武者震之助です。今年も一年よろしくお願いします!
『真田丸』が放映されないことで喪失感を覚えている方もおられることでしょうが、大河のロスを癒やせるのは新しい大河しかございません。
乱世に生き、翻弄され、それでも家を存続させた井伊直虎の一生を追っていきましょう。
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今川への従属でいきなりダメージを食らう井伊
今年は真田信繁のように、皆が知っている人物ではありません。
そこで、スタート時点で井伊家の背景がざっとナレーションで説明されます。昨年はいきなり武田家滅亡寸前というところから始まってもよかったのですが、今年はそうはいかないワケです。
ここで、井伊家が今川家に従属する過程において、大きなダメージを受けたことに注目してください。
甲冑姿で血にまみれた井伊家の男たちが、悔しそうな表情をしております。
昨年の真田家は生き抜くためにすすんで武田家に従属しました。そしてその武田家が滅びるまでは順調だったわけです。
ところが井伊家にとっては、今川家が存続する限り、頭上に重たい石があるようなもの、というわけです。
今年のナレーションは昨年のようにクールな口調ではなく、あたたかみとクセのある話し方です。この調子で「ナレ死」をされたら、それはそれで昨年とは別の方向性で辛い気がします。
そしていよいよ、見るからにおてんばそうなヒロイン・とわ、聡明そうな鶴丸(後の小野政次)、ちょっと線が細い亀之丞が登場。
鬼ごっこをしていて追い詰められたとわは、なんと滝壺に飛び込みます。
水中から映し出されるとわの姿と、流れ落ちる滝の景色。
この流れに子供が飛び込んだら生きては戻れない気がしますが、そこは演出ということで。
この無茶ぶりは、戦国の世の流れに、果敢に飛び込むヒロインの姿をあらわしているようです。
成長後の井伊直虎の姿がうつり、オープニングがスタート。
今年は植物の成長とヒロインの生き様を重ねる映像です。女性主人公に花モチーフの組み合わせは定番といえますが、花のアップが多く、ちょっと理科の時間のような変わった雰囲気です。
テーマはじめ音楽も、昨年とはまた違ったひねりがありまして、一見オーソドックスだけど何かねじれているような印象を受けます。
椿の花と矢が交錯し、首が落ちるように花が落ちるカットはどこか不穏です。
小野政直と井伊直満が怒声を浴びせ合い
滝に飛び込んだとわは無事帰宅しますが、家からは何やら不穏な雰囲気が漂っています。
どうやらとわの婿を今川から迎えるかどうかという話題の様子。
今川からの縁談を持ち出した家老・小野政直に対し、眼帯姿の井伊直満が怒声を浴びせております。
直満はとわの父・直盛にとっては叔父にあたります。真田信繁にとっての矢沢頼綱ですね。
とわは父とともに野駆けへと出かけます。
まだ幼いのに見事に馬を乗りこなすとわ。演じる新井美羽さんは、乗馬もこなすし演技も達者で、今後ブレイクしそうです。
とわという少女は、男子がいないからと男勝りに育てられたようです。
母の千賀は成長とともに落ち着くだろうと長い目で見守っています。父の直盛はとわが男児であればと惜しんでおり、いっそとわに家を継がせようかと冗談半分で言います。
とわはすっかりそのつもりのようです。
帰り道、とわは誰かが自分の馬に飼い葉を与えていることに気づき、不思議に思います。
とわ、直満の子・亀之丞、小野政直の子・鶴丸は龍潭寺で学問を習っています。こ
の仲良し三人組には、変化のときが訪れます。とわの婿に亀之丞を迎えることによって、今川の干渉を防ぐという直満の意見が通ったようです。
とわたち三人組は、とわを見張っている何者かがいるのではないかと、森の中を探索します。
そこで三人が見つけたのは、猫を懐に入れ、酒を飲んでいる南渓和尚。
最近はネコノミクスなんて言われておりまして、侍も忍も猫を抱くのが流行りのようです。本作では僧が猫を抱いております。
しかも南渓が飲んでいる酒は、井伊家初代が捨てられていたという井戸に供えられたものです。
鶴丸は、井戸に捨てられた赤子が成長して井伊家の開祖となったという由来を語り出します。
南渓は、井戸に赤ん坊が捨てられたら溺死すると伝説の矛盾を指摘しどこかへ去っていきます。
亀之丞は、井戸が枯れていたから赤ん坊が無事だった、鶴丸は、井戸端に捨てられていたのを誇張したのではないか、と推理します。
この場面はなかなか好きです。出自がはっきりしていない国衆は、出自が謎に包まれている場合が多いんですよね。
その土地にいた頭の切れる男か、学問を学んだものの流れ者になった男か、商売で儲けた金を元手に頭角をあらわした男か。
そういう素性のわからない実力のある者が、日本各地で土地の者をまとめあげ、「地元の殿様」にまでのしあがる。
どこの誰かわからない始祖に箔を付けるために、これまた頭が切れる僧侶あたりが、神秘的な伝説を作るわけです。
泥臭くて伝奇的で地元に根付いた歴史もまた味わい深いものですが、このあたりの会話からそうしたロマンを感じてぐっと来ました。
「領主になったとしても誰かと結婚するから同じでしょう」
とわの答えが出る前に、病弱な亀之丞が倒れてしまいます。
鶴丸は亀之丞をおぶって家まで送り届けますが、「小野の小童!」と罵声を浴びてしまいます。
鶴丸の父は井伊家でも煙たがられている小野政直。そのせいで息子の鶴丸まで嫌われているようです。
とわは寝込んだ亀之丞を看病します。そこへ亀之丞の父である直満が戻って来て、上機嫌でとわと亀之丞の縁談を告げます。
一人で盛り上がる直満ですが、幼い二人は驚いています。
とわは相手が嫌なのではなく、自分が当主になると思っていたのですね。その動揺を、亀之丞は誤解してしまいました。
家に戻ったとわは、自分は当主になれないのかと父の直盛に詰め寄ります。
領主の仕事は大変だぞと両親に諭され、さらに母の千賀からは「領主になったとしても誰かと結婚して跡継ぎをもうけるのだから同じでしょう」と説得され、とわも納得します。
娘の理屈ぽいところのある性格を理解し、きっちりと説明する両親には好感が持てます。
それと同時に、領主の仕事は大変だと本音を漏らす直盛から漂うたよりなさも感じるのでした。
一方の亀之丞は、病弱な自分ではとわが落胆しているだろうと悩んでいます彼は父と山伏が歩いているのを目撃するのでした。
鶴丸の父・政直は、直満が何か勇み足を踏むのではないか、と危惧します。
直満は密書を先ほどの山伏に託しますが、その後、劇中僅か数秒で山伏は何者かに殺害され、書状を奪われます。
おそらく書状の中身が「勇み足」なのでしょう。
さわやかな幼なじみを描くと見せて、なかなか不穏な展開をしております。山伏一人に密書を運ばせるあたり、直満のセキュリティ意識の低さには驚きます。
昨年、あらかじめ密書を奪われることを見越して息子の信之に運ばせた真田昌幸は、やっぱり異常だったのだとも思いました。
翌日、寺で亀之丞と顔を合わせた鶴丸は、婚約を祝います。
しかし亀之丞はどこか浮かない顔です。とわはこの日から、袴を着けずに女児らしい格好になりました。
そうはいっても大股で豪快に走り、仁王様のような立ち姿です。亀之丞と鶴丸はその姿を見て笑いだします。
おてんばのとわですが、将来の夫として亀之丞を意識し出したようです。亀之丞相も、とわにふさわしい強い男になると誓います。
とわは南渓に、最近何者かが自分を見張っているようだと言います。
それは伝説の「竜宮小僧」だと南渓は語ります。
竜宮小僧とはこの土地に伝わる伝説で、いつの間にか田の手入れや洗濯物の取り入れをしているという、妖怪のような存在なのだとか。
この竜宮小僧といい、本作は積極的に伝奇的な要素を取り入れていると思います。
龍宮小僧?かと思ったら、子どもたちの前に山伏の死体とは!
三人組の青春の裏で、大人たちは不穏な雰囲気が漂っています。
直満が駿府の今川義元から呼び出されたのですが、何か後ろ暗いところがあるのか、直満はどこか挙動不審なのです。
周囲はちょっとおかしいなと思いつつ静観していますが、これが真田一族なら全力で駿府行きを阻止していると思いますね……いやな予感がします。
さらにこのあと直満が亀之丞と妙にハイテンションで語るのも、何かのフラグの気がします。
ここで妙にアバンギャルドなBGMとともに、場面は駿府の今川家に変換。ラスボス感がある今川義元が直満を出迎えます。
さすが今川家、畳の使い方が豪華で、屋敷も立派です。
三人組は竜宮小僧を五日間も探し回っております。
やたらとタフなとわに、鶴丸は、お前が姫だから周囲が気遣っているんだ、空気を読めと文句を言います。
とわがむきになって反論しようとすると、亀之丞が得意の笛を吹き始めます。澄んだ音色が、山の中に響きます。
褒められても取り柄が笛しかないと謙遜する亀之丞です。とわはうっとりと、自分は果報者だとつぶやきます。これは完全に初恋ですね、甘酸っぱいですね。
三人は地下洞の入り口を見つけます。ここはいかにも竜宮小僧がいそうだと探険に乗り出す三人組。
とわはここで、井戸の赤ん坊は竜宮小僧だから溺れなかったのかもと言い出します。
この井戸の中の赤ん坊について三者三様で見解を出すわけですが、それぞれ性格が出ているわけです。
とわはここで何かを見つけ、竜宮小僧ではないかとわくわくして探します。
しかしそこにあったのは、山伏の死体でした。
子供が遊んでいて死体を発見。結構ハードボイルドではないですか。
密書をつきつけられて、何も言えねぇ直満
そのころ、直盛は駿府に呼び出された直満の様子がおかしかったと南渓に相談します。
そこに三人組が、死体発見の報告を持って飛び込んできます。
山伏を弔いながら南渓は、貴重品を持ったままだから物取りの犯行ではないと訝しみます。亀之丞はこの山伏を屋敷で見たとつぶやきます。
無邪気な三人の日常が淡々と進むと見せかけて、いやな予感がします。
直盛の家に誰かがやって来ました。直満が戻ったのではないかと三人組が家に入ると、確かに戻っていました。
ただし、首として……晒し首にならないだけ今川家は優しいとも言えますが。
昨年だって首桶がドンと置かれたのは二話ですが、今年はしょっぱなですか。しかも首桶を抱えて泣く子供付きですか。ハードだな!
亀之丞は父の死に戸惑うばかりです。直満は謀叛の疑いで成敗されました。
疑いどころか、今川は北条宛の密書を手にしていたのでばっちりクロです。
ここで回想シーン。密書をつきつけられた直満は「あ、あう……」とつぶやくばかり。
これが真田昌幸ならしれっと舌先三寸で何とかしそうなものですが……昨年と今年のこの圧倒的な差は……井伊と真田、どちらも乱世に漕ぎ出すわけですが、井伊と比べたら真田はサーフィン、苦難も楽しむサーファーじゃないですかあ!
父の遺骸の前で泣く亀之丞。
一方で父が何かこの事件に関わっているのではないかと察知した鶴丸も、深い苦しみをおぼえます。
それにしても子役の小林颯さん、すごい演技力です。
父と親友の板挟みになる苦悩、聡明さゆえに苦しまねばならない心の動きを繊細な演技で完璧に表現しています。これぞまさに、きらめく才能です。
亀之丞役の藤本哉汰さんも、子役が高レベルの演技合戦を繰り広げています。
今年は子役の期間が例年より長くなります。ここ数年はせいぜい二話あたりまでしか子役を使いませんが、今年は往年の大河のようにじっくりと子役を使うようです。
いかにも喰えない雰囲気のある井伊直平だが
その鶴丸の父である小野政直は、井伊家中でも一人月代を剃っていて、服が妙にキラキラしているんですよね。
浮いています。花をパチッとわざとらしく切る場面が挿入されたり、悪役として記号化されている人物ではありますが、彼にも言い分はあるでしょう。
直満のもくろみ通り北条と結んでいたら、井伊家はどうなったかわかったものではありません。
息子である直満の死を聞きつけ、隠居していた井伊直平(直満の父、直盛の祖父)は激昂して駆けつけます。
直平は小野が直満を売ったのかと激怒。さらに今川が亀之丞の首を差しだせと迫ったと聞き、ますます激昂します。
強そうだけど猪突猛進系だった直満、人はよいけど頼りなさそうな直盛と違って、直平には食えない男という雰囲気はあります。
ただし、智謀を駆使して生き抜く真田タイプからはほど遠いと見えます。
父の死を嘆く亀之丞は、一人山中で思い悩んでいます。
亀之丞は、とわの前で病弱で聡明でもない自分を出来損ないと卑下します。とわは亀之丞は平手打ちをし、そんなことはない、自分が亀之丞の手足となると思いのたけを告げます。
この場面は子役たちの熱演もあり、台詞にも力が入っています。
「おとわは俺の竜宮小僧になってくれるのか?」
そう亀之丞が言ったとき、屈強な僧・傑山によって二人は当て身をくらいます。
とわが目を覚ますと、亀之丞は今川の追っ手から逃れるため姿を消していました。このことが今川に判明したら大変なことになる、本当のことを誰にも言わないようにと、千賀はとわを説得します。
許嫁になったと思ったら、すぐにいなくなってしまう亀之丞。そして今川の理不尽な要求にも怯える井伊家の者たちです。
そうそう、イケメンマッチョ僧・傑山が存在感あります。
学問を教える場所であり、拳法を学ぶ僧もいて、今年の寺はかつてない史実準拠高性能施設になりそうな予感です。
妙に光沢のある着物の今川家の皆さんは、亀之丞を捜索しております。
やっぱり光沢のある着物を愛用している小野政直は、今川の影響なのでしょうか。追っ手たちは山道を走る少年を捕まえますが、にやりと笑うその顔はとわなのでした。
MVPそして粛清第一号:井伊直満
眼帯をつけて傷跡があり、井伊一族で一番癖があってインパクトがある見た目。
それなのに、謀叛の証拠をつきつけらたら「あ、あう……」としか言えず、あっさり首で帰って来るというこの宇梶剛士さんの無駄使いっぷり。
証拠や刃を突きつけられてもしれっと涼しい顔で切り抜けていた真田一族がある意味異常であり、戦国武士といえども一般的にはこの状況では死ぬのだと体現しておりました。
死を賭して立ち回ることすらなく瞬殺。子役も頑張ったけれども、身を以て「本作はベリーハードモード」と示したのは彼です。
真田一族のあとではがっかりするかもしれませんが、大多数の国衆は彼のような運命をたどっています。
むしろ真田一族がおかしいのです。やっぱり、昨年と今年は二作セットで二度おいしいのでは。
総評
一昨年は一話の時点で駄目だと思い、その反動で昨年は警戒しつつもワクワク感が止まらなかったのですが。
今年は正直どう転ぶのか「まったくわからん!」珍妙な作品です。
私はこのドラマを見ていると、生ハムメロンを初めて食べた時のことを思い出します。
なんでこの組み合わせか理解できず、食べても珍妙に感じられて頭の中にいくつも疑問符が浮かびました。
しかし食べているうちに「これもアリだろうか」と思えるようになりました。
すごく好きな要素もあります。
伝奇的な、井戸に捨てられていた初代当主の話や竜宮小僧伝説は、中世らしい感じがあって好きです。
とわを極端に子供扱いせず、かといって持ち上げず、大切にする周囲の態度も好きです。
苦悩する鶴丸にも今後の可能性を感じます。子役の時点で、その後を暗示させるキャラクター設定をしっかり作りこんでいるところにも好感が持てます。
健気さを随所に埋め込んで、これを今後切なさに変えてゆくであろう伏線の張り方もよいですね。
しかし、手放しに褒められないのも確かです。
何かが珍妙、生ハムメロン風なのです。
テラテラした光沢のある着物で揃えたビジュアル系今川家の皆さん、アバンギャルドなBGM、子供が突如死体を見つけるサスペンス感、首桶にすがりついて泣く子供という心理的に辛い場面。
こういう何かが少しずれている感が、ノイズのようで引っかかり、妙に気になるのが本作です。
好きとも言い切れないけど、嫌いでもないし、とりあえず吉凶混合で来週も期待します。
口にした瞬間は顔をしかめるけれども、じっくりと噛みしめたらこれでしか味わえない、結構な美味だと思える、そんな個性的な大河を期待しています!!
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著:武者震之助
絵:霜月けい
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【参考】
おんな城主直虎感想あらすじ
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link)