鯉登音之進

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中川大志さんが演じる鯉登音之進って一体何なんだ?ゴールデンカムイ深掘り考察

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自分を納得させられれば強いが……

鯉登音之進はわかりにくい人物像といえます。いや、これ以上ないほどわかりやすいとも思えます。鶴見に認められたいという一心で突き進んできましたから。

目標を設定し、それに向かってまっすぐに進めと言われれば強い。

しかしそれは逆に予定変更に弱いということでもあります。

鯉登は自分の想定や予定が変更されると、パニックに陥ったり、怒ったりします。

樺太では異常なまでの量の荷物を持ち込んでいましたが、想定外の事態に備えすぎてああなったのでしょう。

初登場時、飛行船の上で尾形を見つけて怒ります。予想外だったのでしょう。鶴見と思わぬところで出くわすと叫ぶ。先遣隊派遣を聞かされると叫ぶ。

それでも自分の力で考えて納得すれば、かえって前に進めるようになります。

尾形が投げかけた「満洲鉄道のことを聞いてみろ」というかすかなヒントをもとに推理し、自力で鶴見の洗脳を解く。最終局面では永倉新八との会話で精神的欠点を悟り、克服することでついには土方歳三を撃破します。

鯉登は自力で考え、自分を納得させることができれば著しく成長します。

最終回でも月島は鶴見の形見を探していたのに、鯉登は完全に割り切っている。それどころか、部下を庇い抜くという次の目標が定まっていて、迷っている時間はありません。

月島から見ると、その姿は確かにどこまでも真っ直ぐなものでした。勝敗が定まればそれに悩まず撤退し、敗戦処理へ進める。名将の条件を彼は備えています。

ただし、その思考回路が掴みにくいし、日頃ものすごく頭が悪そうな言動ばかりを繰り返してしまう。

すぐに出る表情。極端な喜怒哀楽。鈍感すぎるか、敏感すぎるか。

振り幅が広すぎて、周囲からすれば理解できません。

 


規格外、どこかズレている鯉登音之進

ユーモアセンスがおかしい。

悪いことをしてもあまり謝らない。

キレやすい。皮肉っぽく、失礼なことを平然と口にする。

そういう人間的な弱点だけでなく、長所も多い。

プラスにせよ、マイナスにせよ、振り幅が常人と異なるがゆえに、理解しにくい。

これは本人も自覚があるようで、周囲に気遣うよりも一人でいる方が気楽そうではあります。

けれどもたまに理解する鶴見のような存在ができると依存してしまう。

そんな鯉登音之進は、鶴見よりも月島の方が自分にとってははるかによい理解者だと悟ったラストに思えます。

鯉登は作中随一のチートキャラともいえます。

あの無茶苦茶な状況で軍法会議を潜り抜け、第七師団長になるとすれば、どんな手を使ったのか気になるところです。

それでも彼ならどうにかできるような気がする。彼は規格外ですから。

 


鯉登の長い人生はまだまだこれからだが

鯉登音之進の苦労はこの先にあるとわかります。

彼は軍人をやめない、むしろ士官で居続ける。

するとこれから、空気の読めない彼にとって地獄のような歴史が始まります。

自分で納得できないことは、気になって仕方ない上に従えない。そんな彼にとって「日本はすごい!」という神頼みで戦う時代は、醒めない悪夢そのものでしょう。

最後の第7師団長から名前をとったとはいえ、彼がそうなることがどれほど苦しいことか。

自分を納得させ、酔いしれるしかないのか。

そうしたにせよ、醒めたときはどれほど辛いことか。

彼は後天的な要素よりも、先天的なズレにより苦労が蓄積する宿命にあります。

金塊争奪戦は、どこかずれた彼の人生の始まりに過ぎません。あるいは、あるがままにふるまえた最後の青春の日々でしょうか。

飄々として明るく能天気なようで、彼はどうにもわだかまりがある。

燦々と陽の光がさすのに、激しい雨が降っている。

そんな生きることそのものが天気雨のような鯉登は、どう昭和へ向かっていくのか。

想像すると切なくなるのです。


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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

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