志々雄真実

るろうに剣心 裏幕―炎を統べる―/amazonより引用

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『るろうに剣心』志々雄真実~魅惑の悪役に漂う90年代のラスボス感よ

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幕末明治 長州藩内紛のリアル

そんな志々雄真実の辛いところは、幕末明治における長州藩内紛のリアルと比べると、あの凄絶な死闘すらちょっと甘く思えるところです。

歴史そのものがえげつないと、フィクションが霞むという宿命がつきまといます。

幕末から明治の歴史透明度というのは、実は結構な差があります。

強力かつ政府中枢にいただけに、長州藩はなかなか複雑で、近年やっと明らかになってきたこともあります。

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2010年代になっても大河ドラマでおちょくられる「俗論派」。

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そういう現代まで続く長州藩の体質を考えると、志々雄真実が実際にいたら、どうなっていたのかと考えてしまいます。

大久保利通が剣心に始末を依頼し、あの程度の私闘で済んだのはマシだったかもしれない。

本気を出したら、もっとえげつない消され方をしていそうではあります。長州藩の裏の顔を知っているとなれば、そこはそうなるでしょう。

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『るろうに剣心』の明治政府は、史実と比べると非常に優しいと思えるのです。

実は、このちょっと怖い状況は現在でも続いていると思えることがあります。『るろうに剣心』を否定する投稿を読んだところ、こんな趣旨のものがありました。

「作者が大久保利通を好きだというから読んだのに、幕府を庇ってばかりいる。酷い漫画だ。登場人物が酷い目に遭えばいい」

具体的な酷い目についての詳細は省かせていただきます。

「佐幕派の言い分を取り上げ、長州藩の悪事を暴くこと」への怒りが、かなりの長文でつづられていました。

幕末の歴史というものは、150年を過ぎても何かを掻き立てるのだと思い知らされました。

 

90年代のラスボス感

剣心にせよ。薫にせよ。弥彦にせよ。

『るろうに剣心』の登場人物には、90年代という連載当時の時代精神がかなり濃く宿っていると思えます。

志々雄真実も、90年代のラスボス感があります。

連載当時は当たり前で引っかからなかったのでしょうが、今になると不可解な点が結構あるのです。

・駒形由美は美しき花

一応、最後の最後で本人待望の犠牲になるとはいえ、なんで駒形由美は志々雄真実に寄り添っているのでしょう?

これも、80年代から90年代のラスボスあるあるだと思えます。

『北斗の拳』のシンが典型例なのですが、ボスが登場する時、無駄に横に女がくっついていることがあったものでした。

映画だけでなく、格闘ゲームでも水着のお姉さんが出てきたりする。SNKの『キング・オブ・ファイターズ』シリーズでも、主人公・草薙京のライバルキャラの八神庵は美人秘書2名を引き連れていました。

男だらけ。女性がいるにせよ、お色気重視ではない。

そんな主人公側に対して、ライバルはお色気のあるお姉さんを侍らせている。

こうした構図があり、今となっては時代を感じます。

 

「なんか悪い奴は色(=エロ)でもやらかしているらしいな!」

そういう記号だったわけですね。

駒形由美はマリア・ルーズ号事件を解説してくれたり、それはそれで魅力的なキャラクターですが、やはり悪人の横にいるお姉さんポジションだと思えてしまいます。

マリア・ルス号事件
マリア・ルス号事件と「奴隷解放裁判」明治初期の横浜港で起きていた

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こんなこと解説するまでもないとは思うのですが、現実世界で花を添えるお姉さんは消えつつあります。

ラウンドガール、グリッドガール(日本ではレースクィーンと呼ばれます)、ポディウムガール……そんなしょうもないことに、生身の女をいちいち使うな! そういう時代の流れがあるのです。

女が花を添えることが当然だった。そんな平成らしいヒロインが、駒形由美でした。

・90年代のラスボスって洗脳しますよね

志々雄真実の「十本刀」は、当時の明治にあった人間の組織というよりも、90年代少年漫画描写と考えたほうがスッキリします。

それぞれ個性があり、主人公の前に順番で出てくるように立ち塞がる。

デザインも個性も、少年漫画や当時の格闘ゲームっぽい設定です。

格闘ゲームで遊ぶ側は、ボスにたどり着くまでにどうして誰かと戦うのか、気にしてなどいられません。割とゆるい理由だとしても、楽しむ側は気にしませんでした。

志々雄真実は漫画のラスボスとしては大変魅力的です。

が、政府が本気で警察部隊や軍隊まで出していないので、そこまで危険でもなかったのではないかと思います。その辺も格闘ゲームを思わせるものがあるのです。

・90年代にあったノリ重視

バブル景気が終わり、ジャンプ黄金期も通り過ぎた1990年代。

剣心のような細身主人公も出てきたとはいえ、まだ80年代までもマッチョな価値観も残っていたところはあります。

それ以上に、当時らしいといえば、勢いや雰囲気で押す展開ではないかと今にしては思えてきます。

志々雄真実の計画は、今振り返ってみると、とても雑に思えます。

なまじ明治初期は政府に不満を抱く暴動が続発しているため、比較しやすいのも難しいとは言えるのですが。

それでも、志々雄真実のカリスマ性のあるカッコよさが印象的で、懐かしく思えるのは、和月先生の力量と1990年代という時代の魔法であったかと思えてきました。

2000年代や2010代となると、もっと理屈っぽく、理詰めの漫画が増えてきたと思えます。

2000年代の代表作でもある『DEATH NOTE』は、剣心とは真逆のゲーム感覚で殺人を楽しむ主人公でした。

漫画は進歩してゆきます。

『るろうに剣心』は、そんな変わりゆく時代の中、1990年代らしい主人公と悪役がいる作品でした。

志々雄真実のあとに登場する別の宿敵は、1990年代から2000年代の暗さをまとう人物となってゆくのです。

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文:小檜山青

【参考】
コミック『るろうに剣心 裏幕―炎を統べる―』(→amazon
コミック『るろうに剣心―明治剣客浪漫譚―カラー版』(→amazon
コミック『るろうに剣心―明治剣客浪漫譚・北海道編―』(→amazon
映画『るろうに剣心』(→amazonプライム
映画『るろうに剣心 京都大火編』(→amazonプライム

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