『鬼滅の刃 片羽の蝶』/amazonより引用

この歴史漫画が熱い!

『鬼滅の刃』が少年漫画を変えた!善逸・沼鬼・伊之助らで変えたのだ

2020年は良くも悪くも『週刊少年ジャンプ』にとっては歴史的な一年となりました。

『鬼滅の刃』が大人も子供も巻き込み、社会現象になるほどの爆発的ヒット!

しかし、その『鬼滅の刃』が連載終了を迎えてしまい、今後の部数減少が懸念される中、衝撃的な事件が発生しました。

◆「物語は女子高生のスカートの中にある」 強制わいせつ逮捕原作者の犯行動機【少年ジャンプ「アクタージュ」原作者】(→link

人気作品『アクタージュ』の原作者が、未成年を相手にしたわいせつ行為により、突如連載が打ち切りとなってしまったのです。

これまで発売されていた既刊も販売(配信)停止という、あまりに重い処分がなされました。

実は『週刊少年ジャンプ』に連載経験のある作家が、性犯罪によって処分を受けたのは、これが初めてではありません。

◆少年ジャンプ編集部、『女子トイレマーク』マンガを掲載中止に「セクハラ」の批判相次ぐ 2017年(→link

◆ 4月放送開始のアニメ、“胸をお触りできる”パネルを展示し物議 昨年は“等身大お尻”が騒動に 2019年(→link) ※ジャンプフェスタについて記載あり

直近数年だけでも、このような事件を起こしています。

表現の自由についても「憲法で保障されている」とは確かにその通りですが、どんなことでも許される免罪符ではありません。過去には問題とならなかった表現も、現在はタブーになっていることがあります。

例えば、未成年飲酒、喫煙、シンナー吸引などの描写ですね。かつては不良のシンボルとして描かれたものでした。

1990年には『燃えるお兄さん』が職業差別描写で回収騒動となったこともあります。

それから30年もの月日が経過し、時代は今や2020年代。

あらゆる表現は、社会的責任と折り合いをつけながら進めねばならず、そうした風潮も強くなってきました。

その辺の対応が素晴らしいと思えるのが『鬼滅の刃』です。

一体どういうことか?

なかなか結論が見えにくいかもしれまえせんが、一つずつ紐解いていきたいと思います。

 


少年漫画って何だろう?

漫画雑誌は、なぜ男女で分かれているのか?

起源は、少年向け・少女向けの雑誌にまで辿り着きます。

炭治郎の親世代が生きていた明治時代――日本では出版ブームが起こり、裕福な家庭の子ども向けの雑誌が、男女別々に発行されました。当時の少年や少女たちをあるべき姿へ導きたいという出版理念があったものです。

ここで重要なのが根底にある【ジェンダー感】ですね。

書き手の性別、生来の性別による違いは、必ずしも反映されているわけでもありません。社会が形成するその性別らしさ、そうあって欲しい願いが、そこには反映されています。

こうした少年、少女雑誌に掲載されていた小説が、やがて漫画へと変化。

生まれたのが、少年および少女漫画向け雑誌です。

少年漫画はバイオレンス、歴史もの、バトル要素。

少女漫画は恋愛、キラキラした世界観。

かつてはそんなお約束があったものですが、平成に近づいた頃から段々と垣根が崩れてゆきます。

腐女子が『キャプテン翼』や『聖闘士星矢』を題材にしていたことは、当時から有名でした。

コミックマーケットにしても最初から女性の参加者は多く、『ジョジョの奇妙な冒険』の単行本に掲載されたファンレターの文面、

「あーん! スト様が死んだ!」

はファンにはよく知られているところでしょう。2020年現在、女性をターゲットにした『ジョジョの奇妙な冒険』コスメや化粧品だって大人気ですね。

もはや、著者も読者も、少年漫画は少年だけのものじゃないことなんて明白。

バレンタインデーに男性キャラ宛てのチョコレートがどっさりと届いていたでしょうから、編集部だって女性読者の存在に気づかないなんてこともありえません。

つまり『ジャンプ』は男女が読む雑誌として作られるべき――となり、前述の通り『鬼滅の刃』はその辺が完璧であります。

 


“毒となる男らしさ“はいらない

少年漫画でありながら、少年に対してまったく優しくない。

『鬼滅の刃』ではそんな殺伐とした世界が展開されます。

出会って間もない、まだ幼い炭治郎たちは、全人格を否定されるような厳しい台詞を吐かれました。

富岡義勇にせよ、錆兎にせよ。そこまでしばきあげなくてもよいのでは……とは思えます。

これはなにも鬼滅隊だけでもなく、特に罪のない、たまたま鬼のいる場所に居合わせただけの男性まで出くわすことのある、地獄のような世界観です。

本作の大きな特徴として、状況分析が細かく、そのぶんセリフやモノローグが長いため、ますます逃げ場がない。

ただ、これも大正という過酷な時代には、日本男児が宿命的に直面していた状況とも言えます。

江戸時代まで、戦場で戦うのは基本的に武士階級のみとされていました。その武士ですら、太平の世では「真剣を見ない」ことが当然となっています。

そんな武士の規範が、一般庶民まで規定され、徴兵制度が制定されたのが大正時代でした。

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ひとたび徴兵されて訓練を受けるとなれば「それでも男か!」と怒鳴られるのが当然となってしまう。訓練についてゆけなければ、厳しい鉄拳制裁もある。

よい兵士となり、国のために命を捨てることが男児本懐とされ、刷り込みがなされてゆきます。

物語も、愛唱歌も、教科書も。

社会全体が男子にそうした価値観を刷り込んでゆくのですから、合わない人にとっては辛い人生が待っています。

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義勇や錆兎が特に厳しいわけでもなく、社会全体がそうなりつつあったことは、認識せねばなりません。

この男らしさの押し付けが、暴力的で息苦しいのであれば、それは描写として成功です。

男らしさのマイナス点、理不尽さを描くことによって、賛美ではない批判的な精神を見出すことができます。

実は男らしさって、むしろ有害ではないの?

”toxic masculinity(毒になる男らしさ)”という問いかけは、2020年の最先端をゆくものです。

「炭治郎が男ならば、って言われているけど。あれってどう思う? 嫌だな、って思わない?」

「炭治郎のよいところって、優しさや思いやりじゃないかな?」

こういうことを大人と子どもで語り合える――そんな思考実験の材料となるのであれば、本作は貴重な教材にもなり得ます。

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