原作「人誅編」にあたる衝撃的な展開――本稿では、そこで重要な役割を果たす
姉弟のことを考察して参りましょう。
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『るろうに剣心―明治剣客浪漫譚― カラー版26』(→amazon)
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傷を頬と心に残した妻・雪代巴
憂いを帯びた有村架純さんが演じ、剣心に忘れ得ぬトラウマを残した女性――それが雪代巴です。
復讐のため間者(スパイ)として剣心に近づいた武家の女性……と、僭越ながらこの時点でかなりツッコミどころがあります。
ときは幕末。
諸勢力が入り乱れる京都では、確かに間者がおりました。
愛する男性のために、身を挺して働いた女性もおります。司馬遼太郎『竜馬がゆく』(→amazon)におけるヒロイン・おりょうこと楢崎龍がその典型例でしょう。
※以下は楢崎龍の生涯まとめ記事となります
龍馬の妻おりょう(楢崎龍)夫を殺された後は生活苦の生涯だった?
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彼女らには共通点があります。
明治元勲夫人の顔ぶれを見てもわかりますが、彼女らは玄人(くろうと)、つまりプロの女性が多いのです。
お金と引き換えに芸なり色を提供する。
あるいは客商売に従事する。
そういう身分が多いものでした。
一方、江戸時代の武家女性は、幼い頃から良妻賢母教育を受けております。
誰かに愛嬌を振りまくとか、会話で魅了するとか、そういうスキルはまずありません。
明治元勲の妻に玄人出身者が多いのは、必ずしも彼らの趣味とも言い切れない要素があったのです。
武家の女性は間者適性を持ち得ない
西洋のやり方を学んだ明治の上流階級は、ある難点に直面しました。
「西洋では女が宴席で接待をしているぞ!」
西洋には華やかな貴婦人が世論を形成するようなサロン文化がありましたし、客人をもてなすために夫人も微笑みを浮かべて夫の隣にいます。
ホステスとは、本来そういう意味でした。
しかし、東洋はそもそも男女が揃って宴会をすることそのものがない。宴席に侍るのは、玄人女性となります。
武家女性にそういう接待を任せようにもプライドが邪魔して厳しく、明治の貴婦人としての適性は玄人女性の方があった――そんな一面もあるわけです。
そこを踏まえますと、江戸時代の武家女性である巴は、まず間者適性を持ち得なかったでしょう。
接待はおろか、情報収集だって無理なはず。
そもそも江戸時代の武家女性なら、任務を打診した時点で断ると思います。幕府だって「京ことば」も話せない、無表情な武家女性を間者にするはずがありません。
ですので、ここは胸を痛めつつこう突っ込むしかないのです。
「雪代巴をスパイにするわけがない!」
そもそも巴のモチーフは、実在の幕末女性ではありません。
『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイであると、作者の和月先生が明かしています。ロボットアニメのヒロインを幕末に持ち込むのは、かなり無理がありますよね。
そんな巴は白梅香を愛用しています。
間者は自分の特徴となる何かを残すと正体が発覚するため、身に付けるものは特徴のないものにすることが求められます。そういう適性も巴にはなかったようです。
そもそも彼女が冷徹な間者に徹していたら、ああいう悲劇は起こらないわけですし……。
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