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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第29回「ままならぬ玉」】
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呪詛の狙いは比企……ではなく鎌倉殿
白湯を淹れる全成の姿が映ります。
まだ鎌倉にお茶は到達していなようですね。
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時政が、鎌倉がここまで大きくなれたのは北条が真ん中にいるからだと言い出す。しかし今はそうではないと付け加えるりく。
そこで頼まれて欲しいとのことですが、なんと依頼とは「呪詛」――標的は比企能員と告げそうになった時政を、りくが止めます。
えっ? それじゃあ誰を呪うのよ?
「鎌倉殿……」
衝撃的な標的が明かされました。
ターゲットを聞いて慌てふためく全成に対し、命まで取ろうとは思っていないと答えるりく。
病で伏せってもらうとか。
そしてぬけぬけと「頼朝様の跡を継いで苦労されているから、それを取り除いて何が悪いのか」と開き直り、時政を促します。
「あとを継ぐのは千幡じゃ」
「千幡……」
「悪くはなかろう」
臆病で慎重で現実的。そんな全成の胸に、何か灯ってしまいました。
彼は権力欲は薄い。けれども、別の欲求はありました。
全成は実衣の元へ戻り、琵琶の稽古はどうしたのかと問いかけます。
しばらく休むとのこと。なんでも結城朝光は下総に戻ったとか。
そして夫妻の子である“頼全”から文が届いたとか。京の暮らしには慣れたそうです。
かわいい子には旅をさせろとはよく言ったと返す全成。寺の修行が大変なのだと、実衣は全成が得意とする話題を投げかけます。
しかし、全成のハートは傷つき、気もそぞろ。
妻にとっての琵琶とは、結局、結城朝光に会うための口実だったのか? そんな疑念が渦巻いてしまう。
離れてしまった妻の心を繋ぎ止めるためには、どうすればよい?
夫妻が育てた千幡を後継にすればよいのか?
妻は野心家でもあるし……と、でも考えたのでしょうか。この悲しい夫は、ついに呪詛を始めてしまうのでした。
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時政も、全成も、妻への愛ゆえに陰謀へ落ちてゆきます。
【創業】と【守成】のどちらが大変か
坂東は台風に見舞われて多くの被害が出ています。
それなのに蹴鞠を楽しむばかりの頼家に、頼時が食ってかかる。
坂東中が苦しむ中でやることがある!
しかし頼家は、蹴鞠は遊びではないと取り付く島もありません。
父の義時は、納得いかない様子の頼時に伊豆へ行けと命じます。
百姓は食べる米もなく、借りた米を返すこともできない。これをなんとかせよ。
「私にできるでしょうか?」
「なんとかせよ」
不安げな息子と、そんな息子に強く命じる父。
隣にいた北条時連(北条時房)は兄・義時に敬意をにじませながら、なんとかしろと言われたらしてきたのがお前の父だと頼時に語りかけています。
「なんとかしてみます。ご無礼いたします」
そう言い、何も策はないまま伊豆へ出立することになる頼時。
確かに時連の言う通りではあります。義時も若い頃から無茶振りをこなしてきました。
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しかし父と子では奮闘の中身が違います。
父は、乱世を戦い抜くため、主君の無茶振りに応じる【創業】のための苦闘です。
子は、世を治めるため、民の声を聞きつつ応じる【守成】のための苦労です。
どちらが大変か?
彼らの愛読書『貞観政要』には、魏徴の言葉として以下のような答えの一例があります。
古より、帝王、之を艱難(かんなん)に得て、之を安逸に失わざるは莫(な)し。守成難し。『貞観政要』
古来より、為政者が国難に遭った際、その対処を怠っていたというのに国を失わなかったことはありません。守成こそ難しい。
頼時はこの困難を乗り越えてこそ、先が見えてくることでしょう。
伊豆へ向かう頼時がその場から去ると、時連が「頼時は鎌倉殿のそばにいない方がいい」と言い出しました。幼い頃は良かったけれど。
そうやってしたり顔で論評する弟に、そういうお前こそ大丈夫か?と義時が聞きます。
蹴鞠の才能を引き出された♪と時連は少し得意げです。単なる遊びではなく、京都でも公家と渡り合えるように励んでいるとか。
そして頼家を諌めるだけでなく、わかってさしあげることも大事だと持論を展開します。
時連は味のある人物像です。
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何か人に勝る特技が欲しいと思うところは、琵琶を習う姉の実衣に似ている。
気取って持論展開する様は一歩間違えれば鬱陶しいけれども、それすら丸めてしまう愛嬌がある。
きょうだいの中でも父に一番似ているのかもしれず、家族の良い一面をバランスよく備えていてなかなか凄い。
そんな人物を飄々と気負いを見せずに演じる瀬戸康史さんが今週も冴えています。
泰時の妻・初の登場
鶴丸と伊豆への出立準備をしている頼時。
車に荷物を積んでいると、
「大丈夫なのですか?」
と告げてくる若い娘がいます。
義村の愛娘である初(矢部禅尼)です。
要は志だ、やってみせると意気軒昂の頼時は、父上の命をしくじるわけにはいかないと張り切っているのですが……。
「真面目。あなたのそういうところに息が詰まる」
初がキッパリとそう言います。予想通り父親ゆずりの性格ですね。「がんばってね!」とは言わない、圧巻の塩対応よ。
「ひどいな……」
そう言いつつ、表情がデレデレしている頼時。鶴丸が、それがこの人の悪いところと付け加えています。
義時は、義村のあの性格に幼少期からつきあい、「こいつはこうだ」と慣れています。
この二人もそうで、もう頼時は、初にきついことを言われることに慣れきっているようです。
初は淡々と、頼時はいつも肩に力が入っていると続けます。何が悪いのかと言われると、さらにこうきた。
「おもしろくないの」
さらにダメ出しをされても、目を見開きつつ、ドキドキしている頼時。
『おかえりモネ』の菅波役で、不器用な恋をする様を好演した坂口健太郎さん。それとは違うようで、またもどこかズレた、暑苦しい善意の人を好演しています。
『鬼滅の刃』の炭治郎と同系統の、今最も社会に求められているかも知れない造形です。
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初は声音がとても柔らかいのに、語る中身は激辛。
強い女性が多い本作でも際立つ、ふてぶてしい表情が魅力的です。
若い女性に「ふてぶてしい」とは適当ではないかもしれませんが、むろん賛意です。父の義村そっくりでいい。
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『麒麟がくる』の帰蝶役だった沢尻エリカさんが降板になった時、私は福地桃子さんだったらよいのではないか?と思っておりました。
結果的に川口春奈さんが好演されて、そこに不満は一切ありません。
そうではなく、福地さんには大河で、できればふてぶてしく聡明な女性を演じて欲しいと思っていました。
その願いが叶いました。
帰蝶はマムシの娘で、初も蛇の娘です。
場面写真を見て放送を楽しみにしておりましたが、映像で声がつくと想像以上に素晴らしい。今後も楽しみです。
土産大作戦はやめとけぇ~
「そろそろ夫婦にしてやるか」
そんな若い二人のやりとりを見ていた義村が言います。
なぜコヤツは自分の娘を頼時にくっつけたいのかと思うほど、ゴリ押ししてきますね。
義時がいいのか?と確認すると、こうきた。
「初は、頼時にはもったいないくらいいい女子だが、お前の息子なら仕方ない」
義時が困惑していると、八重さんが結びつけてくれたと義村がまとめます。八重は運命の女神のようですね。
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そして義村は、善哉のことを聞いてきます。
義時が比企が納得していないというと、義村は「頼朝が望んだことだろ?」と言う。それでも文書に残っていないから……と義時が困惑しています。
「比企の奴らにいつまででかい顔をさせておくつもりだ?」
そうけしかける義村。
義時の妻が比企出身だということを忘れているようだ。
そんな義村が娘をくどいくらいに「いい女子」と呼ぶのはなんなのか?
別に顔やスタイルが自分の好みだというわけではないのでしょう。義村はそういう性格ではない。
打てば響く。父親そっくりの性格をした初は、忖度一切なしに思ったことをズバズバ言う。
頼時にだって意地悪をしているつもりはなくて、自分なりの観察結果を冷静に伝えただけのつもりだと思います。
普通の人からすれば「うわー、キツイ! 感じ悪い!」となりかねないけれども、義村からすれば「話のわかる聡明ないい女子だな」となる。
頼時も、そんな初にキュンキュンしています。相性抜群なのですね。
ただ、頼時はそれでもショックなのか、義時に父を見習って真面目に生きようとしていたのに、それをつまらないと言われてしまったとこぼしています。
「わかっていないなぁ、女子というものを……」
「はい?」
頼時にそう言う義時ですが……いやいや、お前も全然わかってないじゃん!と誰しも感じたことでしょう。
いい意味で真面目で、プレイボーイ気質からほど遠い。
そんな義時がしたり顔で息子にアドバイスしている。クソバイスにならんことを祈るけれど……何を言うつもり?
「初はさみしかったんだ。一人にされるのが。だからわざとそういうことを言うのだ」
「そうならいいのですが……」
そうわかったように言う義時と、素直に受け止める頼時。それからそういう時は山ほど土産を抱えて戻って来れば機嫌を直してくれると言い出す義時。
それから自信満々にこうきました。
「いいことを教えてやる。女子というものはな、だいたいキノコが大好きなんだ」
「いいことを聞きました! ありがとうございます!」
ものすごくいい笑顔をを見せ合う父と子。やっちまったよ……これ、どうするんだ。
八重に対して猛烈にプッシュされた義時のお土産大作戦は、毎回スベっていました。
そのルーツを遡っていくと、新鮮お野菜セットを土産に持参して、平家の人間にナスを顔になすりつけられていた父の時政にたどり着きますね。
義時は記憶を改竄したのでしょうか?
キノコなんて、嫌な予感しかしない。そこはせめて芋や果物、餅あたりにしておけ……。
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