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研究者の思想信条が研究に反映されることも
殷墟(殷の遺跡)からは、胴体から首が切断された人骨が大量に発掘されました。頭部だけが別に埋められる等、残酷な遺体損壊の形跡があるのです。
甲骨文にも奴隷に関して記述があったこともあり、殷墟発掘のころから「奴隷制」の研究が盛んになってゆきます。
20世紀前半は、中国でも社会主義、マルクス主義が知識層の間で広まっていた時代。殷墟の研究黎明期がちょうどこの頃に当たりました。
「中国にも、古代ギリシャやローマのような、奴隷に労働を行わせる時代があったのではないか?」
政治や文学においても活躍した郭沫若によって、こうした当時の社会主義思想を反映した「奴隷制」の研究が為されました。
1944年代になると、この「奴隷制」論に反論が出てきます。日本の著名な文字学者でもある白川静も参加しました。
ただ、こうした議論は、研究者の「思想信条や政治思想が反映されている」と筆者は指摘します。
奴隷がかつて中国に存在したことそのものは否定できないとはいえ、それが古代ギリシャやローマと同質のものであるかは、現在も決着がついていないとのことです。
このように、最新の研究成果を紹介するだけではなく、
・歴史研究へのアプローチ
・研究当時の社会がどのような影響を与えたか
といったことについても書かれているのが本書の特徴。
私が進学前の歴史好き高校生にオススメする理由は、歴史研究のアプローチ法まで触れることができるからです。
・最先端の古代中国史研究事情を、盛らない話で正確に把握する
・しかも新書一冊のお値段で
この二点を満たしているのですから、本書はオンリーワンの価値があると言ってもよいでしょう。
ちなみに気になる目次は、著者自身のブログに公開されております。古代中国に興味がある方だけではなく、歴史好きならば是非手に取っていただきたい、そんな魅力あふれる著作です。
佐藤氏の著書につきましては、以下の『周―理想化された古代王朝』でも書評を書かせていただきました。
よろしければっ!
注目度高まる古代中国の実態とは『周―理想化された古代王朝』著:佐藤信弥
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文:小檜山青
※本記事は2018年6月に掲載したものを再編集しました
【参考】
『中国古代史研究の最前線 (星海社新書)』(→amazon)