『鬼滅の刃』11巻/amazonより引用

この歴史漫画が熱い! 明治・大正・昭和

『鬼滅の刃』珠世~大正時代の女医が現代リケジョの呪縛を打ち砕く

『鬼滅の刃』は、登場人物設定がともかく斬新。

鬼との戦いにおいて重要な役割を果たす珠世は、自身が鬼であり女医でもあり、大正当時も現在も魅力的な存在です。

そんな彼女の真髄に、歴史面からアプローチしてみましょう。

 

明治維新と不都合なジェンダー

これからは明治の世! 男尊女卑の時代は終わった!

だからこそ珠世様も女医になれました……と、まとめられそうですが、そう簡単な話でもなくて。

明治維新は、ジェンダーとしては江戸時代より悪化した部分があります。

日本の伝統として存在して来た女性の権利が、西洋に存在しないとなると「時代遅れだから廃止しよう!」となってしまったのです。

一方、西洋由来の女性の権利は「日本の伝統に馴染まないから、やめておこう!」と取り入れられなかった。

もっと真面目に考えましょうよ、明治政府!

そんなツッコミどころ満載の史実がありました。

せっかくですから『鬼滅の刃』を機に、男尊女卑と戦うための日輪刀でも手に入れてみましょう。

・薩長閥の価値観

江戸時代の価値観は、藩によってかなり異なりました。

長州藩はオシャレでモテて……と言えばカッコいいけれど、女遊びをスマートにする気風がありました。

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一方、薩摩藩は男尊女卑。

あまりにダイナミックな政治家の下半身事情や青少年の間で広まる男色があり、江戸っ子は

「おはぎ(萩=長州)と、おいも(さつま芋=薩摩)のせいで最悪の価値観が蔓延した」

と嘆いたものです。

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・ナポレオン法典の導入

明治日本は、諸外国の制度を参考にします。

その中で有名なものがナポレオン法典。法体系としては優れているとされたものの、ジェンダーにおいて大問題がありました。

ナポレオンの出身は、イタリアに地理的に近く、男尊女卑の気風が強かったコルシカです。

そんなコルシカ流の女性観を政治に反映したため、女性の権利はむしろブルボン朝時代より後退したと指摘されます。

女性文学者であるスタール夫人も、これには大反発。日本は、こうした西洋流の男尊女卑を取り入れてしまったんですね。

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・女性天皇・女系天皇の廃止

当時の大英帝国はむしろヴィクトリア女王の華やかな最盛期。

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それなのに、どういうわけか女性天皇、女系天皇への道を閉ざしました。

こういうことをすると、皇位継承者が減るので将来危険だと、誰か思い至らなかったのでしょうか。

・夫婦同姓

これも明治以降です。

・未婚女性の進路が塞がれる

明治以降、日本政府はともかく人口増大を狙います。

人類全員が結婚し、家庭を作ることは、実は本能でも伝統でもありません。

未婚のまま己の道を極めたい――そんな女性へのプレッシャーはむしろ高まりました。

・身を売る境遇に落とす女性もいる/娼婦への目線につきまとう自己責任論

明治維新の結果、負け組となった側が家を養うために身を落とすことも。

『鬼滅の刃』には遊郭がきっちり出てきていますね。楽しいけれども、女装した炭治郎のような少女すら人身売買されていたということです。

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「朝ドラでは女性が活躍できる時代と描いてきたのにおかしい!」

そういう反論もあるかもしれません。しかし、ああいう綺麗なドラマは、醜い史実を隠すものであります。

 

女医が直面する現実

明治維新は、女性の生き方を広げたようで、実はそうでもない。

その最たる例が、珠世の職業である女医です。

明治維新によって、医学も変わりました。

ただ単に新たな技術が入ってきただけではない、根本的な改革でした。

江戸時代と比較して、地位がグンと向上する。最先端の技術を学ぶ専門家として、重要性が上昇します。

病気を阻止して、強い国づくりをするのだ!

そのためには医学だ!

そう盛り上がったのです。

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野心にあふれた北里柴三郎が医学を目指した背景にも、そんな世論があったことでしょう。

そうなると、女医は災難にみまわれます。

江戸時代以前にも、女医はいました。特に産婦人科となれば、女医の方がよいという見方も当然のことながらあります。

それが明治以降、こんな偏見がはびこってしまった。

「江戸以前の女医は、漢方やせいぜい蘭方。ドイツ、フランス、イギリス……そうした国の新技術を学べなければいけない」

「医者の地位向上! こんな立派な学問を、女にやらせてたまるか」

「女医に免許は交付しない! 医学部にも入学させない! 入学したら嫌がらせしてやるからな!」

「女が勉強? 生意気だ! 女が地位を得るなどゆるさん! 嫁に行け! 学費? 出してたまるか!」

「どうせ醜女の行かず後家が、嫁に行けないのを悔しがって、学びたがっているんだろう? 夫の世話でもしていればいい」

「女は生理や出産育児があるからダメだ!」

「女はヒステリーがある! 医者なんかつとまるか!(※ヒステリーとは? 子宮や性的欲求不満と結びつけ、女性特有としたもの。現在に至っても女性とヒステリーを結びつけることを見かけますが、非科学的差別です)」

「月の穢れで医療施設が汚される!(※生理のこと。ただの迷信かつ差別です)」

ヒステリーは西洋、月の穢れは東洋、なんだよそれ……と呆れたくもなりますが、現在でもこうした偏見を完全払拭しきれていないことが、どうにも頭を抱えたくなる話です。

女医はもはや消えてしまうのではないかと思われたほどです。

とはいえ、女医がいなければ困るのは女性なのです。

維新後、女医がいない状況に異議を唱え、熱心に女医の道を開いて欲しいと動いた女性はいました。

萩野吟子。生沢クノ。高橋瑞。吉岡彌生……困難に負けず、彼女たちは奮闘します。彼女たちは、女性をなんとしても救いたいという思いも胸に抱いていました。

婦人科の診察となれば「男の医者はどうにも……」と患者本人も、周囲の家族も思うものです。妊産婦の死亡率も高い。

様々な妨害に阻まれながら、女医への道を拓くべく、彼女らは生きていったのです。

◆ 墓地の骨で勉強…130年以上続く、女子医学生差別の歴史(→link

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