そんなこと、いきなり言われても「わけわからん」と思われるでしょうか?
実は、今なおファンの多い『鎌倉殿の13人』について、脚本家・三谷幸喜さんが公式サイトのインタビューで、以下のように語られていたのです(→link)。
シェイクスピアには、おもしろい物語の要素のすべてがある。
和田義盛と三代将軍・実朝。
2人の関係は、『ヘンリー四世』に出てくるフォルスタッフとハル王子に重なります。
三浦義村は『オセロー』に出てくるイアーゴー。
頼家の苦悩は『リチャード二世』に出てくる若き王の哀しみと似ている。
そして頼家の息子の公暁。
彼が置かれた境遇はまさにハムレットそのものです。
※脚本・三谷幸喜さんインタビューより引用(→link)※現在はリンク切れ
「シェイクスピアなんて知らんがな……」という方も後述しますのでご安心ください。
実はこの発想は三谷幸喜さんに限ったことではなく、シェイクスピアが日本で知られるようになった明治時代以降から同様の指摘がありました。
ヨーロッパでも日本でも、今より未成熟な社会で権力者が抱える苦悩や現実は、そう大差なかったということでしょう。
三谷さんが『鎌倉殿の13人』のお手本にしたという『ゲーム・オブ・スローンズ』とも関係があり、非常に興味深い存在となっています。
エンタメとしても、教養としても、今なお世界中で大きな存在であるシェイクスピア――。
『鎌倉殿の13人』が大河ドラマに選ばれるに至った経緯にまで思いを巡らせ、考察してみましょう。
※TOP画像『鎌倉殿の13人 ガイドブック』(→amazon)
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「史劇」から
三谷さんがインタビューで取り上げたシェイクスピアの人物はどんなキャラだったのか?
一つずつ見て参りましょう。
和田義盛と三代将軍・実朝の関係は→『ヘンリー四世』のフォルスタッフとハル王子
フォルスタッフは、ユーモアにあふれた騎士です。おちゃらけていて面白く、若いハル王子の遊び仲間でした。
とにかく人気があったので、あのエリザベス1世が「フォルスタッフでスピンオフを作って!」とリクエストし、喜劇『ウィンザーの陽気な女房たち』が制作されたという説もあるほど。
ハル王子は後のヘンリー5世です。
実際には父・ヘンリー4世と政治的な対立をしていたのですが、シェイクスピアはハル王子が遊び呆けていて、父王が心配しているという描写をしました。
もしも実朝がヘンリー5世になっていたら?と、想像するのも一興ですね。
心を入れ替え即位したヘンリー5世は、フォルスタッフを突き放し、戦場においては冷酷さを発揮するのですが、このくだりなんかは義時と義盛にも重なって見えます。
【アジャンクールの戦い】で勝利をおさめたヘンリー5世。
その様子は、同じくシェイクスピア作品の『ヘンリー五世』で描かれて有名になりますが、彼の子であるヘンリー6世の代に王朝は滅んでしまいました。
源頼家→『リチャード二世』のリチャード2世
プランタジネット朝最後の王である、リチャード2世を主役にした悲劇です。
生まれた時点で環境が悪かったと思える悲劇的な人物。若い王に対し、老獪な貴族はあまりに強かった。
繊細な、破滅する君主の像が、源頼家に反映されたと思えます。
若き鎌倉殿と、【十三人の合議制】のような関係といえます。
なお「フォルスタッフとハル王子、リチャード2世を映像作品で見てみたい!!という方はBBC『ホロウ・クラウン/嘆きの王冠』がオススメです。
「悲劇」から
悲劇からも取り上げられています。
公暁→『ハムレット」のハムレット
父の仇討ちのため狂気を装ううちに、偽りのはずの狂気に呑まれてゆく――そんな様が圧巻だったハムレット。
三谷さんがそう指摘するのであれば、ドラマ内で公暁が暗殺する動機も見えてきます。
ハムレットは自分自身を追い詰め、そして暗殺に至った。
その動機付けにはハムレットの父の幽霊が大きな役目を果たします。
『鎌倉殿の13人』では、比企尼がこの役割を果たしたと言えるでしょう。
三浦義村→『オセロ』のイアーゴー
ムーア人の勇将・オセロは、妻・デズデモーナの不貞を疑い、殺してしまいます。
オセロのそばには、ずっとイアーゴーがいて、あることないこと吹き込み、破滅させるように仕向けたのです。
舌先三寸で狙った相手を破滅させる――まさに三浦義村と言えるのではないでしょうか。
日本版シェイクスピアならば鎌倉時代だ
明治維新を迎えた日本には、西洋列強から数多の文化文芸が流れ込んできました。
衝撃を受けたのが当時の文学者。
勧善懲悪ばかり目立つ日本文学を改革せねばならない!
そんな考えに至る中で、印象的だったのがシェイクスピア作品でした。
日本にも同様の題材はないものか……と探してみれば、鎌倉時代がまさにそうではないか――そこで坪内逍遥が日本版『マクベス』として明治29年に発表したのが「牧の方 」です。
マクベス夫人はシェイクスピア作品の中で最も有名な悪女。夫の心に野心を吹き込み続け、悪事を働く役割です。
一方、『鎌倉殿の13人』では時政と牧の方(りく)、比企能員と道の関係も、マクベス夫妻のような描き方でした。
岡本綺堂の『修禅寺物語』(→link)にも、そうした作風への意識が感じられます。
江戸時代まで、鎌倉時代を題材にした歌舞伎といえば【曽我兄弟の仇討ち】や【源平合戦】が主流でした。
しかも曽我兄弟の仇討ちなどは、とにかく楽しめる陽気な明るさもあったほど。
江戸から近い富士山麓での物語だ!なんといっても仇討ちだぜ!こいつぁ縁起がいい!
そんな豪華で晴れやかな題材として、正月のめでたい季節にスターがずらりと並んで上演されていたのです。こうした伝統は現代に至るまで残っていますね。
しかし、鎌倉時代は別のアプローチも可能。
日本の伝統とは一味ちがう、陰鬱で暗く、権力闘争の惨さを描くこともできる。
そんな考えが広がっていったのが、シェイクスピア作品が導入された明治時代でした。
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