絵・くらたにゆきこ

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信長が裏切られ続けた理由は『不器用すぎた天下人』を読めばスッキリします

いきなり個人的な体験で申し訳ありませんが、昔、パワハラ気味のチームリーダーが勤務先の上司におりました。

彼の無茶苦茶な計画のせいで、プロジェクトはいつも遅れ気味。

締め切りギリギリで頑張っていると、ちょっと高いケーキやドーナッツを差し入れしてくるのです。飲み会で奢ってくれることもよくありました。

どうやら彼には、そういう差し入れや奢りというフォローがあるから、ルーズな計画もチャラになると考えていた節があるんですね。

しかし私を含めた部下の本音はこうでした。

『いやいや、差し入れとか飲み会とかどうでもいいから、計画的な仕事をプリーズだよ!』

不思議なのは、そんな上司でも、なぜか庇おうとする社員がいたことです。

その方が「あの上司サンは、きっと不器用なんだね」と言っていたのを今になって急に思い出したのは、今回、書評で取り上げた『織田信長 不器用すぎた天下人』(→amazon)を読んだからでした。

 


信長が不器用すぎるって意味不明ですかね

織田信長が不器用すぎる――。

そんなこと言われても、ちょっと意味がわからない。そんなイメージを持ちませんか?

あるいは『勝手な思い込みで分析しているのかな?』なんて誤解も生まれるかもしれません。

しかし、読み終えてみると、これほどぴったりとはまるタイトルはありません。

本書は、天下人・織田信長のある弱点についてテーマを搾っています。

それは、あまりに人に裏切られること。

彼が強すぎるから警戒されたとか、苛烈な性格過ぎたとか、一般的な織田信長評とはそんなところだと思いますが、本書では、その原因を彼の「不器用さ」に結びつけております。

本書で取り上げるのは以下の人物です。

・浅井長政
・武田信玄
・上杉謙信
・毛利輝元
・松永久秀
・荒木村重
・明智光秀

戦国大名たるもの、誰しも同盟の破棄や思わぬ裏切りは経験しているものです。

しかし、ここまで多く、影響も大きいものとなると、何か本人に原因があるのかな、と考えたくなるのも自然なことで。ほんと、徳川家康だけはずっと味方で良かったですよね。

※以下は徳川家康の関連記事となります

徳川家康
徳川家康はなぜ天下人になれたのか?人質時代から荒波に揉まれた生涯75年

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本作は、織田信長を真摯に研究しているからこその発見があります。

読みやすく、文字が大きく、軽いノリの部分もあるのに、中身はとても濃いというオススメの一冊です。

 


謙ちゃんと信くんの破局物語

本作で一番衝撃的だったのが、第三章「上杉謙信」の最後。

「謙信と信長を恋人同士の破局で例えたら」という部分です。

謙ちゃんと信くん。

お互いスレ違うことも多いけど、思い合っていたはず。

それが何故別れるの。

そんな喩えなのですが、ものすごく的確かつわかりやすく、想像できましたねぇ。

謙ちゃんは生真面目な子。

相手の事情も考えて、少しくらいの約束違反なら許せるかな……でも誠意を感じられないと駄目なタイプの謙ちゃん。

いきなりビンタして振るのではなく、SNSで無言ブロックしてお別れのタイプ。

信くんは、イケメンで仕事もできて、エネルギッシュ。気前もよくてプレゼントもバンバン買っちゃう。

でも、ちょっと無神経で、デートをドタキャンしたりすることも。

相手の気持ちやスケジュールをあまり考えないでデートの約束を入れたりする。

ある日、彼女と連絡が取れなくなって「あの女マジありえなくねえ?」と激怒するタイプ。

このカップルがどう別れるか?

本書を読んでくださいとしか言いようがないシーンですが、これが結構切ないんですよ。

信くんはSNSにこういうこと書き込んで炎上するタイプですね。

「22時、やっと仕事終わったー。デートをドタキャンしちゃって彼女がガチ切れしてる。残業あったから連絡も入れられなくてさ。アイツが食べたいって言っていた限定スイーツ買って帰るよ。女の子って、甘いものさえあれば機嫌良くなるよね」

これにつくリプはこんな感じでしょうか。

浅井長政「ケーキ一個でドタキャンチャラにならねーしw」

武田信玄「連絡すら入れねーとかねえわ……俺でも引く」

上杉謙信「女性が夜中にスイーツもらって喜ぶと思いますか? 美容に最悪ですよ。断るのも悪いし、迷惑って思っていますよ」

毛利輝元「こんなんでも彼女できるんだな」

松永久秀「相手が欲しいのは、ケーキじゃなくて誠意だと思うよ?」

荒木村重「残業忙しくても、連絡くらいはできると思います」

明智光秀「別れてから自分のしたことに気づくタイプだなー」

話が全然戦国時代じゃないだろ、と思うかもしれませんが、こういうことを想像してしまうと言いますか。

21世紀にいる「ダメ男」っぽさを認識したとき、「不器用すぎた」というタイトルがストンと腑に落ちるのです。

本当にこの喩えは絶妙で、笑ったあとで真顔になるんで、是非とも皆さんにも読んで欲しい!

むろんマジメな考察も忘れません。

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