バカバカしくて思わず笑ってしまいそうになるけれど、取組自体は科学的に真剣そのもの。
そんな研究を顕彰する「イグ・ノーベル賞」が2025年9月18日(日本時間19日)にボストン大学で開催され、日本人の研究チームが「生物学賞」を受賞しました。
和牛のように黒い牛のボディを、シマウマのように白黒の縞模様に塗っただけで、アブやサシバエなどの昆虫が近寄りにくくなる――。
牛の姿を想像すると笑ってしまいますが、牛の飼育農家にとっては切実な問題でして、虫に刺されると痛みやかゆみでストレスが生じ、成長度に影響するんだそうです。
しま模様にすると、通常時に比べて虫の数が半数になったとかで、牛にとっては非常に喜ばしい結果となりました。
と、こうしたイグ・ノーベル賞は1991年に創設され、翌1992年に日本人も初受賞。
そのときの研究内容は「足の臭い」の化学物質を究明するというもので、実はその後も毎年のように受賞しています。
では、それはどんな内容だったか?
振り返ってみましょう。
「いかにふざけた・笑える研究をしたか?」
まず「イグノーベル賞」とは、ノーベル賞に対するアンチテーゼ……ではありません。
「卑しい」とか「下劣な」という意味の単語”ignoble”と、ノーベル賞のノーベル(noble)が極めて似ていたことから名付けられた賞です。
つまり、賞の名前からしておふざけなわけですね。
対象になるのは、とにかく次この一点――。
「いかにふざけた・笑える研究をしたか?」
上記のジャック・バンヴェニストも「水は物事を記憶する」という割とトンデモ化学な論文により受賞しています。
本人は大真面目だったでしょうが、世間の人から見れば「笑わせてくれたから何か賞やるよw」みたいな感じだったのでしょうね。
バナナの皮を踏んづけたらなぜ転ぶ?
本家ノーベル賞と同じくいくつかの部門があります。
そもそもおふざけの賞なので、ノーベル賞にはない部門もあります。
例えば心理学賞とか経済学賞とか。
どちらかというと学術的にうんぬんというより、世間に与えた影響の大きさで選定している気がします。
1997年に「たまごっち」がイグノーベル経済学賞を受賞したりしてますしね。
ちなみに、日本人の場合「本人は大真面目だけどトンデモ」というより、「それを研究しようと思ったことと、きちんと学術的にまとめたのがすげえ」というものが入賞していることが多いようです。
って、アヤフヤすぎてよくわかりませんかね?
実例を上げましょう。
日本人の初受賞が「足の匂いの原因となる化学物質(1992年)」で、ほかには「牛の排泄物からバニリン(バニラの香り成分)を抽出したこと(2007年)」に対しても、イグノーベル化学賞が送られています。
傑作なのは「床に置かれたバナナの皮を人間が踏んだときの摩擦を研究したこと(2014年)」でしょうか。
イグノーベル物理学賞が送られました。

また「キスでアレルギー反応が減弱する研究(2015年)」でもイグノーベル医学賞を受賞しております。
どれも目の付け所が異次元ですね。
以下に、日本人の受賞一覧をマトメておきました。
| 年 | 分野 | 内容 |
|---|---|---|
| 1992年 | 医学賞 | 足の匂いの原因となる化学物質の特定 |
| 1995年 | 心理学賞 | ハトを訓練してピカソの絵とモネの絵を区別させる |
| 1996年 | 生物多様性賞 | 岩手県の岩石からミニ恐竜、ミニ馬、ミニドラゴン、ミニ王女など「ミニ種」の化石を発見※いずれも体長0.3mm以下で絶滅(つまりいない) |
| 1997年 | 生物学賞 | 人がガムを噛んでいるときに、ガムの味によって脳波はどう変わるのか |
| 1997年 | 経済学賞 | 「たまごっち」→数百万人分の労働時間を仮想ペットの飼育に費やす |
| 1999年 | 化学賞 | 「Sチェック」を開発 ※夫のパンツに吹きかけて浮気を発見するスプレー |
| 2002年 | 平和賞 | 犬語翻訳機「バウリンガル」※ヒトとイヌに平和と調和をもたらす |
| 2003年 | 化学賞 | ハトに嫌われた銅像の化学的考察 ※兼六園・日本武尊の銅像にハトが寄り付かないことをヒントに、カラス除けの合金を開発 |
| 2004年 | 平和賞 | 「カラオケ」の発明※人々が互いに寛容になる新しい手段を提供した |
| 2005年 | 生物学賞 | 蛙(131種類)がストレスを感じているときに出す特有のにおいを分別 |
| 2005年 | 栄養学賞 | 34年間、自分の食事を写真に撮影→脳の働きや体調に与える影響を分析 |
| 2007年 | 化学賞 | ウシの排泄物からバニラの香り成分「バニリン」を抽出 |
| 2008年 | 認知科学賞 | 単細胞生物の真正粘菌がパズル読解能力 |
| 2009年 | 生物学賞 | ジャイアントパンダの排泄物から採取したバクテリアが、 台所の生ゴミを質量で90パーセント以上削減できる |
| 2010年 | 交通計画賞 | 鉄道網など都市のインフラ整備は、真正粘菌が、輸送効率に優れた最適なネットワークを設計 |
| 2011年 | 化学賞 | 緊急時に眠っている人を起こすための「わさびの濃度」を発見 |
| 2012年 | 音響賞 | 「スピーチジャマー(Speech Jammer)」の発明 ※自身が発する言葉を、ほんの少し遅れて聞かせて言葉を妨害 |
| 2013年 | 化学賞 | たまねぎが涙を誘う「催涙物質」の研究 |
| 2013年 | 医学賞 | オペラの『椿姫』を心臓移植をしたマウスに聞かせると 他の音楽より拒絶反応が抑えられるという研究 |
| 2014年 | 物理学賞 | 床に置かれたバナナの皮を踏んづけたときの摩擦計測 |
| 2015年 | 医学賞 | キスがアレルギー患者の反応を軽減させる |
| 2016年 | 知覚賞 | 「股のぞき効果」の研究※前かがみになって股の間から後ろを見ると、実際より小さく見える |
| 2017年 | 生物学賞 | 昆虫トリカヘチャタテの存在※雄と雌で生殖器の形状が逆転している |
| 2018年 | 医学教育賞 | 「座位で行う大腸内視鏡検査―自ら試してわかった教訓」 |
| 2019年 | 化学賞 | 5歳児が一日に分泌する唾液量の測定 |
| 2020年 | 音響学賞 | ワニにヘリウムガスを吸わせても声が高くなる |
| 2021年 | 動力学賞 | ながらスマホの人がいると集団全体の歩行速度が遅くなる |
| 2022年 | 工学賞 | つまみを回すとき何本になるか?直径と指の関係 |
| 2023年 | 栄養学賞 | 電気刺激を施した箸やストローで味は変わるか |
| 2024年 | 生理学賞 | お尻には呼吸する能力があることを発見 |
| 2025年 | 生物学賞 | 牛の体を白黒のシマウマ模様にすると虫が近寄りにくくなる |
当初は動物モノが多いですね。
確かに「クスッ」となってしまうものばかりですが、将来的に、意外と何かに役立ったりするんじゃないか? そんな気分にもなってしまいます。
『お国柄が出ているなぁ』と思えるのは、イギリスが複数の部門で紅茶についての研究を行い、受賞していることでしょうか。
全部違う人だというところが、笑えるを通り越して恐ろしいほどです。
皮肉を込めて水爆の開発者にも送られている
イグノーベル平和賞については欧米圏特有のどぎついブラックジョークで選ばれている節が強く、日本人にとっては「それ言うか?」な感じのものもあります。
例えば水爆を開発したエドワード・テラーなど。
日本人の場合、画期的な商品やサービスを開発したことで与えられている事が多いですね。
バウリンガルやカラオケの開発者に送られています。
問題を平和的に解決したことによる受賞としては、2003年にとあるインドの方が作った「死人の会」というものがあります。
インドではお金持ちの間で「法律上の死」という詐欺がたびたび起こっているらしく、それに対する問題解決のために作られたものです。
インド人の発想は加害者も被害者もぶっ飛んでますね。
ダメ映画に送られるのはゴールデンラズベリー賞
イグノーベル賞と似たベクトルの賞としては、ゴールデンラズベリー賞も有名ですね。
イグノーベル賞が人によっては名誉に感じる(かもしれない)のとは対称的に、こちらは「最低の映画」を決めるという、受賞者にとっては確実に不名誉な賞です。
アカデミー賞の前日にひっそり(?)表彰されています。
英語で「ラズベリー」がブーイングの声を意味することから、こういう名前になったのだそうで。
「ゴールデン」は、おそらくアカデミー賞のトロフィー(オスカー像)が金色であることから、それをもじっているのでしょうね。
こちらを受賞した有名作品では、ブッシュ大統領をコテンパンにする目的で撮られた「華氏911」ですかね。
当時のアメリカ政府を批判する内容だったので、むしろこの賞の受賞は名誉とすら映っていそうです。
ちなみに、受賞したのはマイケル・ムーア監督ではなく、ブッシュ大統領やラムズフェルド国防長官たちでした。監督だったら喜んで受け取りに来たでしょう。
ゴールデンラズベリー賞は、一風変わった伝説が生まれる場でもあります。
ポール・バーホーベンというオランダの映画監督は「蝶からさなぎになった気分だ」というなかなか洒落のきいたコメントを残しました。退化して喜ぶとはなかなかの被虐趣味ですね。
アカデミー賞とゴールデンラズベリー賞を両方取ったスゴイ女優もいます。しかも二人。
一人はハル・ベリーという人で、アカデミー賞のほうが数年前だったためか、ゴールデンラズベリー賞を受賞した際に「自分の記者会見のパロディを演じてみせる」という離れ業を披露しました。
彼女いわく「子供の頃、母に”胸を張って負けられない者は、勝者にもなれない”と言われたから」だそうです。めちゃめちゃカッコエエですね。
もう一人はサンドラ・ブロックで、史上初めてアカデミー賞とゴールデンラズベリー賞の二つを同じ年に受賞しました。
歴史はドコでどう動くかわかりません。
イグノーベル賞が世界を変えるかもしれませんぞ。
追記(2025年8月31日)
2025年9月18日(日本時間19日)にイグ・ノーベル賞で日本の研究が生物学賞を受賞――ということで記事冒頭を書き換え、文中の表も最新版に修正しました。
・2025年9月19日:2025年の受賞に合わせて記事の冒頭や文中の表を修正
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【参考】
Improbable Research(公式サイト)
受賞者リスト(公式サイト)
イグノーベル賞/Wikipedia
イグノーベル賞日本人受賞者の一覧/Wikipedia
ゴールデンラズベリー賞/Wikipedia




