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【アルフレッド大王】
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王の帰還と勝利
ウェセックスの義勇軍たちは、各地でゲリラ活動をしてなんとか持ちこたえていました。
そんな彼らの元に、「イースターの7週後、エグバードの石で待つ」という伝言が届きます。
義勇軍たちは半信半疑ながらも、待ち合わせ場所に向かいました。
するとそこには、アルフレッドの姿。
王は討たれたものと思い込んでいた義勇軍は、歓呼の声をあげました。
「兵士諸君! 私は宿敵グスルム相手に決戦を挑む」
こうアルフレッドが告げると、兵士たちはさらに喜びました。この瞬間を待ちわびていたのです。
そして「エディントンの戦い」で、アルフレッド率いる軍勢は、ヴァイキング相手に大勝利。
勢いに乗ってアルフレッドの軍勢は、今や敵拠点となったチップハムになだれ込み、グスルムに降伏を促しました。
両者は「ウェドモーアの和議」を結び、領土を分割することに同意します。
・アルフレッドは南
・グスルムは北
このときのデーン人の支配地域は、「デーンロウ地方」と呼ばれることになります。
また、“by”で終わる地名は、デーン人が築いた町を表します(例:ダービー)。
さらにアルフレッドは、グスルムとその部将たちに改宗を勧め、これに成功するのです。
長弓と並ぶイングランドの強み「海軍」を編成する
ウェセックス王国は、マーシア王国の領地の一部も支配し、領土を以前よりも広くすることに成功しました。
しかし、デーン人ヴァイキングが消え去ったわけでもありません。
残されたのは、荒廃した土地。
識字率が低下してしまった学問分野。
激減した人口。
課題は山積みです。大都市ロンドンすらヴァイキングの手に落ちてしまいました。
それでもアルフレッドは、アングロ・サクソンの国と文化を取り戻すべく、奮闘します。
彼は国土に「バー」と呼ばれる軍事拠点を整備。
近代英語では“Borough”と綴り、地名にも残されています(例:エディンバラ)。
さらには886年、アルフレッドは悲願のロンドン奪還を果たします。
アルフレッドの領民とデーン人の権利は等しいものとなり、彼らは融合してゆきました。
そして力を失ったグスルムは、890年に世を去るのです。
アルフレッドは、この後、長弓と並んでイングランドの代表的な強みとなるものも見いだしました。
護国の盾となる木造の壁「海軍力」です。
アルフレッドはフリジア(現在のオランダ)から優れた船大工を呼び、強力な軍監を建造したのです。
ヴァイキングの船団にも負けぬよう建造された軍船と水兵たちは、フランスから侵入してきたヴァイキングの船に襲いかかり、勝利をおさめられるようになりました。
同時に失われた文化の復興にも力を入れます。
修道院、女子修道院の復興。
修道士のヨーロッパ大陸からの招聘。
そしてラテン語の本を英語に翻訳し、識字率の向上につとめました。
アルフレッドは祖国を守った英雄王として、その名が語り継がれることになります。
国民的英雄となったアルフレッド
18世紀、アルフレッドの生涯を描いた劇において、「ルール・ブリタニア」という曲が作られました。
劇そのものは廃れましたが、この歌は現在も非常に人気が高く、毎年開催されるBBCプロムス(クラシックコンサート)最終夜『イギリスの海の歌によるファンタジア』最後の曲として必ず演奏されています。
この曲の歌詞の、
ブリタニアよ(イギリスの象徴である女神)、統治せよ!
ブリタニアよ、海を支配せよ!
ブリトン人は決して奴隷にはならぬ!
という部分は、特に有名です。
もしもアルフレッドが、チップナムの急襲で命を落としていたら。
グスルムとの決戦に敗れていたら。
他の王のように祖国を捨て、諦めて逃げていたら。
ブリテン諸島はこの地上に存在していたでしょうが、そこに住む人も、話す言語も、違っていたことでしょう。
(この時代を描いたBBCのドラマ『ラスト・キングダム』。日本でも放送しませんかねえ)
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考】
トマス・クローウェル/蔵持不三也/伊藤綺『図説 蛮族の歴史 ~世界史を変えた侵略者たち』(→amazon)