阿野全成が唱える読経が室内に響いています。
並べられた首桶は、梶原一族のもの。
御家人たちから弾劾され、上洛を目指そうとする駿河で討たれたのです。
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その供養が行われていたのでしょう。
源頼朝が亡くなり、息子の頼家が跡を継いだ鎌倉は、ますます混迷の様相を強めていきます。
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景時から善児へ渡された物は?
義時はこの先、比企と北条がぶつかり合うと覚悟を固めています。
その間に入ってどう収めるか?
そう悩む父に、頼時は「ますます鎌倉になくてはならぬ存在になった」と言います。
それにしても北条義時も成長しました。
梶原景時に届いた後鳥羽上皇からの仕官の誘いを源頼家に密告し、破滅を決定的にしたのは義時です。
しかし、かつての上総広常や源義経の時とは違い、悩んでもいられません。
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そんな夫に、比奈は「何があっても離縁しない」という証文の誓いを思い出させます。
比企と北条がぶつかるのはしょうがないにせよ、比企に返そうなどとくれぐれも言わないようにと。
「お前につらい思いはさせぬ」
「お願いしますね」
そう言い合う夫妻の前に下人の善児がやって参りました。
義時は善児に袋を渡します。なんでも梶原景時から添書きがあったようで中身は何なのか?
「(中を)見ました?」
「いや、見てない」
思わず善児は、一見、無表情なようで、実は安堵しながら「あのお方も人が悪い」と呟く。
義時が何が入っているのかと聞くと、
「試されたのですよ、わしの天運を」
と曖昧だけど何か真実を突くような答えで返します。
善児の背後には、影のようにうずくまる若い女性がいました。
一体誰なのか?
比奈が尋ねると“トウ”と名乗ります。善児も歳だから、そろそろ二代目に任せたいとか。
善児に促され、トウが武芸を見せます。
重心が低く、突きが鋭く、足捌きも見事。華麗な動きです。演じる山本千尋さんは中国武術の達人ということで、この時代設定だからこそ生きてきます。
当時はまだ日本武道が確立できていません。
戦国時代ものなら、忍者の動きとして通じそうではありますが、幕末もので薙刀を使うような場面では、能力を発揮しにくい動きでしょう。
にしても、こんな見事な殺陣を見られるなんて、眼福の極みです。
ところで善児に渡された袋の中身は?
義時の兄・宗時の財布でした。
畠山重忠が見つけたものを景時は捨てていなかった。取っておいた。いざとなれば始末するためにもそうしておいたのでしょう。
この財布を善児が捨てて、畠山重忠が世を去ったら、果たしてどうなるのでしょうか?
組織としての忍者が確立する前の間諜(かんちょう)兼暗殺者である、善児とトウ。目の離せない二人です。
今年は殺陣も素晴らしい。
このコンビはちゃんと人を害することのできる動きです。
攻撃が当たっていないのに相手がわざとらしく倒れる――そんな2021年大河のような動きは極力控えていただきたいものです。
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義澄亡き後の三浦はどうなる?
鎌倉を抑えてきた宿老の一角が崩れた。
バランスを失い、大きく揺れる権力の振り子――それを止めるものは誰だ?
そう語られて始まる今回。
いわば前回までは「鼎立(ていりつ)」でした。
『三国志』でおなじみのこの言葉は、三つ巴とも言い換えることはできます。バランスが取れて拮抗しやすい三者の対立という構図です。
逆に、足が一本折れると、一気に情勢は動きます。
はい、そんな今回も、大江広元が訴訟を始める宣言をします。
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梶原景時がいなくなったものだから、と、和田義盛が堂々と侍所別当の座に座っています。
離れていると寂しいとダダをこねる時政。
盟友の三浦義澄が欠席のようですよ。
梶原景時の死から三日後――義澄は死の床にありました。嫡男の義村は先のことを任せるように言う。そして義盛も、三浦の一族は俺が守るという。
しかし死んだ後のことは正直どうでもいいと返す義澄。
もう駄目だ。三浦一族には血の雨が降るとしか思えない。
おさらいしますと、義澄の父である三浦義明にとって、その嫡男は杉本義宗であり、孫が義盛です。
本来ならば義盛の父、そして義盛へとつながるはずの三浦一族惣領の座が、義澄と義村の系統に継がれたことになる。
以下がその系図ですね。
先の義村と義盛の言葉からすると、お互い譲る気がない。そして義澄がきちんと指示を出すのかと思ったら、投げっぱなし。
もう破滅しかないとわかる伏線です。
「次郎! 次郎! 死ぬんじゃねえぞ!」
ここで時政が入ってきました。
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義澄はこう来た。
「待っておったぞ、四郎。一緒に逝こう、一緒に」
「馬鹿言え!」
つかみかかろうとして、バタリと倒れる義澄。
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脈がないことを息子の義村が確認します。
「叔父御ー!」
「次郎、次郎、次郎、次郎、次郎ー!」
大泣きする義盛と時政、冷静な義村。
義村は実父の死であっても、この後の葬儀進行が頭をよぎり、うまく泣くことができないのでしょう。冷たいようで、感情がないわけでもない。
そしてもう一人、安達盛長も死を前にしていました。
義時に、頼朝様の側に小指の先でも葬って欲しいと頼みます。
ものすごくしみじみとした退場ですが、どういうことでしょうか?
先週で13人が11人にまで減り、今週でまた11人が9人まで減りました。
いくらなんでも減るのが早すぎるじゃねえか!
そう時政のようにジタバタしたい。
本当に、人選はこれでよかったんですか?
やはり三浦義村や畠山重忠を無理にでも入れておくべきだったのでは?
頼家に凄む比企
梶原景時が去り、三浦義澄に安達盛長もいない。
この事態にほくそ笑むのが比企能員。
もはや宿老の評議はあってないようなものだと頼家は言います。
京都では、梶原景時こそ「鎌倉本体の武士だ」と評されていました。
皮肉にも、景時がいなければもう頼家は持たないと判断していたのは、京都ということになります。このドラマの後鳥羽院は目論見が当たったとほくそ笑んでいることでしょう。
しかし、比企能員にそんなことがわかるはずもなく……自分が支えるから好きにやればいいと頼家に促します。
頼家が断ると、遠慮はするなとしながら、語気を強めて半ば脅すように進言します。
「鎌倉殿のために申し上げておるのです! 比企能員に万事お任せください! その上でお好きになさるがいい!」
頼家は黙ったまま。果たして比企能員のプレッシャーは効果があったのでしょうか。
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そのころ時政は、自身の出世にホクホクでした。
従五位下、遠江守、国守に就任。源氏一門以外の御家人が国主になるのは初めてのことでした。
時政は、政子のおかげだと喜んでいます。
なんでも北条政子が祖父の喜ぶ顔が見たくないのかと、鎌倉殿ににじり寄ったとか。義時はその顔でにじり寄ったら断れないとからかいます。
微笑ましいようで、にじり寄られた頼家側の不快感を軽視しているようにも思えます。
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「これで比企に一矢報いることができた」
と無邪気に喜ぶのはりく(牧の方)。
義時が「そういうことではない……」と釘を刺します。
重い立場になったからには、それにふさわしい振る舞いをして欲しい。比企のことは忘れろと政子も言います。
そんなものは戯言だと言い合うりくと時政。すっかり悪い染まり方をしておりますね。
後の公暁が生まれ
畠山重忠が訴えています。
なんでも彼が治める所領で、新熊野神社の僧侶たちが所領争いをしているとか。
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真剣な重忠。
いかにも、かったるそうな頼家。
頼家は図面に向かって乱雑にタテ線を引き、所領を半分にせよ、とでも言いたげに「それで対処せよ」と一方的に判断をくだします。
信心深い重忠は、神仏に仕える者をぞんさいにすると天の怒りを買うと困惑。
望むところだと頼家は答えます。今後所領のことは自分で処断する。好きにさせてもらうと言い切るのです。
頼家は、父・源頼朝に似ているようで、そうでもないところもあります。なかなか信心深かった頼朝に対し、頼家はハナから気にしていない風でもありますね。
そしてこの歳、つつじが男児・善哉を産みました。
乳母夫は、事前の取り決め通り、三浦義村に任命。
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さすが義村は立ち回りがうまいですね。目立たないようで、じわじわと権力の中枢に食い込んできています。
そのうえで比企能員が「一幡が嫡男だ!」と義時に念押ししています。
義時は、頼朝はつつじが男児を産んだら嫡男はそちらにするつもりだったと反論。
しかし「文書がない!」と能員は言い、そんなものは受け入れられんと突っぱねるのでした。
生まれたばかりの赤ん坊・善哉。
今は無邪気な存在ですが、実は鎌倉政権や日本史に重大深刻なインパクトを与える人物に育ちます。
確たる証拠はなく、この男児は「お前は源氏の後継になるはずだった、それが頼朝様の意志」と聞かされて育ちます。
そしてそのことが、この男児の中で揺るぎない事実となったとき、歴史の歯車が動くのでしょう。
ドラマではまだ「後の公暁」と語られませんが、覚えておきたいところですね。
頼家に新たな子も生まれて、焦っているのでしょう。りく(牧の方)が、時政を煽ります。
比企の思うままを許してはならない。
善哉すら邪魔者扱いをし、そのうえで「(将軍候補として)どなたか忘れていないか?」と言い募る。
狙いは千幡(9歳)でした。
源頼朝と北条政子の子であり、後の三代将軍となる源実朝のことであり、乳母夫は阿野全成と実衣だから北条にとっては好都合です。
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こうなったらどんな手を使ってでも……と言い出す妻。戸惑う夫。
「何年一緒にいるのですか、察してください!」
りくがノリノリ全開で夫にツッコむのですが……いやぁ、こいつぁ、とんでもねぇ悪女ですわ!
寝室でささやくようなことを真昼間に思い出させるような会話と申しましょうか。
どれだけ夫が今でも自分に溺れているか。それを理解した上で、断れないように甘えつつ、策を練ってきた。こえぇ……。
三谷さんは随分と艶っぽい作風になってきましたね。
さすがとしか言いようがないですが、それを真正面から受け止める宮沢りえさんと坂東彌十郎さんも素晴らしい。
坂東彌十郎さんは歌舞伎役者だけに、女優との濃厚な場面は今回が初めてなんだとか。本当に凄いとしか言いようがないです。
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