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【藤原惟規】
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紫式部のマイペースな弟
寛弘6年(1009年)の大晦日、中宮御所に盗賊が押し入るという事件が起きました。
大変だ!
いやしかし、これを取り押さえたら手柄となる。
あの場所には弟もいるはず、活躍したかな? ドキドキ……。
と、紫式部は期待していたようですが、果たして結果は?
藤原惟規はさっさと退出していました。
この大事なときに、要するに早期退勤していたということで、姉の紫式部はガッカリしたとか。
性格については、姉がシャイで内向的、人の目を気にする性格であった一方、弟の惟規はマイペースで、自由気ままに振る舞うおおらかな性格であったことが日記等から伺えます。
そんな性格の違いもあって、姉は弟への評価が辛くなってしまうのかもしれません。
しかし、考えてもみてください。
わざわざ弟のちょっとしたことでも書き記すということは、「困った子だなあ」と苦笑しつつも、愛着があったのではないでしょうか。
ドラマの人物像はその辺も踏まえた可愛らしさがあるような気がします。
ただ、それにしても単なる陽キャだったとも思えません。
第35回では、『今昔物語』に登場した逸話が取り上げられました。
斎院に侵入して捕えられた際、こう歌を詠んだのです。
神垣は
木の丸殿に
あらねども
名のりをせねば
人とがめけり
斎院の神垣は、あの「木の丸殿」ではないけれども、私が名乗らなかったせいで、人に咎められてしまったな。
これを見た斎院の選子(のぶこ)内親王が良い歌だと気に入り、無罪放免とされていました。
一体あの歌にはどんな仕掛けがあったのか?と言いますと……。
天智天皇は、斉明天皇崩御の際、木の丸御殿で喪に服した。ここは入る時に名を名乗らねばならなかった――。
そうした歌の状況を踏まえ、藤原惟規は「木の丸殿ではないけれど、どうやら名乗らなければならかったのか」と引っ掛けて詠み、その機転が評価されたのですね。
「口は災いの元」にはならず「芸は身を助く」となったんですなぁ。
父・為時とともに越後に赴き夭折
藤原惟規は、姉が日本史上に名を残す秀才であるため、評価が下がっている部分も大きいのではないでしょうか。
経歴を見ると、決して悪くありません。
若くして文章生(もんじょうしょう)となり、その後も順調に出世を遂げています。
長保6年(1004年)には少内記(しょうないき)となり、位記の作成を担当。
以降も、兵部丞(ひょうぶしょう)、六位蔵人(ろくいのくろうど)、式部丞(しきぶしょう)となり、寛弘8年(1011年)には従五位下に叙爵されています。
モヤッとする位階と官位の仕組み 正一位とか従四位ってどんな意味?
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これに伴い、蔵人式部丞を離れ、越後守に任ぜられた父・為時と共に越後へ赴任します。
しかし、越後の地で早々に亡くなってしまいました。
父・為時、姉・紫式部の嘆きはどれほどのことであったか。
為時は任期一年を残し越後守を辞め、長和(1014年)に都へ戻っています。
惟規は、『惟規集』という歌集を残しており、勅撰和歌集にも9首収められました。
藤原為時の子のうち、漢籍知識が最も豊かであると見なされているのは、やはり紫式部です。
知識量は書いたものに反映されます。
『源氏物語』をはじめ、紫式部の著作は圧倒的なまでに漢籍からの引用が多いのです。
だからといって、他の子たちが劣ると見なされるのは不条理。
惟規についても、夭折したため、残せるものが少なかったことも影響しているのではないでしょうか。
ただし『光る君へ』で描かれる世界の中で、このきょうだいの対比はまだ温和な方かもしれません。
最上位の上流貴族ともなれば、兄弟や親戚間で権力闘争が勃発。
誰が世継ぎとなるか?
関白や大臣の座を占めるのはどの一族か?
などなど骨肉の争いは至るところで起きていて、そうした厳しい関係と比較すれば、この姉と弟はやさしく微笑ましいとも言えるでしょう。
『光る君へ』で描かれる藤原惟規と紫式部のきょうだい像を今しばらく楽しみたいところです。
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◆配役はこちら→光る君へキャスト
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
NHK出版『光る君へ 紫式部とその時代』(→amazon)
他