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【我妻善逸】
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箱の穴を埋めるには
善逸が執着し、依存する相手――。
それは何もかわいい女の子だけでもありません。
自分より年下の少年・正一にも強い依存を見せ、炭治郎に叱られています。
その炭治郎にだって依存気味です。信じたい人を信じて騙される……と、本人も振り返っています。
育手である桑島慈悟郎のことも慕っています。彼のために尽くしたい気持ちがある。あの羽織は師弟愛のあかしです。
善逸が妄想に耽るとき。そこにはもちろん禰豆子への愛もありますが、それだけでもない。立派な人だと認められて、賞賛されて、師匠の誇りとなりたい。そんな願いがあります。
善逸はそのキャラクター性ゆえに「エッチで弱さを認められる男の子だなぁ」と解釈されてしまいますが、本当にそうなのでしょうか?
師匠のことをよく思い出しているし、そこに答えがあるのでは?
ものすごく寂しい少年なのでは?
そんな彼の内面が明かされるのが、17巻144話からの兄弟子・獪岳との戦いでした。
同じ雷の呼吸の使い手で、兄弟弟子。それだけに因縁があり、かつ二人はよく似ておりました。
正反対のようで、そっくり!
それは145話「幸せの箱」で表現されています。二人とも、心の中の幸せを入れる箱に穴が空いていました。
善逸は“雷の呼吸・壱ノ型”しか使えない。
獪岳は“雷の呼吸・壱ノ型”が使えない。
二人とも、箱に穴が開いていました。
この話の表紙で、善逸が何でその穴を埋めたのかがわかります。
炭治郎と伊之助の間で、善逸はうれしそうに笑っている。
獪岳は一人、難しい顔をしている。
ここが彼らの分かれ道だったのでしょう。
善逸は、穴を埋めたくて、騙されまくる。女の子や正一に依存しようとし、蝶屋敷でセクハラを繰り返し、禰豆子に花を届ける。けれども、そうではなく炭治郎や伊之助たちと遊び、修行をし、戦うことで、穴が塞がれていった。
くどいようですが、セクハラだの、禰豆子ラブだの、そういうことは善逸の成長にはそこまで直結していないのです。
自分が考える最高のスペックの女、つまりは16歳の少女をコレクションする沼鬼。
人を騙して従わせ、籠絡するものの、中身が何もないと罵倒される童磨。
彼らを見ていれば、性的な欲望や支配欲を満たしたところで、心に穴が開いてたり、空洞だったらしたら、何の意味もないとわかります。
善逸は、誤解されやすいし、しょうもないところはたくさんある。
けれども、本質は自分自身の空白を埋めることから始める。
実はそういう強くてスゴイ奴なのです。
けれども、繰り返しますように善逸はそこまで一人で到達できない。
鬼が散る間際、心の穴を埋めてしまう。そんなカウンセラー気質持ちの炭治郎との出会いと交流あってのことでしょう。
善逸の本質は、エッチなところでも、女の子へのラブでもない。
師匠や友達との関係を通して、穴を埋めて、自分を成長させたこと!
穴が埋まったからこそ、これから先、愛や未来も箱の中に納めていけます。
善逸は強いからこそ、自分の弱さを吐き出せる!
これほど強ければ、人気投票首位も当然です。
努力精進を怠らず、誠実に生きていれば……
善逸が、心の穴を埋められずに失敗することもある――公式ファンブック『キメツ学園‼︎』は、そんなエピソードが収録されています。
教師たちにバレンタインチョコレートをもらう秘訣を聞く善逸が、無惨に失敗してしまうのです。
この作品では善逸も、アドバイスをする美術教師・天元もまちがっている。
炭治郎は、スペック重視女子相手では真実の愛は見つからないと澄んだ目で言い切ります。
そのうえで、
「努力精進を怠らず、誠実に生きていれば、いつかそれに気づいて認めてくれる素敵な女性が現れるよ」
と語るのでした。
善逸はそんな相手を「恋愛観は中年のオッサン」と返すのですが……。
本編での善逸を見ていると、炭治郎は正しいとわかります。
誠実に戦い抜いて、まず心の穴を埋めたからこそ、彼は成長できました。
天元方式でチョコを1個もらったところで、善逸の穴は埋まらない。いや、善逸ではなく、誰だって埋まらない。
炭治郎の教えを漫画だからと笑い飛ばさず生きることで、誰もが理想に近づけるかもしれません。
『鬼滅の刃』は、役立つ漫画です。
ラッキースケベ、風呂のぞき……そういうかつてあったお約束ではない、真実の愛へ導く――それが21世紀の少年漫画なのでしょう。
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文・小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考】
『鬼滅の刃』3巻(→amazon)
『鬼滅の刃』アニメ(→amazonプライム・ビデオ)