ビール通りとジン横丁

『ビール通り』と『ジン横丁』ウィリアム・ホガース/wikipediaより引用

イギリス

飲んだくれ英国人と安酒ジン闇の歴史~日本のストロングゼロ文学も本質は同じか

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RPGが酒場で仲間を集める理由も

さて、パブという名は「パブリックハウス(公共の家)」の略です。

酒を飲むわけではなく、様々な役割を果たしてきました。

かつての「イン」は宿場としても機能しました。

旅の途中で休む人々に、酒と食事と宿泊場所を提供していたわけです。

しかし、パブの時代となると鉄道の発展により、そうではなくなっています。

パブは集会所としての役割を果たしました。

照明、新聞、暖房のあるパブは、立ち寄って皆で会合を開くのにはうってつけのわけです。

庶民の社交場として、パブは機能していたのです。

なぜRPGが酒場で仲間を集めるのか疑問に思ったことはありませんか?

酒場は社交場であるからなのです。ゾンビ襲来から逃げてパブに逃げ込むのも、理にかなった行動と言えるかもしれません。

社交の場としてのパブ全盛期は、19世紀でした。

生活が変化すると、以前ほど人はパブに向かわなくなります。

博物館、図書館、遊園地、動物園、映画館、喫茶店……そうした場所と娯楽が増えるにつれ、パブだけが人の居場所ではなくなったのです。

 


酒以外の娯楽が増えた方がよいのでは

どんな街にも教会とパブはある――かつてはそう言われたイギリス。

昨今は転機を迎えています。

全国でパブは減少傾向。

ビールの消費が減少し、宅飲みが増え、パブ需要が急激に減りつつあるのです。

パブといえば煙草の煙がつきものでしたが、世界的な流れで禁煙の店も増えつつあります。

不景気や酒税増税の影響だけでなく、去年から今年にかけてはコロナが直撃して、人々のパブ離れに拍車をかけています。

個人経営が立ちゆかなくなり、大手チェーンに買収される店も増えてきました。

「最近のパブはチェーンばかりで、個性がなくってねえ」

そう嘆く人々も多いとか。

パブ全盛期には酒量が社会問題になり、パブがその一因として敵視されていました。

しかし現在、減少傾向にあるというのは寂しい話ではあります。

イギリス人のライフスタイルの変化ですかねえ。

ここで思い出していただきたいのが、ジンブームの頃の悲惨な労働者の姿です。

安酒に逃げるしかなかった彼らよりも、酒以外の娯楽が増えて、そちらに消費できるようになった現代イギリス人の方が豊かな生活なのではないでしょうか。

ジンブームはそう示しているように思えるのです。

 


コロナの前から、ジンは、酒は、変わっていた

コロナ禍とは、既存の社会問題を悪化させたものであるとは指摘されています。

若者のアルコール離れとは、日本のみならず世界的な問題です。イギリスでもそれはあてはまります。

21世紀、イギリス人の飲酒量は急激に低下したのです。

パブでナッツをつまみにビールをガブガブ飲んで、時には殴り合いの喧嘩。はしご酒のシメにインド料理を食べる。

そんな飲み方はおっさんのすることになりました。飲みニケーションなんてもう滅びつつあります。

ジムで運動して、帰りにスムージーで水分と栄養を摂取する。

その様子をSNSにあげる。それが今時の若者のライフスタイルです。

◆若者の飲酒離れ「ソーバーキュリアス」に打つ手はあるのか(→link

そうなると、あのジンも変わってゆきます。

今の流行は【フレーバードジン】です。

甘いフレーバーと色をつけて、ソーダで割って、スライスしたフルーツを添えて出す。

カクテルよりも気軽でインスタ映えもバッチリ! アルコール消費量が低下する中、女性向けに売り始めたワケです。

イギリスの老舗ジンといえば、ビーフィーターがあります。これはロンドン塔の衛兵ヨーマン・ウォーダーズの愛称です。

イギリス人は牛肉を食べて気力を養うという伝統があります。このジンのラベルと名前からは、イギリス人のマッチョさが伺えます。

それが今や、そのビーフィーターにピンクストロベリーがあります。

いかついおっさんの背景に、かわいいイチゴが描かれ、ボトルはピンクなのです。

不道徳であったジンが、歴史を経て、こんなに愛くるしい飲み物になって、若い女性に好まれているなんて!

これぞ歴史の面白さでしょう。

 

そしてこうしたお酒の流行は、国境を超えたものがあるといえるのです。

アメリカでは、フレーバードウイスキーが2010年代から定番となっています。これも女性向けの需要を開拓するものとして導入されました。

ボトル入りで、フルーツの香りと甘みをつけた韓国のソジュ(韓国焼酎)も、大人気です。

中国でも若者向け白酒「江小白」(ジャンシャオバイ)が登場。フレーバーつきもあり、小さなボトルが特徴です。従来は考えられなかった割って飲むことも定番になりました。

日本の酒売り場にも、オシャレで、フルーツのフレーバーつきで、かわいらしい缶に入ったチューハイが並んでいます。

あのストロングゼロだって、甘さと香りがあるから飲みやすく、危険だったのです。

ジンも、ウイスキーも、ソジュも、白酒も、そして焼酎も……蒸留酒とは、おっさんがカーっと飲むものでした。それがここまで変わったのです。

歴史は興味深いもの。それはアルコールひとつとってもそうなのです。


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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考文献】

角山栄/川北稔『路地裏の大英帝国』(→amazon
フレッド・ミニック『ウイスキー・ウーマン: バーボン、スコッチ、アイリッシュ・ウイスキーと女性たちの知られざる歴史』(→amazon

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