仇討ちでもない。
ただ、困っている人を助けた結果、やたらと強くなってしまい、かつ敵だと思われている。そんな巻き込まれ型です。
あれだけ痛い目にあったら、慎重になってもいいのにそうしない。そういう性格なのです。
令狐冲は中国語圏で大人気です。
過去には日本でも有名な周潤發(チョウ・ユンファ)や李連杰(ジェット・リー)といった錚々たる名優が演じています。
美形であること以上に、親しみやすくて軽やかなアニキっぽさ。やけ酒を明るく飲んでいそうな親しみやすさが大事。日本の俳優ならば、松坂桃李さんあたりでしょうか。
そんな人気キャラクターに似ているなんて素敵!
それにみんな、魏無羨を好演した肖戦こそ、ネクスト令狐冲だと思っているんじゃないかな……となったら実際のところそうなのです。
『陳情令』と『魔道祖師』の大ヒットは、武侠ものは若い世代にも訴求力があると証明しました。
ゲームも開発されます。武侠の世界観はぴったりハマるのです。
そこで発売されたのが『新笑傲江湖M(モバイル・日本語版はソード&ブレイド)』。
この大陸版主題歌とイメージキャラクターに、肖戦が起用され、テーマソング『滄海一声笑』を担当しました。
ゲームはデカデカと「正宗(=本物)」と掲げており、相当気合が入ったものです。
予想通り、これには「肖戦で『笑傲江湖』をドラマにして!」というコメントが殺到しております。
現在、令狐冲を演じるべき俳優投票をすれば、肖戦が上位に入ることは疑いようがありません。
そんな彼は俳優として頂点に登りつつあるの。ここまで令狐冲にぴったりな俳優がいることも大変幸運なこと。
これから『笑傲江湖』を読む方は、彼が脳裏に浮かぶことでしょう。なんとも羨ましいことです。
※原作改変があまりに酷いと不評の2013年版
※主演がミスキャストと評価が厳しい2018年版
ちなみに『笑傲江湖』2010年代以降のドラマ版は、原作をアレンジしすぎて評判が悪い。
原作のニュアンスを崩さず、肖戦主演でドラマにするだけでも傑作となることでしょう。私もそんな日を待ち望んでいます。
肖戦と王一博が『滄海一声笑』を歌う動画もあります。ぜひお探しください。
魏無羨――究極の愛を育む
全体的な世界観、音楽へのこだわり。正邪が争う。そういった点は『笑傲江湖』の同工異曲といえます。
ラブストーリーの場合、同じ金庸でも『神鵰侠侶』です。
恋愛要素が強い武侠ものでは上位であり、楊過と小龍女は名前を聞くだけでうっとりするファンも多いのではないかと思います。
タイトルの「神鵰侠侶」とは、愛情のみならず、信頼や正義感で結ばれたパートナーという意味。まさしく魏無羨と藍忘機の関係です。
その楊過と魏無羨の共通点は?
ズバリ生育環境
幼い魏無羨は残飯を漁って生きていた。それを見た江楓眠が憐れみ、我が子のように育て始めます。
楊過も同じような状況で、郭靖と黄蓉という夫妻に引き取られるのです。
楊過は令狐冲よりもキリッとしたイメージがあり、かつ悲壮感が似合う美形が適しています。日本の俳優ならば佐藤健さんでしょう。
人間関係も酷似しておりますが、それについては後述します。
藍忘機――伝説となった最愛の侠侶
魏無羨が楊過ならば、その相手となる藍忘機はまるで小龍女のよう。
私は見た瞬間「ああ、男版の小龍女だ」と思いました。
彼の名は「湛」。溢れる様、水が透き通っていること。
令狐冲と正邪を超えて結ばれる任盈盈(じんえいえい)の名は「満ち足りる」という意味。名前の由来で似たペアといえます。琴を携帯しているところも共通しています。
そうなると彼女に近いかというと、任盈盈は日本の女優ならば栗山千明さんのようなクール系なので、ちょっとタイプが異なるのですね。
字の「忘機」は、チャンスやきっかけを忘れること。よいチャンスならともかく、恨むきっかけすら忘れるのだとすれば、彼らしいと言えます。
「含光君」という号は、光を含んだように美しい彼にこれまた似合っています。
全身真っ白! 黒髪をなびかせていて白いヘアアクセサリ
見た目が白い。白い服だ!
これは元となった小龍女の特徴です。
あんなに戦っていたら泥や血まみれになるのではないか? そもそも白服って、中国語圏では喪服ではないのか?
そんな疑念が湧いてきますが、小龍女は全身白くないと話にならないお約束があります。
黒髪はまとめず、一部を結ってあとは垂らす。この時代の女性ならば、髪には貴金属製の簪(かんざし)が定番だけれども、小龍女は白系統の布をアクセントとしてつけるだけ。
『神鵰侠侶』は、日本で『コンドルヒーロー』というサブタイトルつきでアニメ化されました。
この作品の小龍女はペールピンクの衣装、茶色の髪をまとめているというデザインで、日本でなければこうはならないと感じたものです。
これはまさしく藍忘機も同じです。あの見た目だけでもう「ああ、これは男の小龍女……」となる理由がおわかりいただけたでしょうか。
※続きは【次のページへ】をclick!