こちらは3ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
【鄒氏】
をクリックお願いします。
お好きな項目に飛べる目次
お好きな項目に飛べる目次
時代に応じて悪女・鄒氏は更新されてゆく
後漢から魏晋南北朝の価値観では、鄒氏の恋愛は特に問題がないということになる。
曹操の逸脱も、あくまで警備上の問題になる。
ところが、そういうことを後世の人間は認められず、話を盛っていくわけですね。
張繍が鄒氏に片思いであったとか。時代背景的にあり得ない話が取り沙汰されたりする。
はたまた激怒して殺してしまうとか(京劇「戦宛城」等)。これも当時の儒教規範からするとおかしい。
『三国志演義』では、ここまでゲスになりました。
『三国志演義』は正史『三国志』と何が違うのか 例えば呂布は美男子だった?
続きを見る
曹操が「なんかこういうときはやっぱり、キレイなプロのお姉ちゃんと騒ぎたい!」と言い出す。
すると曹安民がこう返す。
「めちゃいい女みつけたんですよ〜。プロじゃない、張繍一族・張済の未亡人なんですけどね!」
「そんなにいい女なら、未亡人でもいっかあ。連れてきちゃいなよぉ」
こうして、ゲスな曹操は、しょうもないお遊びをするのでした。
と、ここで当時の文人たちは考えました。
「どうすればもっと盛り上げられるかな?」
↓
【明代・李卓吾の場合】
鄒氏は、悪どい曹操が正室にすると騙したから、関係しちゃったんです。
曹操って嘘つきでやーねー!
↓
【清代・毛宗崗の場合】
うーん、これだとそこまでインパクト強くないんだよなぁ。
未亡人を妻にする、これは我々の時代としてもそこまで悪くないっていうかさあ(実は清代でも再婚は現実的な選択肢でした。理想と現実には乖離があったのです)。
ここはもっと、淫乱であって欲しい。ゲスな男にはゲスな女でしょ。
そこで、曹操とこういう会話にする!
「うひょ、こうして会ったのもなんかの縁ですね。俺の愛人として、都でリッチなセレブライフ送りませんか?」
「やだぁ〜マジぃ〜❤︎」
こういう会話にホイホイ釣られる、まさしくビッチですね!
そういう金目当てのゲス女と愛欲に溺れる曹操。最低最悪じゃないですか!
こうなってくると、曹操も鄒氏も気の毒でしかありません。
「いやむしろ、なんかゴタゴタ盛った上で、俺の下半身事情でハッスルするお前らの方がゲスじゃねえの!?」
曹操がそう言いたくなったとしても頷くばかりです。
ヒロインは引き立て役であり、価値観の反映でもある
現代においても、この鄒氏との関係はやたらと盛られていて、もう何がなにやら……。
考えてみれば『三国志』の人物は長いこと二次創作、薄い本をひたすら作られてきたようなものです。
エロい盛られ方もする。そんなスピンオフ『金瓶梅』が名作になってしまった『水滸伝』よりはマシかな?
『水滸伝』ってどんな物語なの?アウトローが梁山泊に集うまでは傑作なんだけど
続きを見る
『金瓶梅』は中国一の奇書?400年前の『水滸伝』エロパロが今なお人気♪
続きを見る
「紅迷」(紅楼夢オタ)によるヒロイン推し論争がむやみに熱い『紅楼夢』よりはマシかな?
究極の美少女作品『紅楼夢』って?中国を二分する林黛玉派と薛宝釵派
続きを見る
ともかく、彼らはわけのわからん盛られ方をする。
これが現代でも同じことでして。
2011年の映画『三国志英傑伝 関羽』におけるヒロイン・綺蘭は、劉備の側室になる女性です。
これが21世紀理想の関羽像だ!『KAN-WOO 関羽 三国志英傑伝』感想レビュー
続きを見る
関羽は死後が熱い!「義」の代表が「万能の神」として崇敬されるまでの変遷
続きを見る
そんな彼女が想いを寄せても、関羽は応じません。
あのロマンスに何か意味はあるの? 邪魔じゃない?
むしろ関羽と曹操の方が……そう言いたくなるかもしれませんが、意図は想像がつきます。
「あんな可憐な美女に思いを寄せられても、劉備への忠義から断る関羽は立派な方ですねえ」
関羽の人徳を強調するために、綺蘭を出しているんですね。
『三国志』関連は、ともかくヒロイン像も刺激的です。
けれども、どうして彼女らがそういう造形なのか。少しジックリ考えてみると、もっと見えてくるものがあるかもしれません。
孫尚香、二喬……彼女らのことも、また改めて考えてゆきたいと思います。
あわせて読みたい関連記事
三国志に登場する絶世の美女・貂蝉は実在せず?董卓と呂布に愛された伝説の女性
続きを見る
ディズニー映画『ムーラン』の元ネタ 中国の女戦士「木蘭」とは?
続きを見る
始皇帝の生涯50年 呂不韋や趙姫との関係は?最新研究に基づくまとめ
続きを見る
『三国志演義』は正史『三国志』と何が違うのか 例えば呂布は美男子だった?
続きを見る
『水滸伝』ってどんな物語なの?アウトローが梁山泊に集うまでは傑作なんだけど
続きを見る
『金瓶梅』は中国一の奇書?400年前の『水滸伝』エロパロが今なお人気♪
続きを見る
絵:小久ヒロ
文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
李貞徳/大原良通『中国儒教社会に挑んだ女性たち』(→amazon)
仙石知子/渡邉義浩『「三国志」の女性たち』(→amazon)
他