歴史書籍

キングダムファン必読の関連本5冊 史実に触れ背景を知り作品を堪能す

2022/07/31

人気漫画『キングダム』。

2019年には実写版映画も公開され、その後の人気もとどまるところを知りません。

 

信を中心として泥臭い連中の熱い人間関係がなんといっても魅力的なのでしょう。今後もまだまだ手に汗握る展開は続きそうです。

そこで!

これを機に原作コミックスだけでなく、史実に基づく時代背景や人物像をおさえてみてはいかがでしょうか?

特に始皇帝は「この一冊!」という良書があり、政を知るのに最適な環境が整っています。

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本稿ではオススメの書籍4冊をご紹介させていただきましょう。

 


『孫子』および『魏武帝孫子』

史実でもフィクション作品でも、始皇帝は嫌われがち。それはなぜか?

なんと言っても儒教的な仁義といった価値観を無視した結果でありましょう。

情けを重視する暇があるなら、戦争の勝利を徹底的に目指すべき――。

そんな超現実的な理論を突き詰めた始皇帝が、参考としたのが『孫子』(→amazon)でした。

キングダム世界観の前提となる書物と言っていいでしょう。

始皇帝も、その配下の将軍達も、あるいいは敵対する者たちも。彼らは皆『孫子』をしっかりと頭に叩き込み、勝利を目指したものです。

日本も例外ではありません。

武田信玄はじめ、多くの戦国武将が学んでおりました。

欧州はナポレオンが読んでいた――そんな説もあるほどで、

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現在でも、軍人やビジネスパーソンが読むテキストとして、活用されている。恐ろしい一冊です。

実は書物としての『孫子』は、かつて戦乱戦火に巻き込まれ、散逸の危機があったほどです。

それを自らコレクションし、徹底的に注釈を入れて残したのが『三国志』の英雄・曹操でした。

曹操は文人としての才能も凄まじく、例えば以下の文庫に自身の注解を入れた上でまとめられています(タイトルは『魏武帝孫子』ではありませんが同じ内容です)。

当時の人々が、戦争をどう捉え、認識していたのか?

キングダムファンだけでなく、中国史好きならば、読んでおいて絶対に損はない。貴重な内容です。

 


『周―理想化された古代王朝』

始皇帝は、実は暗殺未遂が実に多い人物です。

中国統一を成し遂げたからには、滅ぼされた側の怨恨があって当然ではありますが、そういう単純なことでもないようです。

儒教秩序を無視しすぎ。あまりに冷酷。

そんな批判がつきまといました。

【焚書坑儒】に代表される儒教弾圧の影響もあるでしょう。

そんな始皇帝へのアンチテーゼ、儒教の目指すものとして称揚された周とは何か?

あまりに理想化されているその実像に迫った一冊が、

『周―理想化された古代王朝』(→amazon

です。

こちらについては過去に書評を掲載してますので、手短に申し上げますが。

注目度高まる古代中国の実態とは『周―理想化された古代王朝』著:佐藤信弥

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周の実像だけではなく、周フォロワーとして右往左往した結果、最悪の結果を迎える王莽のトホホな屁理屈と転落までカバーしております。

実に勉強になります。

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『中国古代史研究の最前線』

そもそも中国古代史を勉強するとはどういうことなのか。

わかっているようで、わかっちゃいない。

そんな内実を、最新研究をふまえて、ぎゅっと凝縮しているのが本書『中国古代子研究の最前線』(→amazon)です。

こんなに中身があって、かつこのお値段でよいの? というお買得な一冊。

まぁ『キングダム』は面白いと思う。かといって、日本の戦国時代のように時代背景がつかめているわけではない。

どういう時代なのだろう?

そもそもこんな昔のことを、どうやって知るの?

研究と言われても、どうなっているのかわからない。何もかもわからない!

そんなあなたこそ、読むべき一冊です。

最前線というからには、ものすごく高度なところから始まっていたらどうしよう……そんな不安はいりません。読みやすい文章で、しっかりとつかみにゆきます。

こちらも以前に書評を掲載させていただきました。

『中国古代史研究の最前線』キングダム好きにも受験生にもオススメの理由

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歴史研究はどういうものなのか。

今、中国古代史において何が争点なのか。

と、過去の研究にあった問題点まで把握できます。

中国史を勉強してみたいという方にもおススメできます。新書プライスでこれが読めるのか……。

ため息つきたくなるほどありがたい、ミッチミチに内容詰まった一冊です。

 


鶴間和幸著『人間・始皇帝』

始皇帝の、最新研究をもとにした電気が読みたい。

そんな方に、自信を持って勧めたい一冊が本書です。

出生から、帝国の終焉まで。章ごとに区切り、丁寧に解説します。

本書のよいところは、始皇帝やその周辺人物につきまとう、後世やフィクションによるイメージを、丁寧に検証し、時には覆していくことです。

タイトルからもわかります。

人間としての始皇帝はどんな人物であり、どう生きたのか? そこに迫るのです。

そういう意味で、実に良いタイトルをつけたものだと思います。

センセーショナルな結果を狙うわけではなく、地に足のついた研究の成果が、ぎゅっとまとまっているのです。

本書で取り上げる重大事件として、始皇帝の母・趙姫に関するものがあります。

『キングダム』でも強い印象を残す人物ですよね。見た目も、インパクトがあります。

シンデレラストーリーのような出世。

その一方で、何人もの男性と関係を重ねた、悪印象。

彼女は一体何者だったのでしょうか?

趙出身の女性は、なぜ舞姫になったでしょうのか?

当時の彼女らのような存在は、どう見られていたのか?

そうした解説もあります。

ただの悪女、ひどい母親としてだけではなく、「人間・趙姫」の像が見えてくるのです。

淫乱であり、嫪毐(ろうあい)を寵愛した女性――それだけではない姿が見えてきます。

この偽宦官・嫪毐がわいせつな逸話を数多くを残すところから、彼女とセットとなって、どうしてもワイドショー的な興味関心ばかりで語られてしまいがちです。

果たしてそれが適切なのか?と、丁寧に踏み込んでいきます。

ここで、驚くべき秦の判例について触れられています。

ある女が、亡父の喪中に密通した。しかも、よりにもよって夫の棺の前であった。

どうすべきか?

この事件に対して「不孝は棄市」(斬首、首を晒し者にする)ではないかと議論になったのです。

と、これ、ちょっと引っかかりません?

中国といえば「貞女二夫に見えず」ではなかったのでしょうか。そうした儒教的価値観があるはず。

それがこの事件では「不孝」であるかどうか――そこが争点となったのです。

秦の法律だと、この場合は夫が死亡しており、夫の両親に対して「不孝」であるか、そこが焦点とされたわけです。

「密通」は、対象外。なぜなら、夫はもう死んでいるからです。

この事件のように夫が死亡している場合、他の男性と通じても、秦では「密通」としての処罰対象にならなかったということですね。

死人に対して、守るべき貞操はないという理屈になります。

なんとも冷静な判断ではありませんか!

これをふまえて、始皇帝の母子関係を見つめなおす――それが本作の検証法です。

後世の見方ではなく、あくまで同時代、同じ国の法律を参照するのです。理にかなっていますね。

趙姫と嫪毐の場合、始皇帝の父にあたる夫の死後に関係を持っています。つまり「密通」についてはあてはまりません。

はじめこそ、父に不実だと母に怒っていた始皇帝自身も、そのことを指摘されると認めています。情けだけではない、冷静な判断があったとわかるのです。

むしろこの事件を「密通」として大々的に取り上げたのは、漢代以降、儒教的な価値観を抱いた後世の人の方であったのかもしれない。そう思えてきます。

この一例のように、本書は驚きの連続です。

いかに自分が、凝り固まった意識で始皇帝を見ていたのか。漢代以降の道徳観で、秦をジャッジしていたのか。

そういう偏見が理解できます。

後世のバイアスの入った見方ではなく、当時の味方では秦はどのような国であり、始皇帝はどう解釈すべきか。そこまできっちりと仕切り直しているのです。

やはり物語というものは、魅力的なもの。

『キングダム』もそうです。

しかし、その反面、物語の印象で史実を歪めてみてしまうこともある。始皇帝のような有名人となれば、それは顕著になります。

そうではなく、きっちり史実にまでさかのぼる。それができる、しかも新書である。素晴らしい一冊であると思います!

図版、巻末人物紹介、年表。

そういった要素も充実しています。

これさえあれば、始皇帝関連はすぐに調べることができます。

『キングダム』で興味が湧いたら、次は何を読めばよいのか。

そう迷っているあなたに、自信を持ってすすめられる、そんな一冊です。

 

中国史の入口に最適なものばかり

ここで取り上げた書物は、コストパフォーマンス的にも優れています。

新書や文庫で揃うものですから、お財布にも優しい。

そうでありながら、側において読み返したい内容。かつ新書は新研究を反映しており、大変役に立ちます。このお値段でこの価値、買って絶対に損はしません。

中国の歴史を学ぶって、どういうことだろう?

古代中国史って何だろう?

そんな学ぶ入り口にも、最適なのです。

是非ともここであげた本を楽しみ、『キングダム』をより一層楽しんでください。

そしてここを始点として、中国史の世界へどっぶりはまってください!


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【参考】
金谷治『新訂 孫子 (岩波文庫) 』(→amazon
中島悟史『曹操注解 孫子の兵法<新装版> (朝日文庫) 』(→amazon
佐藤信弥『周―理想化された古代王朝』(→amazon
佐藤信弥『中国古代子研究の最前線』(→amazon
鶴間和幸『人間・始皇帝』(→amazon

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小檜山青

東洋史専攻。歴史系のドラマ、映画は昔から好きで鑑賞本数が多い方と自認。最近は華流ドラマが気になっており、武侠ものが特に好き。 コーエーテクモゲース『信長の野望 大志』カレンダー、『三国志14』アートブック、2024年度版『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』(キネマ旬報社)『覆流年』紹介記事執筆等。

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