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土方歳三の愛刀を遡ると、九州の龍造寺家が見えてくる歴史の妙味! 本郷和人東大教授の「歴史キュレーション」

更新日:

 

日本中世史のトップランナー(兼AKB48研究者?)として知られる本郷和人・東大史料編纂所教授が、当人より歴史に詳しい(?)という歴女のツッコミ姫との掛け合いで繰り広げる歴史キュレーション(まとめ)。

今週のテーマは、土方歳三の愛刀が遡り、色々と考察していると、現れたのは何と「九州のヒグマ・龍造寺隆信さんだった!」というお話です!

 

【登場人物】

本郷くん1
本郷和人 歴史好きなAKB48評論家(らしい)
イラスト・富永商太

 

himesama姫さまくらたに
ツッコミ姫 大学教授なみの歴史知識を持つ歴女。中の人は中世史研究者との噂も
イラスト・くらたにゆきこ

 

◆戊辰戦争で用いた土方歳三の愛刀、京都で常設展示 霊山歴史館が入手、29日から 産経新聞 4月22日

「きゃー、きゃー。トシさまー」
本郷「まあ、そうなるよねえ。イケメンは偉大だなあ」
「コホン。ごめんなさい。取り乱して。大丈夫よ。大人の女性である私は、世の中がイケメンだけじゃないことをちゃんとわきまえているから。あなたとも、表面的には親しくお話ししてあげるわ」
本郷「それはどうもありがとお! しくしく。くそお。イケメンなんてみんな爆発すればいいのに」
「はいはい。まあ、その辺で。でも、トシさまの愛刀は和泉守兼定、脇差が堀川国広じゃないの?」
本郷「国広まで、よく知ってるね。司馬遼太郎の『燃えよ剣』には兼定のことは触れられていたけど、国広なんて出てたかな?」
「もちろん『刀剣乱舞』よ。決まってるじゃない」
本郷「あああ、そうかあ。そうきたかあ。だからイケメンはいやなんだよ。はぜてしまえ!」
「コンプレックスがひどいわね。まあ、スルーして、と。他にも用恵国包とかを知っているけれど、今回の刀は大和守秀国というのね。決して有名な刀工じゃないでしょう?」
本郷「うん、そうだね。あ、そういえば、司馬先生は和泉守兼定を2代目の兼定、大業物として知られる『之定』だと書いてるけど、これはフィクションだというのは知ってる?」
「もちろんよ。実際にトシさまが帯びていたのは、幕末に活躍した会津藩お抱えの刀工である十一代目の兼定なんでしょう? 渡辺多恵子先生の『風光る』(小学館)だって読んでるもの。常識よ」
本郷「ああ、そうなんだ。お見それしました。それでね。大和守秀国も、会津侯お抱えの刀工だったみたいだよ。そうだとすると新撰組の人がこの刀を持っているのは自然でしょう? 他にね、近藤勇が同郷の井上源三郎のお兄さんに秀国の刀を贈っているらしいし」
「そうなの。そういう刀工なのね。それで、トシさまがこの刀をつかって、上司に献上したということだけど。そのあたりの事情を説明して」
本郷「うん。刀の表と裏には字が彫ってあるようだ。表には大きな字で「大和守源秀國」、小さな字・追記で「秋月種明懇望帯之」。裏面には大きな字・追記で「幕府侍土方義豊戦刀」、大きな字で「慶応二年八月日」、小さな字・追記で「秋月君譲請高橋忠守帯之」とあるようだね。だから、この刀は秀国が慶応二年に打ったもの。他の字はこの刀についての他のデータを示している、ということだね」
「義豊はトシさまの諱ね。だから、この刀は土方歳三が戦いに使った刀です、というわけね。それで秋月種明云々はどう読むのかしら?」
本郷「うん。秋月種明懇望帯之というのは、秋月種明、懇望してこれを帯す、と読ませたいのだろうね。だとするとね、細かな話だけれど、土方が上司に献じた云々という解釈は違和感があるね。秋月が『すみません、その刀を私にくれませんか』とお願いした、ということでしょう?」
「そもそも、その秋月という人は誰なの?」
本郷「幕府の伝習隊の第一大隊長、秋月登之助。江戸城が落城した後、近藤勇と分かれた土方は伝習隊の参謀として転戦した。たとえば宇都宮城を攻めたりしたんだね。それでよく、隊長が秋月で参謀が土方、みたいに書いてあるものが見受けられる」
「だから、その秋月さんはトシさまの上司、というわけね」
本郷「うん。だけど違うんじゃないかな。秋月はあくまでも第一大隊の隊長でしょ。伝習隊全体の隊長は大鳥圭介。それで参謀が土方。だとするとさ、新撰組を思い出してよ。参謀が伊東甲子太郎で一番隊の組長が沖田総司でしょ。伊東と沖田、どっちが上?」
「ああ、なるほど。参謀は山南さんの総長とほぼ同格だから(厳密には参謀が上位)、沖田くんより伊東さんが明らかに上位ね。となると、伝習隊でトシさまの上司は大鳥さんだけ、ということね。五稜郭では大鳥さんが陸軍奉行、トシさまが陸軍奉行並だから、この上下関係は納得ね」
本郷「そうでしょ?だから、土方が上司に云々はへんだよね。それに、どう見たって、当時の武士の格として、幕臣の土方が秋月の下位にくることは考えられないもの」
「秋月さんは幕臣なの?」
本郷「いや、会津藩士だよ。ああ、先にもう一文の『秋月君譲請高橋忠守帯之』だけど、ぼくは中に点を打って読むべきだと思う。『秋月君譲り受く、高橋忠守これを帯す』とね。だから、この刀は土方から秋月君が譲り受けた。そして今は私、高橋忠守が帯びているんだ、という意味にとれる。高橋という人は全く分からないんだけれど、この人が追記の文字を彫り込んだ人なんじゃないかな」
「秋月さんから高橋さんへの譲渡の経緯は記されてないけれど、慶応二年に作られたこの刀は、『土方→秋月→高橋』と所有者が代わった、という見立てね」
本郷「そうだね。それで話を元に戻して秋月登之助だけど、本姓は江上、というらしい」
「江上? 秋月と全然関係なさそうだけど」
本郷「そう思うでしょう? それが違うんだなあ。むかしむかし、九州の太宰府周辺に大蔵氏という名族があった。大蔵は『源』とか『藤原』と同じく、姓ね」
「ああ、知ってるわ。その大蔵氏の嫡流は、源平の合戦の時に平家方として太宰府を押さえていた原田氏でしょう?」
本郷「おお、おみごと。平家とともに滅びた、その原田氏の名前は?」
「ええと、『たねなお』よね。胤直とか種直とか書かれていた記憶があるけれど」
本郷「そうそう。たぶん『種直』が正しい。この家はみんな『種』の字を使うんだ。それで、秋月も江上も、この原田の分家なんだよ」
「へー、そうなの。だから登之助さんは、秋月を名乗ったのね。でも九州の武家がどうして会津にいるわけ?」
本郷「あわてない、あわてない。あのね、江上家はこのあと、九州北部で繁栄する。ざっくり言うね。原田氏の太宰府での優越的な地位を継承したのが、東国から派遣された武藤氏。武藤氏は太宰少弐に任命されて、少弐氏を名乗るようになる。この少弐氏の家老みたいな存在が江上家なんだ」
「少弐といえば、鎌倉・南北朝・室町・戦国と活躍した北九州随一の名門よね。その重心だったのね、江上家は」
本郷「そう。ところが下克上の戦国時代、江上家は肥前の龍造寺の軍門に降った。そのことによって少弐氏は滅亡するんだけど、ともかく、龍造寺の重臣になるんだ。戦国大名として有名な『肥前のヒグマ』龍造寺隆信は次男を江上氏に養子に出す。これが江上家種」
「あら。やっぱり『種』がつくわね、名前に。そういえば、龍造寺って、隆信が沖田畷の戦いで島津軍と戦って戦死した後、鍋島家に乗っ取られるのよね。鍋島の化け猫!」
本郷「うん。まあ、そう簡単に乗っ取れたわけでもないんだけれど、結局は鍋島直茂が龍造寺家を乗っ取って、大名になるわけだ。江上家種は反・直茂の立場だったらしくてね。龍造寺家を守ろうとしたんだけれど、朝鮮の釜山で戦死を遂げる」
「家種の死もあって、肥前の大名は鍋島家になる、と。それで?」
本郷「江戸時代になってしばらくした後、龍造寺伯庵という人物が幕府に対して何度も訴え出た。だけど、いまさらだよね。ほとほと困り果てた幕府は、会津の保科正之に伯庵を預ける処分を下したんだ」
「やっと出た! 会津!」
本郷「そう。それで、龍造寺家は会津の家臣になるんだね。300石だったかな。で、そのときに」
「わかったわよ~。江上家も伯庵とともに会津に行って、会津藩士になったのね。秋月登之助はもともと江上家の出身で、その子孫ということねー。それで彼の名前も『種』明なんだー。さいごにね、秋月さんは結局どうなったの?」
本郷「会津の攻防戦で戦死したともいうんだけれど、 会津若松市の興徳寺にある江上家の墓所には、『秋月登之助 明治18年1月6日 行年44才』と記されている。戦いを生き抜いたのかもしれないな。ともかく、たいへんな人生だったんだねー」

 

 

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