魔道祖師魏ポスター/amazonより引用

陳情令・魔道祖師

陳情令と魔道祖師の女性キャラ考察~虞夫人 金珠&銀珠 江厭離 温情 孟詩 秦愫

日本における中国時代劇は、かつて男性が鑑賞するものとされていました。

三国志』や『水滸伝』あるいは始皇帝ものにせよ。

髭をたくわえた男性たちが陰謀をめぐらせる――重厚なものとされてきたのです。

映画も同様。ブルース・リー、ジャッキー・チェン、ジェット・リー、チョウ・ユンファ、ドニー・イェン……など錚々たるアクションスターは激しい戦闘シーンが人気でした。

それが2020年代に入ると、様相がガラリと一変。

ラブ史劇!
美男子揃い!

そんな甘い紹介が登場し始めます。

象徴ともいえるのが、佐藤信弥氏の華流ドラマをテーマにした新書『戦乱中国の英雄たち』(→amazon)でしょう。

タイトルからは既存の男性視聴者層へアピールが感じられますが、帯には『陳情令』と『三国志 Secret of Three Kingdoms』のメインビジュアルが採用。

幅広い読者層を意識した宣伝戦略を感じさせるのです。

要は女性ファンが急増しているんですね。

中でも、とりわけ象徴的な作品となったのが『陳情令』です。

美しい男性同士が繰り広げるブロマンスファンタジーが女性の心をとらえ、さらに劇中には、魅力的でたくましい女性キャラも多数登場します。

かつて東洋には、強く女性がいた。

男性も、女性の美貌だけではなく、才知と勇敢さを愛していた。

そんな価値観を蘇らせるためにも、この作品はオススメ。

◆【流行語大賞】「ジェンダー平等」持続可能な開発目標の1つ/選考理由(→link

2021年の流行語大賞では「ジェンダー平等」が挙げられましたが、実はこの概念、東洋では最近生まれたものでもなんでもなく、

・男性は龍
・女性は鳳凰

として、互いに支え合い、この天地が成立するという思想があったのです。

そこで本稿では「ジェンダー平等」が存在する世界観――華流ドラマにおける女性像を『陳情令』から見て参りたいと思います。

【TOP画像】魔道祖師魏ポスター(→amazon

 

虞夫人~母なる虎の誇り

『陳情令』は時代背景が明確にされてはおりません。

しかし、複数の要素から魏晋南北朝が近いと推察できます。ジェンダーの観点からもそれはあてはまります。

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この時代は貴族の時代。

中国史における貴族とは、魏晋南北朝時代から唐末期までに存在しました。そこが日本や西欧とは異なります。

そして貴族の時代は、母方の血筋が重視され、五大世家に反映されています。

典型的なのが虞夫人こと虞紫鳶(ぐしえん)です。

鳶とはトビのこと。紫電をもち、トビのように猛々しく戦う彼女にぴったりです。

イラストにせよ、写真にせよ、いつも怖い顔をしている。にっこり笑うところはあまり見かけない。魏無羨にやたらと辛く当たります。

魏無羨が「あんなに気が強い女性は知らない」と振り返るほど強烈な性格。

しかしそう語るとき、魏無羨の口調からは呆れるだけでなく、敬愛のようなものも感じさせるのです。

彼女のモチーフとして武侠作品から推察できるのは、金庸『神雕侠侶』に登場する黄蓉です。

主人公である楊過を引き取るのですが、彼の父に悪感情があることもあり、厳しくあたります。

黄蓉は前作『射雕英雄伝』でヒロインをつとめていただけに、結婚して歳を取ったらこんなに嫌な女になるのかと失望されることも多いのです。

※1:37前後、険しい顔で恋に反対している女性です

※かつての姿は1:10頃から

ただし、この虞夫人にせよ黄蓉にせよ、考えたいことはあります。

彼女たちは生まれつき性格がキツかったのでしょうか?

黄蓉は性格が強烈な父親に似ており、そうだと思いたくもなりますが、そう単純な話でもありません。

黄蓉の場合、父・黄薬師が伝説的な強者である“東邪”とされています。

黄蓉の夫である郭靖にとって、黄薬師の娘婿となることは名声を高めることでもありました。

虞美人の場合、親の性格はわかりません。

ただし、実家の眉山虞氏が強く、彼女自身はその一族の中でもトップクラスであった実力が伺えます。金子軒の母とも親友であり、名門の人脈構築が見て取れます。

そして何といっても彼女の武器である、紫電!

あれほど強いものはそうそうない。彼女を娶れば、紫電もセットになる。これは大きなメリットです。

名門に輿入れしたとしても、彼女には卑屈になる理由はありません。男に生まれたかったと悔しがることもありません。

妻として、この私こそが江氏を磐石にする。そのくらいの誇りがあったとしても不思議はありません。

実家という後ろ盾がある女性は、ありのままに強くふるまうことができたのです。

 

金珠と銀珠~女主人とともに戦う侍女

そんな虞夫人がいかに権勢があるのか示す要素として、侍女の金珠と銀珠がおります。

侍女は花や動物のような愛らしいものの名をつけられることが定番。金と銀の珠いう華麗な名は、きらびやかなものを好む女主人の性格を思わせます。

ただの侍女かと思っていたら、実は強い!

女主人とともに戦うだけの戦闘力があります。

こうした侍女は中国の文学や時代劇ではおなじみの存在。女主人にぴったりとつき、身の回りの世話をやき、ときには情報を集めます。

対立する女主人同士がいると、主人たちは争わないかわりに、侍女たちが口論をするのはお約束でした。

「あんたのとこの奥様、ほんっと、派手好きで悪趣味だよね。このあいだ着てた服、悪趣味だっていい笑いものだよ」

「ふん! そっちの奥様みたいに、みじめたらしい服を着回しているよりずっとマシだよ!」

通りがかってこんなふうに喧嘩する侍女同士がいると、グッと古典らしさがあがります。

中国古典を知っていて、時代劇を見慣れていると、おなじみの光景なのです。

また、夫の浮気をマークする役目もできます。

金珠と銀珠がついていながら、江楓眠が他の女性を愛せるかというと、厳しいものがあることはご想像できるかと思います。

実はとても重要、それが侍女です。

 

江厭離~心やさしき最愛の師姉

名門の出身であり、母はあんなに強気だけど、似ていないのが江厭離。

名前の厭離は「離れるのはいや」。なんとも愛くるしい名前です。

そこは疑問となるでしょう。気の強い弟・江澄とは大違い。魏無羨にとって憧れの存在です。

彼女は魏無羨の師姉(中国語では師姐)。同じ門派に入門し、かつ順番が早い、姉弟子という意味です。

武侠ものでは同門弟子同士の恋愛はお約束であり、武侠ものの男性にとって初恋の相手が「師姉」または「師妹」というのはパターンとなっています。

得意料理は、蓮根と骨付き肉のスープ(蓮根排骨湯)です。家庭的で素朴な味とされます。この手の料理では、そこまでハードルが高くなく、家庭でも再現できます。

 

ちなみに、前述した黄蓉が披露した料理である乞食鶏(叫化鶏)は、鶏をまるごと泥で包み込んで焼き、叩き割るという豪快なもの。

まず一般家庭では再現できないため、悔しがった金迷(金庸ファン)も多いとか。

 

彼女は仙師としての才能はなく、平凡であるとされます。

これは相対的な比較によるなものかとは思えます。母ほど強くはないのでしょう。

虞夫人のような高い武力や、知識で動きを封じる能力のある温情のような能力があると、彼女は退場までかなり大変な手間がかかります。

早い話が、剣で刺された程度では死ねなくなるのです。

 

温情~“侠”を抱き、人を救う名医

岐山温氏の配下にいる大梵山温氏。温情は一族名医です。

ドラマ版では医者でありながら仙師としても力を発揮します。

その名は説明が不要でしょう。情深い女性です。

魏晋南北朝を扱う物語において、名医といえば華佗がおります。東洋医学において尊敬を集める人物です。

曹操に治療を施すものの、彼に無断で帰郷をするといった反抗的な態度をとったため、処刑されてしまいます。

曹操は我が子・曹沖が夭折した時、自身が頭痛に悩まされたとき、華佗の処刑を悔やんだとされています。

そんな華佗はフィクションでは便利な扱いをされ、関羽の手術をする名場面が追加されます。

これは今も続いており、『三国志 Secret of Three Kingdoms』では華佗一門が謎の暗殺術を伝えていて、そこに郭嘉すら関わっていたような描写にされています。

このように、フィクションにおいて医者は便利な扱いをされます。

『ブラックジャック』よりもはるか昔から、中国文学における医者はド派手な活躍をさせられるのです。

そんな医者ですので、温情は魅力的な女性であっても、恋愛対象として扱われることはあまりありません。

彼女自身、自分の技術を人命救助と弟の温寧はじめ一族の保護に使う、義侠心に富んだ性質を持ち合わせています。

温情はそんな医者らしい能力を発揮できます。ツボを用いて動きを止められるのです。

魏無羨がこのせいで動きを封じられ、その隙に彼女は出頭して金光善のもとへ出頭してしまいます。

ちなみにツボを押したり鍼を打つくらいで動きを止めること。これは武侠において【点穴(てんけつ)】と呼ばれる定番技能です。

『北斗の拳』における「秘孔」の元となっています。

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彼女の魅力はその“侠“にあります。

ドラマ版において、彼女の恋愛エピソードが追加されました。江澄が彼女に淡い恋心を抱き櫛を贈るのです。そして温氏から離れるのならば……と好意を伝えます。

しかし温情は、自分だけが幸せになることに納得できません。弟の温寧はじめ、大梵山温氏を守らなければ意味がないと断るのです。

ここで温情は、江澄が“侠”の持ち主であるか、確認したとも思える場面でした。

“侠”とは何か?

それは魏無羨のあの言葉に集約されています。

「この魏無羨が、一生悪をくじき、弱きを救えるように」

自分の力で弱い人を救うこと。これぞ“侠”です。

彼女は自分個人の幸福よりも、一族全体のことを考えました。

愛だけではなく、“侠”がある相手でなければ、そばにはいられない。それが温情です。

櫛を贈られようと、その美しさを愛でられようと、彼女にとって意味はありません。

温情と似た人物として、2021年大河ドラマ『麒麟がくる』の駒があげられます。

駒は周囲に人助けを頼み続け、誰かと結ばれることは二の次。自らも医術で人助けをしようと奔走します。温情と並べると、駒が理解しやすくなると思えます。

温情は悲運の中で散りましたが、“侠”で幸福を掴んだ女性もいます。

女性登場人物に厳しい運命が降りかかる中、最も幸運と思われる、羅青羊(らせいよう・愛称は綿綿)です。

商人と結婚後も、人助けのために夜狩を続ける羅青羊。結婚後もキャリアをあきらめない彼女からは、“侠”を理解する夫を見つける意義を感じさせます。

愛情だけでなく、価値観や正義感が一致することも大事。そう彼女たちは示しています。

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