キエフ大公妃・聖オリガ

キエフ大公妃・聖オリガ/wikipediaより引用

欧州

生き埋め! 斬殺! 炎風呂! ウクライナで起きた聖オリガの復讐劇が壮絶すぎる

プロポーズの瞬間は、女性にとって最も幸せな時間――。

そう思われておりますが、正直、状況次第でしょう。

彼女の場合、プロポーズされた瞬間、絶対にこう思ったはず。

「こいつらマジで殺す……。何があっても絶対にぶっ殺す……」

なぜならその求婚は、

「おたくの旦那さんを、俺たちが殺しました。つまりあなたは未亡人でフリーですから、俺たちのボスと再婚しませんか!!」

というものだったのです。

復讐を誓った女性の名は、キーウ(キエフ)大公妃・聖オリガ――。

現在ロシアの侵攻圧力を受け、世界でも話題になっているウクライナにあったキーウ(キエフ)大公国の女性です。

聖人でありながら復讐の女神になった。

北の大地に、仇の血を流した。

絶対に喧嘩したくない歴史上の人物。

969年7月11日はその命日――キリスト教的には「聖人」である聖オリガの生涯を振り返ってみましょう。

※かつてはロシア語読みの「キエフ」と表記しておりましたが、ウクライナ語の「キーウ」に修正しました。わかりやすいよう併記します(→link)。

聖オリガ/Wikipediaより引用

 

ウクライナにあったキーウ(キエフ)大公国

ウクライナ首都・キーウ(キエフ)。

この地に9世紀後半から13世紀前半にかけて、キーウ(キエフ)大公国という国がありました。

オリガの孫にあたるウラジーミル1世の記事でも地図を掲載したので、覚えている方もおられるでしょうか。

ウラジーミル大公
ウクライナの英雄・ウラジーミル大公はロシアでも偉大だったからややこしい

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オリガはプスコフという町に生まれ、903年前後にキーウ(キエフ)大公イーゴリ1世の妃となりました。

村娘でありながらその美しさを見そめられたという説もあれば、貴族の娘という説もあります。

いずれにせよ少女時代はハッキリしません。

結婚生活もまた不明です。

彼女の名が歴史に刻まれるのは、夫の死後、945年以降のことでした。

 

ヒャッハー系キーウ(キエフ)大公イーゴリ1世

オリガの夫イーゴリ1世は、割とイケイケ……と言いますか、ヒャッハー系のキーウ(キエフ)大公でした。

944年、はるばるビザンツ帝国まで遠征するも、「ギリシアの火」(原始的な火炎放射器)相手に苦戦し、撤退。

むしゃくしゃしたイーゴリ1世は、ドレヴリャーネ族の集落に立ち寄ります。

当時のキーウ(キエフ)には、イーゴリ1世の父の代から年貢を納める取り決めがありました。

しかしドレヴリャーネ族は、943年から支払いを拒否しておりまして。

敗戦でイライラしていたイーゴリ1世は、手ぶらで帰国するのもむしゃくしゃしていたのか、ドレヴリャーネ族の集落へ立ち寄ります。

こうした取り立ては巡回徴貢(ポリュージエ)と呼ばれていました。

年貢取り立てにやって来たイーゴリ1世/wikipediaより引用

「オラオラ、年貢をとっとと納めろ!」

オラつくイーゴリ1世は「支払いが遅れたからには倍払えや」と、ドレヴリャーネ族の長であるマルに要求します。

「わかりました。残金を確認するので少々お待ちを」

マルはそう言うと、側近にこう漏らします。

「羊の群れに狼が入れば、狼は殺されるまで羊を食い尽くすだろう……」

マルと配下の者は準備を整えました。

そしてイーゴリ1世の元に兵士を送り込むと護衛たちを殺害したのです。

イーゴリ1世は生け捕りにされました。

そして木に縛り付けられ、真っ二つ。

マルは、さてこれからどうしたものか、と考えます。

「ここまでやったんだ。どうせならとことんやってやろう」

キーウ(キエフ)に残されている未亡人オリガを娶って、2人の幼い息子を殺せば、キーウ(キエフ)は己のものになるはず。

まったくもってワケわかりませんが、思うが早いがマルは早速、オリガに求婚しました。

 

「あんたの旦那殺しました」からのプロポーズ

夫の帰りを待っていたオリガの元に、夫が殺されたという最悪の知らせが届きます。

ほぼ同時に、城の門前にマルが送り込んだ20名ほどのドレヴリャーネ族使節団が来ていました。

彼らは堂々とイーゴリ1世暗殺を認めた挙げ句、こう言ったのです。

「ハッキリ言いますけど、おたくの旦那さんは殺されて当然のクズでしたね」

「狼みたいに貪欲で、狡猾で、強欲で。死んでよかったと皆思っています」

さらにぬけぬけとこう言ったのです。

「まぁ、終わってしまったもんは仕方ないでしょう。悲しい過去のことは水に流して。うちのマル公は寛大な御方です。貴女との結婚を熱望しておられます」

使節団は舐めきっていました。

夫の死で動転して、オリガはろくな判断もできないだろうとたかをくくっていたのです。

幼子を抱えた未亡人なんて、怒っても怖くはないだろう、と。

これは最悪の判断でした。

彼らはヒグマに素手で挑むよりも危険なゲームを始めたことに、まだ気づいていません……。

喧嘩を売ってはいけない女・オリガ/wikipediaより引用

激しい怒りをぐっとこらえて、オリガはこう応じました。

「ありがたいお申し出ですわ。マル公との結婚は願ってもないことです。それに夫が生き返らないのは確かですもの」

でも、とオリガは続けます。

「あまりに急なお話で、心の準備ができませんの。明日改めていらしてくだされば、お返事できると思いますわ」

使節団はうまくいったと大喜びで、深々とお辞儀をして出て行きました。

「チョロいもんでしたな」

「女っちゅうのはね、やっぱりね、男がいないと心細いのよ」

「マル公も喜ぶでしょうなあ」

なんて言い合いながら、上機嫌で帰って行きます。

一方のオリガは、困惑した様子の家臣を前にして、冷たい声で命じました。

「城の周りに穴を掘れ。深い穴だ」

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