青天を衝け感想あらすじ

青天を衝け第39回 感想あらすじレビュー「栄一と戦争」

青天を衝け第39回感想あらすじレビュー

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青天を衝け感想あらすじレビュー

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日清戦争に勝利し、平九郎に報告する栄一。

「頭ん中がムベムベして……」というセリフが回想されます。

このころから『おねがい社長』のような言葉遣いでしたね。それでも「悲憤梗概」と使っていただけ、まだ脚本に余力があったかもしれません。

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この場面は意外と大事。水戸学の徒が何を目的としていたのかがわかります。

清を倒し、日本こそ東洋の盟主だと示したかったのです。

本作は不可解にも「水戸学」という単語は出していないのに、渋沢栄一周辺の言動にはその要素が残されている。

本気で水戸学の洗い出し、問題点をまとめていたら、こうはならないはずですが、それは後述するとしまして。

 


ケイキとケーキ

栄一は慶喜に会いに行きます。

1838年生まれで、日清戦争当時50代後半だった渋沢成一郎が白髪頭なのに、1840年生まれの栄一は申し訳程度にしか白髪がないのが不思議でなりません。

若干、加齢が進んでいる慶喜については、いかにも「いい人」だと表現したいようで、苦い思いが湧き上がってきます。

江戸城無血開城を丸投げして、助けて貰った勝海舟については、勝が死ぬ間際まで会いに行こうともしませんでした。

駿府まで来た永井尚志については、面会拒否……。

永井は大政奉還の立役者であり、二人とも慶喜を命を守った重要人物です。

それに会おうとすらしなかったのが慶喜でした。

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惇忠なんてどうでもいい。大口ばかり叩き、ろくに役立っていない印象しかありません。

渋沢一族を持ち上げるキャンペーン、あるいは人の死でしか盛り上げられない本作ならではの展開にも見えてきます。

高校生のようにニタニタした栄一を見ると「この文化祭もそろそろ解散だな」という気持ちだけになってくる。

かと思ったら、妙にイキイキしているのが家康。慶喜の東京帰還を嬉しそうに話し始めます。

それだけならまだしも、慶喜が「ケイキさん」と呼ばれたことから「中国のケーキ」という風刺画へ話を飛ばす。

一体なんなんでしょう。

日清戦争の勝利を契機に、欧米列強が清に乗り出していった風刺画を嬉しそうに語ってしまう家康――実に危険です。

今どき風刺画を無邪気に扱うのって、世界中を見回しても日本ぐらいでは?と思えるほど時代錯誤。

清にしたことを手放しで褒める国なんてあるのでしょうか。イギリス人著者の歴史書でも、恥ずべき過去として扱われています。

映画『北京の55日』は1965年であり、もう半世紀以上が経過しているわけです。

劇中の人物が戦争勝利に湧くとしても、著者目線を代替えしている【徳川家康】に喜ばせたらマズいでしょ……。

 


ロシアが敵だ、というその背景で

明治36年(1903年)6月、栄一はアメリカを訪れます。

アメリカの新聞でも、日本の金融王として紹介され、首都ワシントンでルーズベルト大統領と共同会見。

大統領が民間人と交流するなんてスゴイ!

と演出してゆくわけですが、いつぞやの放送では英語を解していた栄一が通訳にほとんど丸投げで拍子抜けしました。

しかも本場英語圏のドラマではありえないほどわざとらしい会見演出であり、まるで昭和の英会話教室の宣伝ではありませんか。

そして渋沢の邸宅へ。

フランスもアメリカも日本も、明治村セット感が凄まじく、岐阜県に観光へ行きたくなるほど。野外民族博物館リトルワールドが近いんですよね。犬山城もあるし、鶏ちゃんやおいしい栗きんとん、それに五平餅を食べたくなります。

岐阜県から画面へ気持ちを戻すと、優生学信者の穂積も加え、実に危険な会話をしています。

要するに帝国主義肯定の会話。彼等はロシアが敵だと言い出します。

韓国が豊かな国に育てば、ロシアや西洋に対抗できる――そう語る栄一は、背景にイギリスの思惑があった話です。

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歴史の授業で習った、フランス人画家ビゴーの風刺画を覚えていらっしゃいますか?

ロシアに立ち向かう日本人の背後に、ニヤニヤしながら立っているイギリス人とアメリカ人。要するに、英米の思惑ありきで、そこを誤魔化している(あるいは見落としている?)からこうなる。

そして出ました、韓国のこと。

渋沢栄一が主役なのに、彼が朝鮮半島で何をしたのかサッパリ描かない。

このセリフからすると、まるで栄一が朝鮮半島のためによいことをしたかのように思えますが、詳しくは後述します。

すると渋沢兼子がツッコミを入れてきました。

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大島優子さんは今週も魅力的ですね……と、それはさておき、この時代の女性がここで口を出すってどうなのでしょうか。

本作では誤魔化しておりますが、明治政府はゴリゴリのミソジニーに凝り固まっています。

 


仁義の戦であったなら

児玉源太郎井上馨が出てきて、さらっと富国強兵論。

栄一は依頼を受け、国債購入を呼びかけます。戦争こそ国を富ませると言い出すのです。

ただし、肝心のスピーチがなんというか……セリフの中身をちゃんと噛み砕けていないような雰囲気で、身に迫るような説得力が感じられません。

演じる俳優さんが明治以降「ちんぷんかんぷん」とインタビューで語っていた弊害が出ているのかもしれない。

そしてこんなセリフを……。

「仁義の戦であったなら戦後必ずその国は反映する!」

すごいブーメランを投げました。

「このたび日本がロシアと戦うのは仁義の戦である!」

「大日本帝国ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい!」

マネキンのようなモブキャラたちが万歳三唱。息子の渋沢篤二も所構わず睨みつけているのが、お父さん似ですね。

と、思ったら、その父ちゃん栄一が倒れた。

病気となれば、ほとんど必ず劇的に倒れる本作はやはり医療考証をしていないのでしょうか。

それにしても経済に長けた渋沢なら、戦時国債に頼る時点で反対しないのか?と突っ込みたい。

日清戦争で儲かったからって、その後、戦費を国債に頼るようでは自転車操業にも程があるでしょう。一体どこが経済通なのでしょう。

「仁義」という言葉も空虚すぎます。

「論語読みの論語知らず」とは、まさしくこの栄一のことでは?と脳内で墨子が突っ込みます。

「あのさぁ、人を一人殺したら殺人で悪いってなるのに、戦争で正義だなんだといって大勢殺すのはありって何? もうわけがわからん。そこで私は兼愛を説くわけなんだよね」

墨子には、チャップリン『殺人狂時代』を先じる思想があります。

「戦争や紛争、これは全てビジネス。1人の殺害は犯罪者を生み、100万の殺害は英雄を生む。数が(殺人を)神聖化する。」

墨子は孔子批判が手厳しい。墨子が語るところの「ダメな論語野郎」そのものが本作の渋沢栄一です。

ただし、渋沢栄一と本作の『論語』解釈に問題があるだけであって、『論語』はよい点もあります。

興味があれば小島毅先生の本でもどうぞ。渋沢栄一と無理矢理絡めた本は推奨しません。

 

明治人の気概がなさすぎる

栄一は病で倒れました。

篤二は「戦争の時に限って戦になる、体質に合っていないかもしれない」と言い出しますが、これってつまりは「反戦主義者です」というアピールですよね。

日露戦争の最前線にいた『ゴールデンカムイ』の杉元たちからすれば「おるああああああ!」とキレ出しそうな話だ。

戦争で生きるか死ぬかだというのに、老人が一人、手厚い看護を受けて「お覚悟」だのなんだの言われたところで「だから?」としか言いようがありません。

砲弾に当たったら、痛いと思う前に死――そんな戦場の凄絶さと比較したらこれは一体何なのか。

本作は、主人公よりもはるかに苦労し、生死の境を彷徨った人々がいる場面をすっ飛ばし、大仰に「かわいそうな僕ちん!」アピールをする人物ばかり。心から悲しくなってきます。

そんな栄一ですが、慶喜が見舞いにやってきたことで、なぜか回復します。

まさしくスピリチュアル作品の真髄ですが、現実的に考えて慶喜効果ではなくお金でしょう。

渋沢家は病気になったら惜しみなく金を使う。庶民は一家揃って結核に罹り、亡くなることもありましたが、渋沢家はいつでも余裕がありました。

「生きてくれ。生きてくれたらなんでも話そう」

そんな慶喜に対し、渋沢栄一はやつれもせず、わざとらしく髪の毛を乱し、目を潤ませ、イケメンぶりを輝かせます。

みるみる回復したと言いますが、そもそも重症だったのでしょうか?

そしてこのやりとりで、本作が武士の規範を理解していないとハッキリしました。

主君が家臣を見舞ってこの低姿勢。一体何なのか。それを平然と受け止める渋沢栄一も全くもって非常識としか思ません。

本作はそういう明治人の気概がカケラもないのです。

だからコスプレドラマだと言いたくなる。こんなだらしない明治人は目の毒。

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