三国志の魅力は?
何と言っても強靭な肉体の武将や、頭脳怜悧な軍師、そして美しき姫たちといったキャラクターでしょう。
『横山光輝三国志』の劉備に憧れるのも、『蒼天航路』の曹操に痺れるのも、『三國無双』の貂蝉に見惚れるのも、すべては彼らに孤高の美しさがあるからです。
しかし……史実においてはそんな衣装じゃないし、持ってる武器も疑わしい……なんて言われたらどう思われます?
弊サイトでは、三国志記事の公開にあたり、漫画家の小久ヒロ氏にイメージイラストを用意して貰っていますが(TOPの画像もそうです)、発注の際に困るのが、この時代考証でした。
特に頭を悩ませるのが美女たち――。
装飾品や衣装はもちろんのこと髪型から体つき(スタイル)まで、どのように描けば魅力的で、なおかつ史実に則して描けるのか?
これまでの三国志作品では、どのような時代考証をしてきたのか?
その辺を調べながら実際に記事を公開してきて
【三国志女性をイラストにするときの注意点】
がいくつか浮かんできましたのでご報告させていただきます。
全国の絵師さんに向けた情報ではありますが、一般的な話も盛り込んでおりますので、最後までお付き合いいただければ幸いです。
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『三国志』を描くということ
『三国志』をモチーフとしたイラスト・キャラクターはもはや数え切れないほど数多く出回っているでしょう。
漫画やアニメに限った話でななく、最近はソーシャルゲームでも、美少女になった武将が大勢登場。
そうした作品に対して、いちいち時代考証を突っ込むのも野暮ですが、実は『三国志』の世界には多くの考証ミスが見られます。
それは日本だけではなく、本場中国においても同様でして。
正確性を重視するのか?
お約束の派手な衣装で見る者を楽しませるのか?
そんな悩みを抱えながら『三国志』の物語は、時代を経て洗練されてゆき、ある時代に決定的なアップデートが行われました。
明代の『演義』です。
明代では三国志当時の武器や衣装ではなく、当時の人が一番イケてるものを採用。
関羽の青龍偃月刀にせよ、張飛の蛇矛にせよ、彼らのリアルタイムであったかどうか極めて疑わしく、むしろ「無い」と考えた方が妥当でした。しかし……。
だからといって、あの勇壮な武器を持たせなければ、ファンもガッカリしてしまうことは確かでしょう。
※低身長関羽と突っ込まれつつもカッコいいので許される『三国志英傑伝 関羽』
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甲冑にせよ、明代のものと思われるものを着用している作品も多いものです。
技術の進歩ゆえに、歴史を正しく再現したものは地味に思えるのですね。
日本では唐代の影響が強かったから……
一方で、日本代表とも言える『横山光輝三国志』やNHK人形劇『三国志』は、唐代のものに近い。
日本の仏像は唐の影響が強く、日本人の「中国甲冑」といえばざっくりと唐代になってしまう傾向があるのです。
もちろん、横光版のリサーチ不足を指摘したいのではなく、そもそも彼の執筆当時は日中国交正常化以前ということもあり、資料入手の環境も限られておりました。
横光版の董卓や張飛がスリムだったり、伝国の玉璽がかなりミニサイズだったりするのも、背景にそうした事情があったのです。
誤っていても時代考証が明代に引きずられがちな中国。
それに対して、明代と唐代がミックスされてしまう日本。
なんとも興味深い現象がそこには発生しています。
忠実な再現がエンタメとは限らない
むろんフィクション作品はあくまでエンタメです。
時代考証が完璧である必要はありません。
それどころか、生真面目に武器や衣装を再現させた結果、視聴者を落胆させてしまう危険性だってあるでしょう。
「なんか地味じゃない?」
「こういうのは求めていないっていうか……」
そんな感想を抱かせてしまったら、エンタメとしては失敗です。
※『レッド・クリフ』は真面目に考証していました
日本では歌舞伎でも同様の現象が見られます。
鎌倉時代が舞台なのに、その方がカッコいいからと江戸時代の服装にしたり、あるいは『八犬伝』では伝来前の鉄砲を使っていたり。
これは何も過去の作品だけでなく、現代においても同様の現象が見られます。
2020年大河ドラマ『麒麟がくる』では、鮮やかな色の衣装や、帰蝶や明智煕子など女性の立ち膝が「おかしいんじゃないの?」などと言われたりしました。
実際は戦国時代の史実に則したものだったのですが、時代劇で培われた感覚から視聴者が誤認してしまったのですね。
『麒麟がくる』のド派手衣装! 込められた意図は「五行相剋」で見えてくる?
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