月島基(ゴールデンカムイ)

月島基(ゴールデンカムイ30巻/amazonより引用)

この歴史漫画が熱い! ゴールデンカムイ

ゴールデンカムイ月島基を徹底考察!鶴見の右腕は鶴見に何を求めていたのか

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「いご草ちゃん」から遠く離れて

樺太を旅する過程で、月島と鯉登は、何かに目覚めてゆきます。

月島は、杉元たちにとっては敵として登場しました。樺太編までの月島は、第七師団では珍しい常識人です。

彼の本性があらわれてゆくのは、樺太編以降。この中で明かされるのが、月島の幼馴染である「いご草ちゃん」との関係です。

悪童と嫌われている月島を唯一「基ちゃん」と呼んでくれた彼女。

月島が日清戦争から戻ったら駆け落ちしようと約束していたものの、月島の父が我が子は戦死したと触れ回ったため、彼女は入水したとされます。

それを知った月島は、怒りのあまり父を撲殺したのでした。

しかし、彼女は生きていたのだと鶴見は語ります。

財閥に身染められた彼女に、月島とのことを諦めさせるため、父は戦死の嘘を広めた。死を偽装し、彼女は東京に向かったというのです。

しかし、新潟出身の兵士は、彼女の遺骨は月島の家の下から見つかったと語る。鶴見が月島への同情を集めるために、婚約者を殺した父親という偽装をしたともされる。

真相は謎です。

のちに金持ちご令嬢として出てきた金子花枝子の回では、癖毛の田舎娘が、彼女の兄にみそめられたと語っています。

彼女がいご草ちゃんなのか……やはり真相は不明。彼女の本名である「春見ちよ」はファンブックで明かされています。

彼女についての真相は?

ここで敢えて断言します。

どうでもいい――。

月島が彼女への思いを断ち切る場面は、二度あります。

鶴見に忠誠を誓う際、彼女の髪を捨てました。

出産直後、月島が気にしている女性の居場所を占おうかとインカラマッは言います。

月島は迷いなく断りました。このタイミングと、鶴見と鯉登への態度も重要です。

月島は、鶴見の行動の動機に亡き妻子への愛があると死ると、かなりの憤りを見せていました。

最愛の人への思いを捨てた自分に対し、鶴見は妻子への思いゆえに動いている。そのことが許せなかったとみなせます。

一方、インカラマッの出産時、月島は鯉登の言動に感服しています。

インカラマッとの子の父は、谷垣でした。第七師団を裏切った谷垣がインカラマッの元に駆けつけたことを察知した月島は、彼を殺そうとします。

そこには相手が裏切り者であるということだけでなく、嫉妬もあったのかもしれません。

そんな月島を鯉登は上官命令だとして止め、谷垣を見逃すべきだと諭したのです。

月島はこの命令に従うだけではなく、あきらかに感銘を受けた顔をしています。

鶴見には失望した。鯉登には希望を見出した。いご草ちゃんへの思いから、そこが察知できます。

鶴見に対しては、いご草ちゃんへの未練を断ち切る場面は暗い決意に満ちている。

一方、インカラマッに探さなくて良いと言い切る時はスッキリとしています。

いご草ちゃんは、月島にとって未練そのものの擬人化のような存在といえます。

彼女の抜けた穴を埋める存在があればそれでよい。鶴見はそうなりかけてできず、鯉登はできたのです。

 

鯉登と向き合い、自分自身を取り戻す

金塊争奪戦が『ゴールデンカムイ』の目標です。

しかし、第七師団トリオにとってはそうでないのかもしれない。

月島を間に挟んだ鶴見と鯉登は、どちらが月島に相応しいのか争っているようにも思えます。

鶴見は油断していたのかもしれません。

月島は律儀で常識的な性格です。鶴見はそんな月島を悪事に加担させ、まだ幼い鯉登狂言誘拐計画の実行犯としました。

月島、尾形、菊田の三人がロシア人を装い、鯉登を誘拐する。

そこに鶴見が颯爽と救出へ駆けつける。

海軍人の父を持ち、海軍へ進むはずだった鯉登は、このロマンチックな誘拐事件によって鶴見に惚れ込み、陸軍へ進むのでした。

鶴見も語っていたように、日本では陸軍は長州閥、海軍は薩摩閥、そして仲が悪い。薩摩閥のボンボンである鯉登は、両者をつなぐというお世辞も通じるといえばそうです。

とはいえ、何もかもが嘘だった。

よりにもよっていたいけな少年を騙したのだから、月島だって距離を置くだろう。いざとなれば殺せと命じておけばよいのだ――鶴見としてはそんなところでしょう。

ところが、尾形のヒントから鯉登は騙されていたことを導きだし、樺太から戻る前、月島に聞き出そうとします。

このとき月島は、鶴見劇場を最前列で見たいとキッパリと告げました。そこで鯉登は無茶苦茶な反応をしつつ、誤魔化しました。月島はあのバカなボンボンに戻ったと騙されたのかもしれません。

しかしこのすぐあと、鯉登は杉元との戦いで重傷を負います。このとき鯉登を心配すらしない鶴見に、月島は憎悪を感じています。

ビール工場で戦った際は、月島はアシㇼパ追跡よりも鯉登救出を優先してしまう。

このあとの鶴見への報告の際、鶴見相手では興奮して薩摩言葉になる鯉登は、無意識下でも冷静に報告してしまいます。

樺太で鶴見と離れてから、月島の心はスイッチを切り替えるというよりも、グラデーションのようにだんだんと鯉登へと傾いてゆくのです。

そして戸惑いの中、月島は自分自身にも向き合い、何かを取り戻してゆきます。

月島だって、鶴見が自分を騙していた可能性を無視できたわけではない。けれども自分なんて存在は、何の価値もないからしかたないと諦めていた。

そんな月島に対し、鯉登はまっすぐな目を向けてくる。

そうしてその目に見られていくうちに、月島は自分自身の価値を見出していくようにも思えます。

鯉登はそそっかしく、わけがわからない。

危険性を察知する能力も低いわ、痛覚も鈍いわ。コミュニケーションもまっとうにとれない。月島がいなければ何度死んでいたことか。

月島の価値とは、鯉登と共にいることで高まってゆく。

鶴見には月島の代替がいるけれども、鯉登はそうとも思えない。月島にとって鯉登の存在が大きくなればなるほど、彼自身の存在価値も高まるのです。

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