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【五代友厚】
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次々に襲いかかる大阪経済の混乱
1868年、そんな大阪にとどめをさすような決定を、明治新政府が行います。
銀目廃止――。
江戸時代の通貨は、東日本が金、西日本が銀がメインのお金として流通していました。
これを統一するため、銀を廃止したのです。
安心してください、貨幣を変更するだけですよ。と言われても大阪の人は納得できまえん。
ため込んできた銀貨がゴミくず同然になるのか!?
そうパニックになります。
「えらいこっちゃ!」
結果的に銀は大暴落し、多くの商人が耐えきれずに潰れました。さらに……。
大名貸債権の棒引き――では、大名家が消滅して明治新政府となり、あらゆる藩における借金が帳消しとされました。
大名に金を貸していた商家が、一気に爆発四散という衝撃の展開です。
こんなトリプルコンボを乗り切れる商家はごく一部だけしかありません。
政府と早くから結託できたような一部の大商人だけでした。
前述『あさが来た』のヒロインも、こうした困難に直面。
きわどい言葉で維新を罵倒していましたが、こんな目にあえばそれも納得というものです。
史実における五代友厚と広岡浅子(あさが来た主人公のモデル)の間にさほどの面識はないとはいえ、彼ら二人が商業都市大阪復活の鍵を握るキャラクターとしてドラマに描かれたのは自然なことでした。
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痛恨の「開拓使官有物払下げ事件」
薩摩藩士の若手が集まり結成されたグループ・精忠組。
彼らの尊皇攘夷思想をナンセンスと片付け、薩摩人のメインストリームから外れたところにいた五代は、それでも大久保利通とは懇意でした。
これまた『あさが来た』でも、五代と大久保は親しい仲でしたね。
こうした五代の立ち位置は、プラスに働くこともあれば、マイナスに働くこともありました。
プラスの例が「大阪会議」です。
明治8年(1875年)、明治政府の要人である大久保利通・木戸孝允・板垣退助(征韓論で下野していた板垣は同会議から復帰→再び下野する)らが集い、今後の方針についてまとめた集まりのことです。
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征韓論で西郷隆盛らが下野した後、政府をどう舵取りするか。
それを話し合う、重要な場でした。
この場に参加し、取りまとめたのが五代でした。

大阪会議開催の地にあるレリーフ/photo by ごーちゃん wikipediaより引用
そんな五代と政府のつながりが、最悪の時代を引き起こしたのが明治14年(1881年)「開拓使官有物払下げ事件」でした。
1869年(明治2年)に設置された「北海道開拓使」は、1882年(明治15年)に廃止。その長官が、五代と同郷の黒田清隆であり、黒田は、格安無利子で開拓使官有物を五代に払い下げることにしたのです。
これに対して、薩摩閥の台頭に憤っていた政敵が批判に回ります。
各地で弾劾集会が開かれ、新聞も批判記事を連日掲載。
五代も黒田も、悪意はなかったかもしれませんが【非常に脇が甘かった】と言わざるを得ません。
◆赤字になるから格安だという説明をしていない
◆薩摩以外の者からの引き渡しを拒否していた
◆同郷同士でのやりとりだった
とまぁ、100%クリーンな状況ではなく、不透明な部分をつっこまれても仕方ない取引。これは五代の経歴に、大きな傷を残しました。
政府との関わりが強かったとはいえ、五代はその関係を悪用してはいません。
むしろ当時政府と結託していた大商人と比較しても清廉潔白な部類であり、特権を利用したりはしませんでした。
戦争で儲けようとする「死の商人」タイプでもありません。
たまたま、悪いタイミングで、脇の甘いことをしたら突かれてしまった――ということでしょう。
しかも五代の事績において、教科書にまで掲載されるような大事件はこの「開拓使官有物払下げ事件」のみとなってしまうのです。
それゆえに歴史に詳しい方にはかえって
「ずるい政商」
だというイメージを抱かせてしまったかもしれません。
彼が立ち上げてきた実績の大きさを考えると、格安で官有物を払い下げて貰わなければならない理由はほとんどありません。
かくして失意の事件から4年後の明治18年(1885年)、五代は糖尿病のため死去。享年49でした。
西郷どん原作には登場しておりました
結局、大河ドラマ『西郷どん』には登場しなかった五代友厚。
実は林真理子氏の原作では、島津斉彬生存のころに仙巌園(せんがんえん)で出会った設定でした。
父親の影響で国際感覚に優れた五代に対し、斉彬直々に質問するというもので、その後、西郷が二度目の島流しから復帰した後に再会するのです。
アメリカで南北戦争が起きているため「木綿の需要」が上がり、それで商売せよと西郷に勧めたのが五代でした(実際にバク儲けとなる)。
ただし、これはあくまで本筋とは関係ない部分。
結局『あさが来た』のディーン・フジオカさんで、あまりに人気が出過ぎたキャラは扱いにくかったようで。
次は、五代を主役にした物語で出会いたいものだなぁ……と思っていたときに本日公開されたのが映画『天外者(てんがらもん)』ですね。
故・三浦春馬さんの熱演を見ることができる最後の作品でもありましょう。
大いに期待が募ります。
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文:小檜山青
【参考文献】
『商都大阪をつくった男五代友厚』宮本又郎(→amazon)
『国史大辞典』