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【アイルランドとイギリスはなぜ不仲なのか】
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21世紀になっても人口が回復していない
実は21世紀に入っても、アイルランドの人口はジャガイモ飢饉以前の人口を超えていません。
日本最大の飢饉といわれる天明の大飢饉(1782~1788年)でも、ほぼ同じ92万人前後の死者が出たといわれていますが、日本の人口は当時の何倍にもなっていますよね。
気候や他の要因もありますので、単純な比較はできないながら……ジャガイモ飢饉がいかにアイルランドへダメージを与えたかがわかります。
アイルランドの地元の言葉を話す人も激減し、生き残った人々は仕事を得るために、英語を習得せざるを得なくなりました。
結果としてイギリスの支配力がより強まることになります。
同時に、アイルランドの独立を目指す動きも高まりました。
これだけひどい目に遭わされ続けたら、どこの国の人だって黙ってはいられませんよね。
ジャガイモ飢饉の時期はヴィクトリア女王の治世の初期にあたります。
つまり、アイルランドの人口が激減して悲惨なことになったのと入れ替わりに、「パクス・ブリタニカ」と呼ばれるイギリスの最盛期が始まるわけで。
アイルランド人にとっては腹が立つどころじゃありません。
しかし、アイルランドの中でも、平和的解決を図る人々と、「暴力を使ってでも独立すべきだ!」とする過激な人々がいて方針がまとまらず、結果として独立が延びてしまいます。
第一次世界大戦の前には、イギリスで「アイルランドの自治を認める」とする法律も作られていたのですが、大戦によって施行が遅れに遅れ。
その間も過激派によるイギリス軍等へのテロやゲリラ攻撃が続き、大戦が終わる頃には、双方共にすっかり疲弊。
そんな中で結ばれたのが、1922年12月6日の英愛条約というわけです。
北アイルランド問題の始まり
ところが、です。
英愛条約が結ばれたところで、スッキリとは解決しません。
「イギリス系住民の居場所として、北アイルランドのうち6州だけをイギリス領のままにしておいてほしい」
と提案が出されたことで、火種は燻り続けることになりました。
現在も続く“北アイルランド問題”の始まりです。
独立したほうの(南)アイルランドではカトリックが主流なので、当然議会やお偉いさんたちもカトリックが多いわけです。
が、イギリスの一部である北アイルランドでは、相変わらずプロテスタント=支配層、カトリック=被支配層という状態が続いていました。
宗教を絡ませた争いは本当に事態が悪化するばかりですね。
抜本的解決案など出ないまま、言葉で平等を求めてもなかなか改善されない状況が続き、そのうち暴力的手段に出る人々が現れ始めました。
イギリスの警察や軍が鎮圧に動くと、その過程でアイルランド人が殺害されてしまい、泥沼は余計に悪化。
おそらく一定以上の世代の方はご記憶かと思うのですが、20年ぐらい前までヨーロッパのニュースというと「またアイルランドのテロか?」みたいな時期がありました。
その印象が強すぎて、”アイルランドは物騒な国”と思っている方も多いかもしれません。
2016年にも、銃撃事件が起きてしまっています。
日本にとっては意外に身近な国かも
日本との関係はどうなのか?
というと、アイルランドはワーキングホリデーの協定国になっていて、若者には少しだけ身近な国となっています。
まぁ、経験者の話からすると、日本(というかアジア全般)のことは全く知らない方のほうが多いようですし、やはりイギリスやオーストラリアなどに比べると人気が……なので、まだまだこれから、といったところですが。
もともとの日愛関係も悪いわけではありません。
第二次世界大戦中のアイルランドは中立国でしたし、東日本大震災の際も日本赤十字に100万ユーロの寄付がありました。
ここ数年では要人の往来も盛んになってきていますので、今後一気に距離が近づくこともあるかもしれませんね。
2017年には日・アイルランド外交関係樹立60周年ということで、ロゴマークが作られたり、記念事業が奨励されたりもしました。
日本の日の丸と、アイルランドを表すハープを組み合わせた、なかなかカッコいいマークです。
名言はされていませんが、アイルランド側が緑色なのは、同国に縁の深い”シャムロック(三つ葉のクローバー)”の色を採っていると思われます。
また、最近ではアイルランド産の牛肉が日本にも入ってきており、特に「グラスフェッドビーフ(→link)」が注目されています。
お酒を嗜まれる方には、アイリッシュウイスキーやギネスビールでもおなじみですね。
経済面でもタックスヘイブンにより外国企業を招いたり、国家資産を積極的に投資するファンドを作ったり、密かに注目が集まりはじめています。
一方、イギリスでは長引く英国病やEU離脱・地方政府の財政破綻などにより厳しい状況が続いていますので、もしかするとそのうちアイルランドのほうが豊かになるなんてこともあるのかもしれません。
冒頭で述べた通り、緯度の割には温暖な国でもあり、英語圏でもありということで、これから海外移住したい方にとっては、候補として覚えておくのも良さそうです。
2024年には37歳という若々しい首相が就任しており、これからの活躍も注目すると面白いかもしれません。
もしもアイルランド人の方と知り合う機会ができたときには、イギリスの話題は避けつつ、美味しいものやお店の話などから親睦を深めてはいかがでしょうか。
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長月 七紀・記
【参考】
波多野裕造『物語 アイルランドの歴史 欧州連合に賭ける“妖精の国” (中公新書)』(→amazon)
君塚直隆『物語 イギリスの歴史(上) 古代ブリテン島からエリザベス1世まで (中公新書)』(→amazon)
君塚直隆『物語 イギリスの歴史(下) 清教徒・名誉革命からエリザベス2世まで (中公新書)』(→amazon)
テランス ディックス『とびきり陽気なヨーロッパ史』(→amazon)
アイルランド/外務省(→link)