こんなにこの時間が楽しみなのは本当に久しぶりです。
本作はアバンタイトルがなく、いきなりテーマ曲から始まりました。
スタッフロールの時点で考証に錚々たる戦国研究者が連なり、さりげなくVFX効果が施された映像が映し出されます。音楽も色味を抑えた映像も、実にシブい。
しかしじわじわと味わうとかみ応えのありそうな、スルメ系のOPです。
今回のOPの特徴は、六文銭の間から本編が少し挿入される『獅子の時代』オマージュのようです。
映像も音楽もシブめに抑えてきて、しかも最後に私が事前予想で見たいと書いたワラワラと群れて動く兵馬が出てきて感激しました。なんだか期待できそうだぞ!
そして有働アナのナレーション、いきなり武田家存亡の危機と語られます。
子役なしで最初から堺雅人さんの信繁登場。
のっけからベタ褒めするのも気恥ずかしいのですが、過剰にならないコーンスターチ使いで山にかかる霧を表現し、そこから徳川勢がのぞき見えるのが何とも思わせぶりでよいです。
信繁は徳川勢を偵察していたのですが、川に転落し見とがめられてしまいます。
つかみでよくある本編のクライマックスを見せるのではなく、こうした場面で将来対峙する真田と徳川を見せるというのはうまいですね。
ここで逃げる若き信繁から大坂の陣の信繁に切り替わるのが、本当に巧みです。
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悲哀の勝頼 一癖ありそうな梅雪 大泉さん信幸もちゃんと見える
場面は切り替わり、諏訪上原城。
ここで武田勝頼、そしてもの凄く『信長の野望』っぽいマップが見えてきます(※CGは実際に信長の野望・コーエーから提供)。
『タイムスクープハンター』でも証明されてはいますが、デジタルな表示と時代ものの相性って意外といいんですよね。
大河で久々に、まともな若年層に希求する要素を出してきた、と言えるのではないでしょうか(若年層といってもノブヤボ直撃世代は30~40代が多い気がしますが)。
ここで勝頼や穴山梅雪が出てくるわけですが、これがまたよい!
特に勝頼の悲哀に満ちた目が素晴らしくて、でも哀しくてですね……ここで真田昌幸と信幸の父子が出てきます。
昌幸はくせのある雰囲気が出ていて、これまたよいです!
褒めてばっかりだ、でもよいものはよい!
穴山梅雪の、一見誠意あふれるようで結果がわかっていて見るとひっかかる雰囲気も「おおっ」と思います。
こうしていきなり人を大勢出し、個性を描き分けるのはなかなか大変なことだと思います。
そして『まれ』のことは忘れたい大泉洋さんの信幸ですが、真面目そうにちゃんと見えます。
始まる前は不安を感じたキャスティングですが、ちゃんと似合っています。
場面は新府城へ。
真田の家族が人質にされているとナレーションで語られますが、「人質」という概念の使い方がちゃんとしていてこれまた好印象。
公家出身の昌幸正室・薫(山手殿)はどこか浮き世離れしたお嬢様、信繁の姉・松など、家族の面々も出てきます。
松の現代的な口調は賛否両論別れそうです。
どうして長男が源三郎で、次男が源次郎なのか、というツッコミトークが入ったりします。ちょっとコミカルです。
続いて信幸、信繁の兄弟の会話が入ります。
四角四面で几帳面な兄と、フットワークが軽く明るい弟、という個性が描き分けられ、短い会話の中で、兄弟の性格付けをちゃんとしていますね。初回らしい手堅さです。
昌幸が一転、「武田家は滅亡する」、「この城は捨てる」と断言
そうこうしているうちに、家族の元へ当主・昌幸が帰ってきました。
一家が集まる場面で、薫だけ妙に浮いたきらびやかな装束なのが目を引きます。
化粧も濃く、公家の娘という出自がまだ影響しているのでしょう。
そのお姫様気質の薫が、裏切りが判明した家の若い娘や息子が磔にされたと哀しそうに語ります。
ところが昌幸は、まるでご近所の犬が死んだだけみたいな、うっとうしそうな対応をするんですよ。
これが戦国だ!
女子供が磔になっても「まぁそういうこともあるよね〜」と流しちゃう残酷さが戦国なんですよね。
何気ない会話にこうした時代の空気を織り込んで来ております。
家族の有様を描くという点で「ホームドラマ」ではあるのですが、当時の厳しい価値観を入れていればぬるくなりません。
このあと昌幸は息子二人を前にして「武田家は滅亡する」「この城は捨てる」と断言。
つい先ほどまで「ここにいれば安心」と言っていたのですが……本音と建て前の使い分けですね。
新府城は武田の新本拠地なのですが、もう駄目だと昌幸は見切りをつけてしまいます。主家が滅びても、真田家は残すと決意を表明する昌幸。い、いきなり大ピンチだ!
信幸は父の態度に困惑し、弟と二人になると弱音を漏らします。
この場面で緑ゆたかな大地が目の前に広がっていますが、こういう奥行きのある豊かな風景もまた見所です。
VFXも豊富に使っていると思います(断言できないのは使っているとしても合成がうますぎて判別できないので)。
勝頼は父の位牌に手を合わせ、父が存命であればこんな時どうしていただろうかと言います。
父であればここまで追い詰められなかった、とさらに続ける勝頼。
この父の名に縛られた勝頼、なんとも哀しくて……穴山梅雪はちょっと大げさなくらいの励ましを述べます。
昌幸は「家臣がついている」、「富士山や浅間山が噴火でもしない限り家は滅びない」と断言するのですが……。
次の場面、浅間山が48年ぶりに大噴火します。
真田の岩櫃城は危ない! 岩殿城へ行きましょう
呆然と噴煙を見守る昌幸。「火山だからたまには噴火する」と慰める信繁。
コメディタッチではあるのですが、同時に梅雪の裏切りが報告されるわけで、笑えないですね……。
梅雪の裏切りに動揺する武田主従。
決戦を進言する中、昌幸は岩櫃(いわびつ)城に移動するよう提案します。
ポエムを詠むのではなく、なぜ岩櫃に籠もれば盤石か、昌幸が説得力をもって語るのがいいですね。
基本ができているだけで心情的に加算したくなるのは、一昨年(官兵衛)や昨年(花燃ゆ)があまりにポエム展開が多すぎた反動かもしれません。
昌幸は勝頼を迎えるため、岩櫃に向かいます。
ところが、小山田信茂らが岩櫃へ向かうことへ強硬に反対。
「真田は北条に通じている」とまで言われ、勝頼は迷い始めます。
信茂は岩櫃城より岩殿(いわどの)城がよいと進言。さらに駄目押しとも言える「亡き父上」まで出されて、結局、昌幸の岩櫃案を捨てることになります。
そんな緊迫した中、真田兄弟は将棋の駒を作った山崩しで遊んでいます。
そこへお忍びで勝頼が訪れ、岩櫃には行けないと兄弟に告げます。
「甲斐を捨てられぬ」と告げ、昌幸に詫び、兄弟は岩櫃に向かうようにと勝頼は語ります。
勝頼は人質を解くと証文を信幸に渡し、さらに護衛に百名つける、小山田に嫁いだ姉・松も連れて行けと提案。
殿がいい人過ぎてなんだか泣きそうなんですけど。
信繁は信玄の呪縛から逃れて欲しいというようなことを言うのですが、勝頼は寂しげに笑い立ち去ろうとします。
信幸は弟をたしなめ、手勢が多い方がよいはずだ、餞として護衛を返すと言います。
忠義は素晴らしいのですが、これで真田家の岩櫃までのルートがベリーハードモードになることが確定しました。
燃える新府城で武家滅亡の残酷さをこれでもか、と!
勝頼を見送った信幸は、勝頼は優しい御方だといい、さらに信繁が「哀しい御方です」と付け加えます。
信繁はやっと作った新府がもう灰になるなんてね、とボヤきます。
哀しくなるとき、こうして明るく濁す性格のようです。さりげなく佐助も登場しています。
兄弟は母にグッドニュース・バッドニュースを報告。
人質から解放されたというグッドニュースに母は大喜びですが、その後、ここから岩櫃まで移動しなければならないというバッドニュースを告げます。
薫はうろたえ、いきなり移動するなんて嫌だと落ち込みます。
慌てる薫に対して、兄弟の祖母にあたるとりはどっしりしています。
翌朝、信繁の姉・松は夫の小山田茂誠(おやまだ しげまさ)と別れます。すぐ再会できると茂誠が言うのがフラグに見えて仕方有りません。
慌ただしく支度をし、出立しようとする真田家ですが、薫は準備に手間取っているようです。
信繁は勝頼一行が立ち去る様子を一人見守っています。
武田の赤備えがこうして去って行くのを見るのは、なんとも切ない。
昼過ぎ、やっと真田一族は新府を出立。
場違いなほどあでやかな女装束が、いかにも狙われそうで見ているだけで冷や冷やします。
振り向く一行の目に映るのは、燃える新府城。家が滅びる残酷さをこれでもかと見せ付けます。
勝頼一行は味方の敗報、裏切ったという知らせを聞きながら移動します。
一行は出発時の六百から百以下まで減っていました。
岩殿城を目の前にして、小山田信茂と茂誠が迎える準備をすると列を離れます。ここで信茂、茂誠に木戸を閉じろと命令。茂誠は意味がわからないと戸惑うのですが。
岩殿城を目の前にして、無情にも閉じられる木戸。
木戸の上には茂誠が立ち、小山田信茂は「織田方につく、通すわけにはいかない」と涙ながらに叫びます。
勝頼は激昂する家臣の前で無言のままでしたが、やがて「もうよいのだ」とつぶやき馬首を逆方向に向けます。
泣き崩れる茂誠。これは裏切る方も辛いです。
家臣から「どちらへ?」と聞かれた勝頼は、疲れ切った顔で「わからん」とだけ呟く。
武田家、滅亡寸前。
ちなみに茂誠を演じる高木渉さんは、声優としても有名ですね。ドラマは初出演だそうです。意外性のあるキャスティングも前作と違って滑っていません。
氏政の汁かけ汁に家康の爪噛み、そして貫禄ある信長像
ここで上杉、北条、織田、徳川、織田の各勢力が映し出されます。
北条氏政が汁かけ飯を食べていたり、徳川家康が爪を噛んでいたり、それぞれ個性ある行動を取っています。
信長の安土城に赤い蝋燭があったのはさておき、ワインレッドの装束に風格あふれる彼本人の姿はとても決まっておりました。
やっと久々にまっとうな信長を見た気がしますよ。
やけに若作りの尾張のうつけより、こういうどっしりしていていかにも強そうな、貫禄ある信長像が見たかったんですよね。
そんな錚々たる面子のあとで映るのが真田一族。怒りの甲斐ロードを歩く一行は早速ヒャッハー軍団に襲われます。
ただ移動するだけでも命懸け、まさに戦国乱世が始まりました。
ここで「波乱万丈の船出である」とナレーションとバイオリンが印象的なBGMが重なるのがいい!
真田家の前途は多難でも『真田丸』の船出は絶好調ではないかと盛り上がった初回でした。
今週のMVP:武田勝頼
彼自身が悪いのではない、むしろ父の名がいろいろな意味で重すぎた……悲哀を漂わせ、運命に抗う気力すら失いながらも、主人公兄弟に優しさを見せる姿に初回から目頭が熱くなりました。
総評
2007年の『風林火山』が終わった時、2009年はその続きのようなドラマなのではないかと期待していました。
そのあと三作続けて「これじゃない」戦国大河が続き、ここにきてやっと、あの後を継ぐような作品が来たことに喜びを隠せません。
『風林火山』を意識し過ぎると、勘助が転生して家康になっているので混乱してしまますけどね。
褒めすぎるのはやめよう、こらえよう……と思いつつ、現時点では減点要素がない作りでした。真面目に作っているのがわかります。
見た目について言えば、奥行きを感じさせるクリアな屋外と、照明効果に雰囲気が出ている屋内の映像。
馬の多用。
VFXを使用していると思われる雰囲気と迫力のある映像。
『信長の野望』マップは本当にそのまんまゲーム画面でしたが、見やすいしこれはアリだなと感じました。
私が個人的に見たいんだよな〜〜と熱望していたワラワラ兵士鳥瞰図もありそうで、本当に満足です。
予算を潤沢に使っている感じもうれしいのですが、予算配分はいつまで持つかわからないので、そこは今後どうなるか心配ですね。
考証面やシナリオもばっちり。
三谷さんの得意であるユーモアはやや抑えて気味。
浅間山噴火コントのような場面もありますが、シリアスな局面なので笑いごとにならない絶妙なバランスがあります。
個性の描き分けも見事で、真田一族はもちろんのこと、あの短い顔見せだけで上杉、北条、徳川、織田といった錚々たる面子のキャラクターが見えてきたのもすごい。
こういうのは、本当に歴史をしっかり勉強した上で、世界観を構築していないと出来ないと思うのです。
事前予想というか、半分願望で書いたことを現時点ではちゃんとクリアしています。
戦国ファンの見たいところ、作劇として面白いところ、映像として見応えのあるものをきっちりと手堅く抑えつつ、新たな試みもちゃんと付け加えてくる。
ちゃんとNHKは歴史ドラマを作れるんだぞ、という気合いを『あさが来た』に続いて感じています。
この勢いのまま失速しなければ、年末は大坂の陣で皆盛り上がっているのではないでしょうか。
演者も申し分ありませんが、堺さんはまだティーン設定で若く演じている状態です。若干軽く見えるのも仕方の無い大河名物でしょう。これは仕方のないことです。
『真田丸』という船は、船出早々穴が空いて傾くようなことはありませんでした。次回が楽しみです!
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