戦乱中国の英雄たち

『戦乱中国の英雄たち』/amazonより引用

陳情令・魔道祖師

陳情令で中国時代劇に目覚めたら『戦乱中国の英雄たち』を読もう!

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お待たせしました『魔道祖師』『陳情令』ファンのみなさん!

『すばる』2023年6月号のあとに本書を手に取る方は、第6章から入ってもよいでしょう。

『魔道祖師』の作者・墨香銅臭氏も大ファンであるという、金庸作『笑傲江湖』から話が始まります。

と、ここで少々脱線しますが、本書で使用されている『笑傲江湖』のジャケットは2001年版です。

すでに20年以上が経過し、その後、ドラマ化されているにも関わらず、2001年版が用いられていることには理由があります。

それ以降のドラマ版は、全てハズレだから。

日本のVOD配信は2013年版と2018年版が見やすいですが、どちらも原作ファンが「あのドラマのことは記憶から焼き消してくれ……」と嘆くほど酷いものでして。

2013年版は、佐藤氏が注目する大物プロデューサー・于正が手がけているのに、その写真が使われていない。その時点で察せられます。

佐藤氏は、武侠ドラマについては張紀中プロデューサーの方が好きなようです。

この『笑傲江湖』の解説から読み進めると、『魔道祖師』のドラマ版である『陳情令』に到達します。

と、ここが重要です。

『陳情令』ファンを狙うなら、いきなりその話をすればよいわけです。

しかし、そうすることで、元となり、墨香銅臭氏もオマージュを捧げた『笑傲江湖』が出てこなくなってしまう。すると深読みができなくなる。

ファンだからこそ深く、深く読み込む。そういう需要に、本書はマッチしているんですね。

こういうことは佐藤氏だからこそできたことであり、本書の重要なところ。なまじ大ブームになる前だからこそ、実現した構成かもしれません。

『魔道祖師』と『陳情令』ファンならば、本書は必読です。

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これぞ「錦嚢妙計」である

本書を誰が読むべきか。

それをつらつらあげてきましたが、一番手に取って欲しいのは、これから中国時代劇を見始める方です。

中国時代劇から作品をチョイスする上で、まず何を参考にしたらよいのか――そんな圧倒的な情報量不足の中で最適な一冊だと思うから。

例えば『すばる』増刷の記事にせよ、私としては「中国のファンタジー小説」という紹介に引っかかってしまう。仙侠小説とは書けないのか……と思っても、まぁ、いきなりは無理なのでしょう。

ジャンルをどう呼ぶか。どんな作品があり、どう分類されているか。日本ではそこすらまだ定着していません。まだ歩み始めたばかりで、しかも、目の前には罠がある。

日本版のタイトルはなんでも「ラブ史劇」(この呼び方もどうにかならないのか?)と誤認識させようと罠を仕掛けてきます。

硬派な作品でも甘ったるいサブタイトルをつけ、美男美女をジャケットに使ったり。

三国志始皇帝がらみだとひっかけようとしたり。

SFや架空の舞台であることがわからなかったり。

マーケティングのため、罠を何重にも仕掛ける諸葛孔明揃いなのです。

だからといって日本人が、現地の情報を調べたり、豆瓣(Douban・中国最大手レビューサイト)を見るなんて、さすがにハードルが高すぎる。

そんな孔明の罠を避けるためのガイドが、本書になります。

中国時代劇のよくあるお約束として、錦嚢妙計があります。軍師が錦の袋を相手にそっと渡し、こう告げるのです。

「危機が訪れたら、この袋の中の策をごらんなさい……」

そして、いざピンチのとき袋の中から計略を取りだすと、絶体絶命を切り抜ける妙策がそこにはある。

本書を一言で表すならば、いわばこの錦嚢妙計です。

最近、中国時代劇が面白いって言うよなぁ……でも、作品が多すぎて、どれを見たらよいかわからん!

そう迷ったら、とりあえず本書を参照してみましょう。

『陳情令』めっちゃ面白い! もっと知りたい、でもどこから始めたらいいの?

そんなあなたも本書を手に取りましょう。

大河で新しい試みっていうけど、なんか違うんじゃないか?

そうイライラした方にだって、本書は効きます。

中国時代劇を、知識や世相を背景に読み解く――ありそうでなかなかない、もっと読まれるべき一冊が本書。

この錦嚢妙計をぜひ、手に取ってみてください!

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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考】
佐藤信弥『戦乱中国の英雄たち』(→amazon

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