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【青天を衝け第39回感想あらすじレビュー】
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小人の過つや必ず文(かざ)る
今週の漢籍です。
と、その前にまずはこちらの記事から。
◆ 青天を衝け:「想像を超えた」円四郎暗殺 脚本家・大森美香が回顧「映像になるとこんなに悲しいんだ」(→link)
脚本家へのインタビューですね。
大森さんは、暗殺シーンについて、「慶喜さんと平岡さんの相性もすごくよくて、毎回放送を見て楽しみにしていたところもあったので、『あぁ、本当に死んじゃうんだ』と思って……」と振り返り、「映像になるとこんなに悲しいんだという気持ちになりました」と明かした。
フィクションだからと自分をなだめつつも、どうしてたってこんな疑問符が湧いてきてしまう。
・両側から袈裟がけに斬られたら、声をあげる間もなく即死するのに?
・危険な暗殺現場に慶喜がホイホイ来るのはおかしい
・そもそもが慶喜の態度が殺害の背景にある
無邪気なのか。それとも知っててわざとやってるのか。あるいは、単に調べてないのか。
こうも自画自賛ばかりされると、ツッコミばかり浮かんでくる自分が、とても心が汚れた人間のように思えます。
孔子よ。私は間違っているのでしょうか?
『論語』に聞いてみましょう。
小人の過つや必ず文(かざ)る。
器の小さい奴は失敗しても認めず、綺麗事を言う。『論語』「子張」
やはり『論語』は役に立つなぁ。
『論語』を学んでいたら、自画自賛なんてできないはず。
手元に『麒麟がくる』の脚本家と主演のインタビューがありますが「私たちってすごい!」なんて言わず、そこには大人の知性と落ち着きがありました。
素朴に疑問なのです。恥ずかしくないのだろうか?と。
◆青天を衝け:脚本家・大森美香が明日「あさイチ」登場 大河執筆秘話、吉沢亮が語る“大森脚本”の魅力(→link)
◆NHK大河「青天を衝け」離婚危機乗り越え、今度は息子が放蕩 病に倒れた栄一の願いとは…第39回見どころ(→link)
こちらの記事を読むと、見ているほうが恥ずかしくなる。
ドラマ本編と同じく共感性羞恥心を刺激する文章です。
思えば日本の歴史を学ぶ上で、過去の鎌倉・室町幕府の最後の最高権力者たちは、史実の中にどこか“敗者感”が同居していたような記憶がある。
だが、慶喜に対しては、そのようなイメージは少ない印象だ。
もしかすると栄一の名誉回復運動が奏功していたのかもしれない。
鎌倉幕府の敗北者は悲惨な末路であるし、室町幕府も、義昭はともかく義輝は凄絶な死を迎えています。
義昭は織田信長との対比上、フィクションでさんざん貶められてきた印象もあるでしょう。
慶喜の敗北感が薄いとすれば、それは渋沢栄一ではなく、イギリスのパークス、それに勝海舟、山岡鉄舟を誉めて欲しい。
渋沢栄一は慶喜の首がかかった局面で何もしておりません。
もしも慶喜が腹を切っていたら、当然のことながら悲惨な敗者であったことでしょう。ステルス討幕派で長州藩ともテロリスト仲間であった渋沢栄一のことです。「将軍がああなったのは因果応報だよね」だの言っていても不思議はない。
さらに、今作躍進の立役者の一人・徳川家康(北大路欣也)も3回の休みを経て登場。
江戸幕府が倒れ出番が減ったものの、今でもSNSでは登場のたびに「家康キターーッ」と大盛り上がり。オープニングロールで名前がないと、がっかりする声が相次ぐ。
同局の前田晃伸会長も家康ファンの一人。今月の定例会見でも「やっぱり家康がね(面白い)。最初はどうなるかと思ったけどね」とニコニコしていた。
「家康キターーッ」というのは、2000年代の大手掲示板らしい言い回しで……もうなんというか……。
今は昔と違って流行の回転が速い。昭和おじさんの「当たり前田のクラッカー」と同じようなもんです。
NHK会長が誉めているのはただの「自画自賛」であって、緊張感もなにもない。
取材中にそれを指摘せず、そのまま書いて満足して。ここまで幇間芸ができるからこそのNHK担当なのでしょう。
◆ 青天を衝け:家康の登場は最後まで? 北大路欣也「出たい」の意思尊重 ドラマPは「助けていただいた」と感謝(→link)
そして、しょーもない文化祭の内輪ノリを見せられたのがこちらの記事です。
そんなときに北大路さんから言われたのが「(最後まで)出たい」の一言だったといい、「北大路さんから『お話があります』と声をかけられて、そこで『出たい』と。『家康はこの話を最後まで見届けたいんです』とおっしゃってくださって、感動してしまいました」と菓子CP。
プロットにさして関係のない文化祭寸劇のために、国旗逆さまに映して謝罪するという大河史に残る愚行をしたにもかかわらず、この調子ですよ。
このCPは『花燃ゆ』のCPよりも厚かましくてたいしたものだと思います。
俳優が出番を増やせといったから聞き入れました――って、だから何ですか?
『麒麟がくる』で、激昂した信長が、光秀を蹴るようにしたいと提案した長谷川博己さんには感動しました。自分は蹴られるわけだし、甲冑でのアクションは大変だ。
それでも妥協せずに応じるスタッフにも、染谷将太さんにも、流石だと思いました。
書き手には、こう聞いて欲しいところでした。
「パントマイムをする前に、国旗の向きを確かめる時間はなかったのでしょうか?」
近きを以て遠きを知る
次は荀子から。
近きを以て遠きを知る。
ちょっとしたことでもみていけば、大きな何かが見えてくるぞ。
『荀子』
アブダクション=仮説形成という呼び方もできます。『麒麟がくる』では光秀が使っていました。
朝倉義景の治める城下町で世間話をする。戦道具を作っていないし、民衆は弛緩し切っている。
これでは勝てないと光秀は察知し、そのことをズバリと言ってしまうものだから、かえって不興をかってしまっていました。
でも、光秀は正しい。朝倉は弱かった。
『鬼滅の刃』でも使っています。なかでも冨岡義勇が得意。
『鬼滅の刃』呼吸で学ぶマインドフルネス~現代社会にも応用できる?
続きを見る
こういうことを大河でもできるんですよね。
たとえば草彅剛さんの慶喜絶賛コタツ記事が毎週出ていますが。
◆草なぎ剛“慶喜”&川栄李奈“美賀子”の絆に感動の声!<青天を衝け>(→link)
鳥羽伏見の戦以降、一貫してすべての責任を負う姿勢を貫き続ける慶喜の憂いに満ちた表情には、戦で命を落とした者たちを思い過ごしてきた年月が深く刻み込まれているようだ。
そんな佇まいを感じさせる慶喜役・草なぎの演技に、視聴者からも「慶喜様の佇まいから目が離せない」「草なぎくんの慶喜公は大河の歴史に刻まれる名演だと思う」「しみじみ名演。草なぎさんの佇まいに胸が締め付けられる」といった感動の声が続出。
慶喜と美賀子のしみじみとした愛情が感じられるシーンにも「2人がただ見つめ合うシーンが切なかった」「表情だけで2人の歩いてきた日々の重さが感じられた」の声が上がるなど大きな注目を集めTwitterでは今回も「#青天を衝け」がトレンド上位に浮上した。
この記事の精度は低いとわかる。ここです。
Twitterでは今回も「#青天を衝け」がトレンド上位に浮上した。
Twitterのアルゴリズムを知っていれば、これは不思議でもなんでもない。
あれはアルゴリズムで一定時間に多数のツイートがされれば浮上するしくみなので、VODのような試聴時間が決まっていないものよりも、大河は有利です。
大河視聴者層は平均年齢が高い。
昔、大手掲示板で実況をしていた癖が抜けない40代以上が多くを占める。
ゆえにTwitterではトレンドを取りやすい。
しかし、現実を見ましょう。
本物の若い世代に「徳川慶喜といえば?」と聞けば彼の名前があがる可能性が高い。
山田裕貴さんです。
◆山田裕貴:「燃えよ剣」で冷静、冷酷な徳川慶喜に「こんな将軍がいたら嫌だなぁ」を体現(→link)
だってこうですから。
◆高校生が選ぶ「今年一番活躍したと思う男性有名人」! 3位はコムドット・やまと、2位は山田裕貴、1位は?(→link)
本作の土方歳三も、映画『燃えよ剣』岡田准一さんと重なり、新春時代劇では向井理さんが演じるので、埋没するんじゃないかと私は危惧しています。
ただ、今年の大河がハズレとして沈むのは仕方ないとしても、大河の枠ごと消えてしまうのはあまりに心苦しい。沈むならひとりで……私の切実な願いはそれだけです。
ここ数年の大河を枠で観察していて気づいたことがあります。
『青天を衝け』って、実はアジアで全然話題になっていないのです。
大河そのものが弱いわけでもない。
『麒麟がくる』の染谷将太さんの織田信長は海外でもかなり受けてました。多くのファンが楽しんでいたし、来年もワクワクしながら見守っています。
理由は明らか。
幕末明治を手放しで礼賛して喜んでいるのって、日本ぐらいなんです。
戦国武将を熱く語る人でも、幕末の話になると「あ、そう」となる。歴史そのものには興味があっても、無邪気に礼賛してはしゃぐノリにはついていけないのです。
一番顕著なのが吉田松陰ですね。
松陰の思想の読解は、むしろ中国語圏が強い。ゆえに「熱血教育者だよね」と回り道する日本人よりも、ズバッと「暗殺テロ計画で死刑にされた思想家」という点に素早く到達します。
『青天を衝け』を見ていると、思い出す感覚があります。
「日本でiPhoneはウケないよね。デコメないし!」
「やっぱりソニーのiPhoneでないと」
といった、ワケのわからない、まさしく夜郎自大の感覚。こんなもん見ている場合じゃないですよ、韓流ですよ、韓流!
華流もね。
◆数字で見る、“華流”エンターテインメントのスゴさ(→link)
月明星稀
大河枠に懸念はあれど、来年を考えると希望はあります。
と、その前にこちらの歌でも。
月 明らかに星 稀(まれ)に
烏鵲(うじゃく)は南に飛ぶ
樹を繞(めぐ)ること三匝(さんそう)
何(いず)れの枝にか依(よ)るべき
月が煌々と輝くと、星の光は見えなくなる
カササギは南へ飛んでゆく
止まるべき木を探してぐるぐる回るんだが
どの枝に止まるべきかわからない
曹操『短歌行』
漢詩らしい比喩です。
「グレートな英雄が現れたら小物どもは目立たなくなるぜーッ!」
こういう曹操のドヤ顔ですね。
いつ詠んだのかは特定できないのですが、盛り上げるために赤壁の戦いで詠むことがフィクションでは多い。そのあと負けたからじわじわくると。
なぜこれか?
それは『鎌倉殿の13人』情報が出るたびに、まさしくこの「月明星稀」が脳裏をよぎるのです。
ニュースを観察していてもわかります。
◆新垣結衣、大河ドラマ役衣装姿で飛び出した“2つの懸念”(→link)
この記事を読めばどこが盤石なのか、読めてきます。
自信がなければ、ともかく誉めるべき記事を量産させるため、ネタを流すでしょう。不自然なまでに褒め称えるのが駄作でありがちな展開です。
しかし、些細な難癖だって吹き飛ばせると、自信満々であれば小細工は無用。
こんなネットの声を拾い、針小棒大に書く記事が出るということは、本作の作り手は自信満々に構えているということではないでしょうか。
それにこの新垣さんといい、次の大河は髪の毛や唇がテカテカしておりません。
海外の『ゲーム・オブ・スローンズ』では、リアリティ重視のため、出演者がシャンプーを禁止されていました。
大河のシャンプー事情はわからないけれども、ともかくツヤツヤした髪で時代考証がなっていないヘアメイクは回避したワケです。
小手先のウケ狙いをするのではない、自信と誠意がある。
キラキラした輝きでなく、しっとりとした味わいで新垣さんが勝負に出たのだとすれば、喜べない理由がひとつもありません。彼女は一歩先へ踏み出しました。
そして小池栄子さんの北条政子もいい。
中国代表・武則天、朝鮮半島代表・善徳女王。そんな支配する女性アジア圏代表として推せる……次の『シヴィライゼーション』にも推せる! 堂々たる気配を既に感じさせます。
2022年、大河という月が煌々と地を照らす。これほど素晴らしいことはありません。
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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◆青天を衝け感想あらすじレビュー
◆青天を衝けキャスト
◆青天を衝け全視聴率
文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
青天を衝け/公式サイト