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【国司・受領・遙任・大宰府】
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大宰府とは
歴史上の大宰府と言えば?
真っ先に天満宮と共に菅原道真を思い浮かべる方も多いかもしれません。
中央での政争に巻き込まれて飛ばされてしまった「左遷先」のイメージが強く、伊周と同様にマイナスな印象も強いでしょうか。
しかし大宰府は「西の窓口」ともいえる非常に重要な役所で、奈良時代から存在したとされています(それ以前から名前の異なる同様の機関があったとも)。
設置当初は、必要な物資すら調達できないような状態でしたが、天智天皇二年の【白村江の戦い】で日本が敗れてからはそうも言っていられなくなり、防戦設備なども整備。
以降も大宰府は発展して参ります。
そもそも大宰府のある筑前国は、当時数少ない貿易港も備えてましたので、唐や新羅などの大陸人がやってくることも多くなり、現代でいうところの入管庁のような仕事もしていました。
大陸人が来訪した場合、持ち物の検査や国家間の文書を持っているかどうかなどを確かめて、直ちに京へ報告し、どのように扱うべきか指示を仰いでいたのです。
唐や宋からの輸入品はとにかく貴重なものばかり。
よって回収できる税も多く、筑前の国司や大宰府の役人も財力のある者が比較的多くいました。
しかし藤原伊周のように中央でもトップだったような貴族からしてみると、地方の任官など下の下。
いくら名目的にトップの役職を与えられても流罪同然の措置でした。そうでなければ事件を起こしたことへの懲罰になりませんしね……。
なお、大宰府の役職は上から以下の通りになります。
帥(そち)
弐(すけ)……大弐(だいに)と少弐(しょうに)
監(じょう)……大監(だいげん)と少監(しょうげん)
典(さかん)……大典(だいてん)と少典(しょうてん)
国司とは若干異なるので、余計にややこしいですね。
『源氏物語』の大宰大監
『源氏物語』にも大宰大監についていた人物が登場します。
玉鬘の話題の序盤で「大夫の監(たゆうのげん)」という人です。
本来大宰大監の位階は正六位なのですが、特別に一段階上の従五位下に除されていたため、従五位の異称である”大夫”をつけて呼ばれています。
玉鬘は幼くして母・夕顔を亡くし、乳母の一族に庇護されていました。
そのうち乳母の夫が大宰少弐に任じられたため、乳母一族に連れられて玉鬘も筑紫へやってきます。
乳母一族は
「いつか姫様を京都にお連れしなければ」
と思っていましたが、あれよあれよという間に時が過ぎ、美しく成長した玉鬘のことがいつしか噂になりました。
そしてあっちこっちから求婚者が現れるようになってしまいます。大夫の監もその一人で、財力に物を言わせて玉鬘と結婚しようとしたのです。
しかし乳母一族は大夫の監が乱暴であり、容姿が玉鬘に似つかわしくないため渋っていました。
そこである日こっそり船に乗って京都へ戻り、初瀬の観音さまのもとで元夕顔の女房・右近と再会して、光源氏の元へ身を寄せることになります。
その後、大夫の監について作中で触れられることはないのですが……おそらく、大夫の監は財力的には良い結婚相手だったでしょう。
玉鬘の乳母一族も、彼の外見と性格がもう少し温厚だったなら、そのまま結婚させたのではないかと思われます。
物語がつまらなくなってしまいますので、そうするくらいなら紫式部は玉鬘の話を描かなかったでしょうけれどね。
★
こういった官職の人々の財力、そして任地と京を往復する旅路は、ずっと都にいた高位の人々にはない財産でした。
紫式部も、父が越前守に任じられた際に現地へ同行した経験があったため、光源氏が須磨へ隠棲した際などの旅の描写がリアルになったのではないか?という指摘があります。
『源氏物語』は恋愛を主軸として描いているため、伊予介や大夫の監は、現代風のイヤな言い方をすれば”負け組”ですが、彼ら個人としては十二分に”勝ち組”といえるでしょう。
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長月 七紀・記
【参考】
国史大辞典
『源氏物語』
ほか