鎌倉殿の13人感想あらすじ

鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第29回「ままならぬ玉」

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蹴鞠をしていると心が落ち着く

建仁元年(1201年)7月、頼家は征夷大将軍になりました。

いつになったら呪詛が効くのか!と、りくが全成を役立たず呼ばわりしています。

全成が無理だと返すと、時政は無理でもやるんだとハッパをかける。

なんだろう。「無理でもやる」というのは義時と泰時と同じ論理展開のようで、時政の方ははるかに下劣です。他人のために働くのと、私利私欲のために動くのではこうも印象が異なるものですね。

全成は、鎌倉殿の髪の毛を手に入れるという。

りくは、だったら初めからそうしろと凄む……って、なんと酷い人だ。彼らの企みを止めた義時の言葉など、一向に気にしていません。

夜、全成は蹴鞠をする頼家をじっと見ています。

と、そこへ義時が来て話し始めます。

頼家は鞠を蹴っていると心が落ち着くとかで、苦手な義時に教えています。そして父は蹴鞠が上手であったか?と聞いている。

頼家が心を開き始めていますね。

父は何も言わなかった。そして夜中に一人ここにきて、鞠を蹴りながらそのことを考えているとか。

頼家は父が笑っている姿を見たことがないようで、今なら、その気持ちがわかる気がするとも打ち明けます。

義時は、頼朝が人を信じなかったことを認めつつ、父を超えたいなら人を信じるところから始めたらどうかと提案します。そんな頼朝でも、義時のことは信じていると言われてきたんですけどね。

そこへ平知康が登場します。

が、それを無視して、頼家が義時に決意を語ります。

一幡を後継にすると。何も比企の顔色を伺ったわけではない。せつが決め手だと。彼女は強いのだと。

父と母が手を携えて鎌倉を作ったように、せつとなら、鎌倉をまとめていけるような気がする。弱い自分だからこそ、信じてくれるものを頼りたい。

そう語る頼家に、義時もよいと思うと賛同します。

そして「判官(ほうがん)」と知康に声をかけ、もう蹴鞠に逃げないからお役御免、ご苦労と告げるのでした。

と、その瞬間ことでした。

蹴鞠を取ろうとしてバランスを崩した知康が、井戸に転落してしまいます!

 


現場から持ち去られた不穏な呪詛人形

「たすけてー!」

叫ぶ知康を、義時と頼家で必死に助けようする。こういうときは縄のようなものが必要だ!

「縄! 短い!」

「縄のようなものではないが縄はあった!」

混乱しつつなんとか助けようとしていると、全成も見てられず、助けに入ります。お経を唱え始めると、義時はいいから引っ張ってくれ!と軌道修正。

こうしてドタバタ喜劇の末、知康の救出に成功するのですが……。

頼家は、叔父上がいて助かったと言います。

こんなところで何をしていたのか?と義時に問われると、考え事だったと返す全成。

頼家は、改めて見た叔父の全成が父に似ていると感慨深げです。自分ではわからないと全成は照れくさそうだ。

全成は甥っ子である頼家のかわいらしさ、懸命さに気づいたようです。

義時はそれに同意しつつ、鎌倉殿の役目の重さと戦っていると理解を示している。

全成は改心したのか、御所に埋めた人形を全て回収し、実衣に見せます。実衣の父である北条時政に頼まれたと告げると、実衣は「嘘でしょ!」と驚いている。

実衣の喜ぶ顔が見たかった。千幡が後継になれば私たちの立場も上がる。実衣に少しはいい思いをさせてあげられる。

全成が自嘲気味に言うと、実衣はお得意の皮肉を告げる。

「だってあなたは見掛け倒しだから」

思わずホッとしてしまう全成。

しかし、こんな人形が現場に残っていたら大変なことです。全て回収したのかと実衣が念押しすると……。

「大丈夫。全部持ってきた。これいる?」

「いらない!」

そう言い合う夫妻は、昔に戻ったように思えます。

しかし、人形の一体が御所の下に残っており、それを誰かが見つけるのでした。

 


MVP:りく

今週、重要な役割を果たす呪詛。

実にりく(牧の方)らしい手段と言えます。

亀の前騒動】で「後妻打ち」が起きた時、これは京都のことだから、りくの入れ知恵だと見抜かれました。

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呪詛もそうです。

坂東武者はそんな回りくどいことはしねぇ。知識が必須なので、教養が必要だしな。

そんなことより坂東武者なら暗殺でしょ。

そうして、発覚すれば死罪ものの呪詛を、自分の手を汚さず実行させようとするりくはきわめて悪質と言えます。

この呪詛のおぞましさは、むしろ中国史や華流ドラマの方がおなじみかもしれません。

代表的なものが「巫蠱(ふこ)の禍」。

前漢武帝の時代に起きた事件で、犠牲者が多数出ていて、京都育ちのりくであればそのくらいのことは把握していてもよい。危険だからこそ全成の弱みにつけ込むとは、本当に大した悪女ですわ。

さて、りくは、どうしてそんな強大な悪女なのでしょうか?

これはりく一人の問題でもなく、京都が悪いのだと思います。

大江広元が京都から来て、頼朝が極悪非道になりました。

京都の象徴ともいえる後白河院丹後局はどぎついほどに悪どい。

そんな彼らと並んでいた平知康は、頼家が改心すれば解雇される。泰時から蹴鞠は堕落の象徴扱いをされていました。

大姫は入内に前向きな姿を見せると、毒を浴びたように世を去ってしまう。

前回、景時は義時に対し、坂東武者のために戦うつもりか?と確認していた。

自分を破滅に追いやる義時に愚痴はこぼしつつも、京都に味方するからには討たれることは当然だと言いたげな聞き分けの良さでもあった。

かくして坂東の者が京都に関わると、悪に堕ちるか、不幸に見舞われます。

逆に京都から坂東にやってくると、悪を撒き散らす存在になってしまう。

りくはそんな中でも、とびきり鮮やかで華麗で、甘い毒を撒き散らす花として咲き誇っているように思えます。

りくだけが悪いのではなく、京都こそ坂東の宿敵――そういう誘導がなされるのでしょう。

ついでに言えば善児にも報いがありそうです。

善児は本作の根底にある、坂東武者のための世を作ると提唱した北条宗時を手にかけました。

象徴を殺しておいて無事で済むとは思えないのです。

 

総評

人間は信じることが大事だ――こんな当たり前のことをくどいほどこってりと描いた今回。

本作屈指の猜疑心を持つ三浦義村

それでも彼は義時に全幅の信頼を寄せていて、その息子ならば自分の愛娘を嫁がせるしかねえと運命を感じています。

その初と泰時も、もう信頼があると思えます。

泰時はあんなきついことをポンポン言われたって、それでも初とは結ばれると信じきっているから諦めていない。キノコを突き返されようが、どうにかなると思っているのでしょう。

あの二人からはお互いを信じているからこそ、本音をぶつけられる相性の良さを感じました。

それと対照的であるのが、頼家です。

結局、頼家って、自分のステータスしか愛されていないと弱気になってしまう。臆病なところがあるのでしょうね。

自分が好きなのか? どこがいいんだ? どうしたい?

その答えを求めて安達景盛の妻・ゆうに手をつけてしまった。

そんな頼家の孤独をせつのまっすぐな思いが救っています。

そして全成と実衣。

こうしてみると皮肉を言い合い、しっくりうまくいっているのに、全成は結城朝光から琵琶を習う妻を見て、信じる心を失ってしまった。

そうなったら話し合うなりして向き合えばいいのに、呪詛と千幡を後継にするという、間違った手段を選んでしまった。

そこへ引き摺り込んだりくと時政。あなたたちに愛はありますか? 信頼は? と言ってやりたい。

りくは結局、時政を自分の駒にして好き放題やることが面白いだけじゃねえか! そう毒づきたくもなります。

相手が本当に大事なら、危ない橋を渡らせないのでは?

リスクをとるにせよ、政子と頼朝とは違います。

すごいことになってきました。三谷さんに謝りたい。こういう艶っぽい作風ではないと思っていました。

複数の人物の愛情を描き、それをプロットに絡ませて、人間の愚かさと美しさを描いていく――ここまで愛情と信頼をど真ん中に置いて陰謀劇を展開するなんて、想像もできませんでした。

そして、そうやって愛情やら信頼を描くことで、歴史劇ならではの恐ろしさも思い出させてきます。

歴史の年表なり、地図を俯瞰して見ていると、ある事件が起こることも時代の流れだと思えます。

人類史を俯瞰するような、ジャレド・ダイアモンドやユヴァル・ノア・ハラリの著作を読んでいると、特にそういうことを強く感じます。

なんだかとてつもないことが起きたけど、それも歴史であり運命なのだと。

でも、そんな歴史の大激動、運命の歯車の下にはすり潰される生身の人間がいたと思い出すとゾッとします。

そういう痛みを忘れて歴史を学んで、何かすごいことを知った気になってないか? 運命だからしょうがない、と数多く死んでいった人のことを突き放していいのか?と。

『鎌倉殿の13人』には、そういうものがある。

根底に流れるテーマがあるけれども、その大目標実現のためには大勢苦しんで悲惨な死に方をしてしまう。味わって楽しんで、そのあとどっと苦さと恐ろしさがくる。そんな構図があります。

これをもっと自覚的にしていたのが『麒麟がくる』の明智光秀です。

彼は麒麟が到来するよう歴史の流れを作ろうとしていて、その過程で犠牲になる彼周辺の人物を忘却したような終わり方でした。

義時の場合、自分が歴史の大きな流れを作ることにそこまで自覚的でないのでしょう。巻き込まれるうちに歴史を変えてしまう。

本作の描く大きな歴史の流れとは「華夷変態」だと思います。

中国のフォロワーとして発展してきた京都の朝廷を、坂東武者が倒す。このことを当時から「華夷闘乱」と称していました。

血は流れる。大変なことだ。それでも歴史の扉を開けるために必要な試練が、この時代の東アジアには訪れています。

中国では宋から元へ。日本では【承久の乱】。野蛮と蔑まれてきた者どもが勝利することで、歴史は一歩前進します。

そういう避けられない運命に巻き込まれる義時たちを、後半戦も見守りたいと思います。

来週は比企一族の今後を憂うため公開が遅れます。ご了承ください。

※著者の関連noteはこちらから!(→link

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文:武者震之助(note
絵:小久ヒロ

【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト

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