鄒氏

絵・小久ヒロ

三国志女性列伝

三国志女性列伝・鄒氏 そもそも曹操との間にゲスロマンスは成立せず?

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当時の儒教規範を知ることも大事

当時の儒教規範に則して考えると、こうなります。

・同族の中で年長者である、族父未亡人の恋愛に張繍が口出しする理由はない

・もしもそんな女性に想いを寄せていたとしたら、張繍の方が非常識

・夫が生きているのであればともかく、未亡人であるからには貞操を守る義理もない

・別に鄒氏が誰と恋愛しようと、そんなことは悪いわけでもない

どういうことか?
当時の儒教や価値観では、男女よりも年齢の方が重視されました。

族父という年長者の妻である鄒氏がどう判断しようと、年少者の張繍がそのことに口出しすることそのものが非常識なのです。

未亡人の貞操、「貞女二夫に見えず」という価値観も、そこまで厳しくありません。

これについてはこんな有名例もあります。

始皇帝の母・趙姫と嫪毐(ろうあい)の関係です。

己に逆らった嫪毐と母・趙姫の関係を知った始皇帝は、激怒しました。

そこで趙姫に厳しい措置を取っていたのですが、のちに許しています。親子の情愛もなかったとは言い切れませんが、実はこう説得されていたのです。

「母上はもう未亡人です。義理立てする夫がいない。それなのに、そこを責めるのは筋違いですよ」

始皇帝もこれには納得したわけで。

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曹操と鄒氏のアバンチュールがあったとされる後漢末の価値観も『三国志演義』が成立した時代よりもこちらに近い。

フリーになった未亡人と何を楽しもうが、当時の曹操がそこまでウダウダ責められる筋合いはありません。

当時、曹操の正妻であった丁氏にしたって、

「私の曹昴(※丁夫人が亡くなった生母代わりに養育していた)を殺した!」

とは責めておりますが、そこにゲス行為云々のニュアンスがあるかどうかは不明です。

曹操本人も、前述の通り己の油断を反省しています。

悪意を込めて考えれば、ゲスな下半身事情に結びつけられるのでしょうが、素直に取れば【油断したのが悪い】だけの話です。

油断の中身だって、酒を飲んで酔い潰れていただけの可能性はありましょう。

曹操は何かあるごとにやたらとはしゃぐ性格ですので、バカなことをやらかしていても不思議はありません。それがいやらしいことかどうか、そこはわからないわけです。

ゲスなのは曹操なのか?
曹操をゲスにしたい創作者なのか?

そこは考えねばなりません。

 

時代に応じて悪女・鄒氏は更新されてゆく

後漢から魏晋南北朝の価値観では、鄒氏の恋愛は特に問題がないということになる。

曹操の逸脱も、あくまで警備上の問題になる。

ところが、そういうことを後世の人間は認められない。話を盛っていくわけですね。

張繍が鄒氏に片思いであったとか。時代背景的にあり得ない話が取り沙汰されたりする。

はたまた激怒して殺してしまうとか(京劇「戦宛城」等)。これも当時の儒教規範からするとおかしい。

三国志演義』では、ここまでゲスになりました。

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曹操が「なんかこういうときはやっぱり、キレイなプロのお姉ちゃんと騒ぎたい!」と言い出す。すると曹安民がこう返す。

「めちゃいい女みつけたんですよ〜。プロじゃない、張繍一族・張済の未亡人なんですけどね!」

「そんなにいい女なら、未亡人でもいっかあ。連れてきちゃいなよぉ」

こうして、ゲスな曹操は、しょうもないお遊びをするのでした。

と、ここで当時の文人たちは考えました。

「どうすればもっと盛り上げられるかな?」

【明代・李卓吾の場合】

鄒氏は、悪どい曹操が正室にすると騙したから、関係しちゃったんです。
曹操って嘘つきでやーねー!

【清代・毛宗崗の場合】

うーん、これだとそこまでインパクト強くないんだよなぁ。

未亡人を妻にする、これは我々の時代としてもそこまで悪くないっていうかさあ(実は清代でも再婚は現実的な選択肢でした。理想と現実には乖離があったのです)。

ここはもっと、淫乱であって欲しい。ゲスな男にはゲスな女でしょ。そこで、曹操とこういう会話にする!

「うひょ、こうして会ったのもなんかの縁ですね。俺の愛人として、都でリッチなセレブライフ送りませんか?」

「やだぁ〜マジぃ〜❤︎」

こういう会話にホイホイ釣られる、まさしくビッチですね!

そういう金目当てのゲス女と愛欲に溺れる曹操。最低最悪じゃないですか!

こうなってくると、曹操も鄒氏も気の毒でしかありません。

「いやむしろ、なんかゴタゴタ盛った上で、俺の下半身事情でハッスルするお前らの方がゲスじゃねえの!?」

曹操がそう言いたくなったとしても頷くばかりです。

 

ヒロインは引き立て役であり、価値観の反映でもある

現代においても、この鄒氏との関係はやたらと盛られていて、もう何がなにやら……。

考えてみれば『三国志』の人物は長いこと二次創作、薄い本をひたすら作られてきたようなものです。

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ともかく、彼らはわけのわからん盛られ方をする。

これが現代でも同じことでして。
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そんな彼女が想いを寄せても、関羽は応じません。

あのロマンスに何か意味はあるの? 邪魔じゃない?

むしろ関羽と曹操の方が……そう言いたくなるかもしれませんが、意図は想像がつきます。

「うーん、あんな可憐な美女に思いを寄せられても、劉備への忠義から断る関羽は立派な方ですねえ」

関羽の人徳を強調するために、綺蘭を出していると。

 

『三国志』関連は、ともかくヒロイン像も刺激的です。

けれども、どうして彼女らがそういう造形なのか。少しジックリ考えてみると、もっと見えてくるものがあるかもしれません。

孫尚香、二喬……彼女らのことも、また改めて考えてゆきたいと思います。

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文:小檜山青
絵:小久ヒロ

【参考文献】
李貞徳/大原良通『中国儒教社会に挑んだ女性たち』(→amazon
仙石知子/渡邉義浩『「三国志」の女性たち』(→amazon

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