『日本国紀』(著:百田尚樹/幻冬舎)

文化・芸術

もしも史学科の大学生が『日本国紀』スタイルで卒論を書いたら?

参考文献ナシでは何も成立しない

そして本書最大の問題点。

「参考文献がない」

これは本当にいただけません。

大学で歴史学を学ぶ上で、最初に叩き込まれることは、
「出典はあるのか?」
ということです。

曹操が兵士に、
「あの先に梅の木があるぞ!」
と言ったところ、唾液が湧いて来て喉の渇きが癒えたというエピソードがあります。

「梅林止渇」という四文字熟語にもなりました。

これに対して中国史専攻の学生が、
「横山光輝『三国志』でもありましたよね〜、だからありってことじゃね? 曹操ならキャラ的にやりそうじゃないですか」
と真顔で回答をしたら、教官から容赦ないダメ出しされるのはご想像がつきましょう。

模範解答はこうです。
「この逸話の出典は、『世説新語』【仮譎】ですね」
ちゃんと元ネタに当たり、ソースを示すことが必須です。

それなのに『日本国紀』にはそれがない。
出典や参考文献なしで何かを主張しようと無効扱いされる――それが歴史の学問というより、一般社会でも常識でしょう。

「それは、誰の功績なのか? 誰がドコで言ったのか?」
という裏付けが常に求められるハズです。

小説ならば作者のオリジナルで問題ありません。
が、歴史書として発売するのでしたらこれはまずい。
もちろん卒論だってアウト。普段のレポートさえ受け付けてくれません。

本サイトでも、記事末には必ず【参考】という形で文献名やWEBサイト名が提示されています。
※現在は『国史大辞典』を基本に取り組んでおります

 

エンタメとしてか 学問としてか

「いいじゃん! 専門家でなくても歴史を語りたいよ!」

そんなご意見もありますし、実際に多くの書籍も販売されています。
エンタメで歴史を楽しむ分には、将来的に研究者を増やすキッカケにもなりますし、実際、これまで『信長の野望』や『横山三国志』が与えてきた影響は計り知れないものがあります。

しかし、です。
学問としての歴史となると話は別です。

「いいじゃん! 専門家でなくても手術したいよ!」
「いいじゃん! パソコンの使い方わからなくても、ITセキュリティ担当したいよ!」
「いいじゃん! ライセンスなくて、カーレーサーになりたいよ!」

なんてことを真顔で言われたら、違和感しかありませんよね?

学問としての歴史だって同じです。
その道のプロが、史料をあたり、論文を書き、実地調査する。

一つのテーマだけで何年もやらなければいけません。

その積み重ねの一つ一つが結晶となり、教科書に反映されているのです。

それを漢文廃止論を唱えながら、日本の歴史全体を網羅している――というスタンスは、やっぱりおかしい。
素人が手術にチャレンジするようなもので……。

なお、武将ジャパンは、学問としての歴史もエンタメとしての歴史も、楽しくわかりやすく皆さんと共有したい――それが基本姿勢であることはサイトの立ち上げ(2013年)から記してきました(以下に引用)。

エンターテイメントとしての歴史とアカデミックな歴史の間には大きな隔たりがあります。この2つの歴史に「橋」をかけ、もっと楽しもうではないか、一緒にワクワクしようじゃないの、と人の輪を広げていくのが武将ジャパンのミッション。(本サイトより

最後に、
【学問としての歴史学を学びたい人】
には、どんな一冊がオススメなのか?

私がコレだと思う一冊は
中国古代史研究の最前線 (星海社新書)』(→amazon link
です。

『中国古代史研究の最前線』キングダム好きにも受験生にもオススメの理由

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歴史学とはどういう学問か?
どうアプローチすべきか?
思想信条が歴史研究に反映されることもある。

そういったことがコンパクトにぎゅっとまとまっておりまして、これぞまさしくお値段以上の価値アリです。

文:小檜山青(学生時代は東アジア史を専攻・卒論テーマは『清代の政治』)

【参考】
中国古代史研究の最前線 (星海社新書)』(→amazon link
『日本国紀』

 



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