藤原忯子

画像はイメージです(源氏物語絵巻/wikipediaより引用)

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藤原忯子~花山天皇に激しく寵愛された"女性像"は源氏物語に反映?

大河ドラマ『光る君へ』で花山天皇が即位すると、藤原忯子を寵愛する様子が描かれました。

手首を縛られるシーンの艶かしさに、話題は沸騰。

女官が顔を赤くするほどの激しい寵愛ぶりだと語られましたが、その後、程なくして彼女は花山天皇の子を身籠ったまま亡くなってしまいます。

激しい寵愛ゆえに歴史に名を残した彼女は一体どんな女性だったのか?

藤原忯子の生涯を振り返ってみましょう。

 


寵愛され世を去り、名を残す

まず「忯子(しし/よしこ)」という名前について。

「忯」とは「好む・愛する」という意味となります。彼女は名前通り、愛により名を残す人生を送ることになります。

安和2年(969年)、藤原為光と嫡妻の間に生まれました。

劇中ではんにゃの金田さんが演じる藤原斉信は、その兄。永観2年(984年)に花山天皇が即位すると入内を果たし、そこで藤原忯子は熱烈な寵愛を受けました。

花山天皇とは一歳差で、二人はまだ10代半ばを過ぎたばかりであり、身を焦がすほどの激しい愛となったのでしょう。

しかし寛和元年7月18日(985年8月7日)、忯子は世を去ってしまいます。

最愛の女性を失い、花山天皇の精神状態は著しく悪化します。

そこを藤原道兼と、その背後にいる藤原兼家につけ込まれ、出家のうえ退位させられてしまいます(【寛和の変】)。

※以下は花山天皇と寛和の変の関連記事となります

『光る君へ』で異彩を放つ花山天皇は即位後に実際何をしたのか?

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歴史的に重大な事件の契機となったことで、彼女はその名を残しました。

天皇に入内したといえども、若くして世を去ったとなれば、名前しか残らなくとも不思議はありません。

花山天皇が凡庸な生涯を送っていれば、特にそこまで印象に残らない人物だった可能性があります。

 


寵愛は命を奪う

忯子の死は、歴史だけでなく文学においてもヒントを与えていてもおかしくはありません。

源氏物語』の冒頭、桐壺更衣という女性が登場します。

帝にこのうえなく愛されるものの、そのために嫉妬され、帝しか味方がいないと思えるほどの状態に追い込まれました。

二人の間には玉のように美しい皇子が生まれます。

桐壺更衣はそれで強くなるどころか、ますます体調が悪化。

しかし帝は「実家に帰りたい」という彼女の思いを聞き入れません。

いつも体調が悪いのだし、片時も離したくないのです。実家の母の訴えでやっと里に下がるものの、そこまで帝はやってきて激しく愛します。

衰弱しろくに口も聞けない最愛の女に、帝は「朕を一人にしないでくれ」と嘆くばかり。

彼女はこう詠みます。

限りとて 別るる道の 悲しきに いかまほしきは 命なりけり

これがあなたと別れるのかと思うと悲しい。でもそれよりも、私が行きたかったのは、生きてゆく道でした。

帝の寵愛を独占しているのに、別れることは悲しい。

でも、そんな別れの悲しさよりも、こうして死んでしまうことが辛い――こう言い残し、実家で桐壺更衣は亡くなるのでした。

そんな両親から生まれたのが、主役の光源氏です。

光源氏は母の面影を求め、多くの女性たちを地獄に堕としてゆきます。

母の面影を宿した父である帝の藤壺中宮を慕い、ついには通じてしまう。

藤壺の面影が宿る紫の上を愛するものの、彼女は絶望のうちに命を落とす。

紫の上を絶望させた女三宮にせよ、藤壺と似ていることを期待していた。

桐壺帝は最愛の女を愛で殺した。そんな二人の間に生まれた光源氏は、おそろしい愛を繰り返していく。

『源氏物語』とはいったい何なのか――改めて紫式部はおそろしい作家だと思えてきます。

この物語を手にした人々は、桐壺更衣の儚い生涯を読み、ゾッとしてもおかしくはありません。

これはどこかに実在した寵姫のことだ。あの方も、こんなふうに思って世を去っていたとすれば、どれほど苦しかったことだろう。

額に汗を滲ませながらそう読む誰かがいても、おかしくはない状況でした。

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愛という暴力で、母を殺す

光源氏は、花山天皇を彷彿とさせる愛の暴力性を持つ人物です。

花山天皇の過度の好色は悪名高いものでした。娘の天皇入内こそ出世の糸口であるにも関わらず、あえて避けようとした者たちも多かったほどです。

まず、即位式で女官を引き摺り込み、房事を行う。

母と娘を同時に愛し、比較していた。

好色がたしなみの王朝貴族でも眉をひそめ、天皇の務めが子作りといえど、いくらなんでもやりすぎではないか?と困惑してしまうほどの事態でした。

母と娘を両方愛するという行為を、光源氏もしています。

即位した花山天皇と同じ年頃の17歳の時、光源氏は偶然夕顔と出会いました。

さして身分は高くないけれど、とてもいい感じの女性。

身分が高いから噂になると困るし、人目につかない場所でこっそりアバンチュールを楽しみます。

そして、うとうとしていると、夢に別の年上女、六条御息所が出てきました。

「私は放っておいて、そんなどうでもいい女とお楽しみってことなの?」

そう言われハッとして目覚めると、隣の夕顔は死んでいました。享年19。

これは光源氏の交際相手であった六条御息所の祟りということにされますが、そう片付けてよいものでしょうか。

さびれた場所に女を連れ込んで、さんざん二十歳前の愛欲をぶつけていたら相手が死んでしまった……って、酷い話だと思いませんか。

「ヤベェ……これが世間にバレたら最低だ、炎上必至じゃね」

過激写真が流出したアイドルのように慌てふためく光源氏ですが、彼の敏腕マネージャーのごとき従者がテキパキと指示を出し事件を隠蔽するのでした。

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