そんな掛け声のもとに刀光一閃!
多くの人が闇夜の中に命を散らした幕末において、際だった暗殺者として数えられるのが「幕末の四大人斬り」です。
ご覧の通り、4名のうち実に半分の2名が薩摩の選出。
これ、単なる偶然ではなく薩摩では、示現流(じげんりゅう)や薬丸自顕流(やくまるじげんりゅう)と呼ばれる「一の太刀で敵を斃すための剣術」が幕末まで息づいていて、他藩とはレベルが格段に違った――。
要は、べらぼうに強かったのです。
同じく殺人剣を修めた新選組の近藤勇をして「薩摩の初太刀は避けよ」と言わしめたほどでした。
そこで思い出していただきたいのが大河ドラマ『西郷どん』(見てない方すみません!)。
盗人だとして追われた、見た目12~14才ぐらいの少年が、大人3人を次々に木刀で打ち倒す。
司馬遼太郎『翔ぶが如く』においても、常に西郷の周囲で牙をギラつかせている危険な剣士がおりました。
彼こそが、史実においても西郷隆盛と非常に親しかった中村半次郎。
天保9年(1839年)12月2日に生まれ、人斬り半次郎として恐れられた桐野利秋です(以降、桐野で統一)。
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苦難の少年時代
桐野利秋が誕生したのは、天保9年(1838年)。
父は城下士の中村与右衛門でした。
きょうだいは、早くに亡くなる兄と姉が一人ずつで、弟に山ノ内半左衛門種国、妹に伊東才蔵の妻がおりました。
半次郎は、ちょうど真ん中にあたります。同じ上之園郷中には、三島通庸がおりました(大河ドラマ『いだてん』三島弥彦の父)。
彼もまた、典型的な薩摩藩士でした。
すなわち、極めて貧しく、幼少から薬丸自顕流をみっちり習得している。
貧しい藩士が薩摩に多かった理由は以下の記事をご参照ください(記事末にもリンクあります)。
実は借金地獄でカツカツだった薩摩藩~武士も農民も苦しかった懐事情とは?
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10才の時、父が徳之島に流され、わずか5石という禄すらも召し上げとなります。半次郎は兄を助け、さらに貧しくなった家を支えねばなりません。
しかも18才のときに兄も死去。ますます重く、家計の貧困がのしかかってくるのでした。
半次郎は無学で読み書きすらできない人物という評価もありますが、後世のイメージが強いようです。
彼はなかなか利発でしたし、愚鈍とみなせる証拠はさほどありません。
ただ、当時の武士として必須とされた、漢籍や儒教の知識が若干不足していたらしく、西郷隆盛は、その点を惜しんでいました。
「横木打ち」で剣の腕前を鍛え上げる
幕末に活躍した薩摩藩士は、西郷のように腕を負傷で剣を握れなくなったような人物をのぞけば、その多くが薬丸自顕流の使い手でした。
前述の通り、この剣の威力は、あの新選組も警戒するほどの威力。
そんな薩摩藩士の中でも際立って強い桐野です。それがとてつもない次元であったことは想像に難くないでしょう。
個人戦闘力であれば、日本全体を見渡しても幕末トップクラス。
もちろんガチの戦闘集団・新選組も強いワケで、実際の比較は難しいですが、薩摩の強さは幼少の頃からの厳しい修行に裏打ちされておりました。
彼らが、どんな修行をしたかと言いますと、樹木を打ち付ける薬丸自顕流の鍛錬「横木打ち」をひたすら朝夕やっていたのです(西郷どん第1話で郷中教育の少年たちがぶっ叩いていたシーン)。
※横木打ちは1:25辺りから
薬丸自顕流は、練習相手がいなくとも、ひたすら無心に横木打ちをやれば鍛えられます。家庭的にも困窮していた半次郎は、ともかく横木を打ちまくっていたわけです。
前述の通り、薬丸自顕流を習得している時点で大変強い。人一倍練習し、センスがあれば、それはもう滅法強くなります。
二才(にせ)時代、決闘になりそうになった中村は断りました。
刀を抜いたらタダではおさめるな――という教えのある薩摩ですから、当時は小さなことで争って人を殺す気にならなかったということでしょう。
まるでジャンプの漫画ですけど、この決闘相手とは、親しくなりました。
京都の人斬り半次郎
文久2年(1862年)、島津久光の上洛に従い、桐野は殺気だった京都に脚を踏み入れました。
西郷隆盛、小松帯刀らとの知遇も得て、京都で活動することになります。
そこで「人斬り」の異名を取るのです。
さぞかし新選組と激動を繰り広げたり、暗殺したり、血腥い日々を送ったように思えるでしょう。
しかし、その異名から想像されるほど、暴れていたわけでもありません。
長州藩士や土佐藩士とも交際があり、きっちりとした自分の意見も持った人物でした。
それではなぜ、人斬りと呼ばれたのでしょうか?
人を大勢斬ったから?
いいえ、むしろこれまた後世のイメージが強いようです。小説等で「人斬り」というイメージが先行してしまったのです。
確かに岡田以蔵あたりと比較しますと、そこまで斬ってはおりません。
どちらかといえば、半次郎の実像は諜報員といったところです。
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