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【キーウ大公妃・聖オリガ】
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オリガの総仕上げ「私に小鳥をくださいな♪」
マル以下有力貴族に倍返しどころではない復讐を果たしたオリガ。
しかし、彼女の心はまだ満たされません。
殺戮の宴から立ち去ると、オリガは素早くキーウ(キエフ)に引き返しました。
そして軍隊を率いて、ドレヴリャーネ族の集落・イスコロステニに進軍したのです。
「オ、オ、オ、オリガが来たぞーッ!」
血に飢えたオリガの姿を見て、ドレヴリャーネの人々はすっかりパニックに。
代表団をオリガの元に送り込みました。
「どうかお慈悲を! 金ならばいくらでも、言われるままに支払います!」
オリガは優しい声音でこう言いました。
「あらまあ、私は亡夫とは違いますわ。あなたたちから莫大なお金を取ろうなんて考えていませんのよ。私の望みはささやかなもの。あなたたちの家に巣を作っているハトと雀をちょうだいな。それで私は満足します」
小鳥を欲しがるなんてそんなに悪い人じゃないんだなあ、よかった……と代表団はホッとしました。
安堵した顔の代表団が帰ると、オリガの顔には冷たい笑みが浮かびました。
「本当に残念だわ……悪いけど、あなたたち、ここでオシマイなのよ」
オリガは恐ろしい策を兵士に伝授しました。
小鳥たちの羽根に小さな布片をつけ、そこに火をつけて放せと命じたのです。
「さあ兵士たち、可愛い小鳥に火をつけて放ちなさい!」
元の巣を目指して飛び立つ鳩たち。
不思議な光が集落の木造家屋に飛来しました。
住民たちは空から降る火に驚愕するばかり!
あっという間に、集落は猛火に包まれます。
集落の人々は門に押し寄せ、命だけはと慈悲を乞いました。
しかしそんなものは今更あるわけもなく……オリガは生き残りを全員捕らえると奴隷として売り払ったのです。
仇の町を滅ぼし、部族をまるごと消滅させ――やっとオリガの気はおさまりました。
小鳥を飛ばした話は伝説で、火矢をしこたまぶち込んだだけという説もありますが、ともかく集落を焼き払ったことは確かです。
そして聖オリガになった
本人の名誉のために申しておきますと、オリガは恐ろしい復讐心だけの女性ではありません。
幼い息子が成人するまで、摂政として国を立派に統治。
彼女は夫の死に怒り、その復讐をしたものの、その統治でよいとは考えていませんでした。
領内を安定させるため、強引な年貢の取り立てをやめ、税制改革に取り組んだのです。
オリガは、殺伐とした領民の心に安寧をもたらすために、キリスト教を広めたいとも考えました。
息子すら反対する中で、コンスタンティノープルに向かい、洗礼を受けます。
聖書やイコンもキーウ(キエフ)に持ち帰り、神の教えを広めようとしたのです。
しかし教えは広まらぬままでした。
オリガは心を痛めつつ、969年に世を去ります。
死後、彼女は祖国にキリスト教を広めた第一人者であるとされました。
そして、その功績によって、教会により聖人とされます。
「聖オリガ」とも称され、正教会では「亜使徒(使徒に次ぐ者)」としました。
オリガの願いは、孫のウラジーミル1世によって叶えられました。
彼も洗礼を受け、キーウ(キエフ)をキリスト教の国に変えたのです。
キーウ(キエフ)は美しく洗練された国となり、オリガとウラジーミル1世の祖母と孫は、キーウ(キエフ)を代表する偉人として讃えられることになります。
生きたまま敵を焼いたり、集落を焼き滅ぼしたり、ロシアンマフィアの女幹部も驚くような女性・オリガ。
彼女こそ、絶対に喧嘩を売ってはいけない聖人なのです。
聖人として描かれる彼女は美しく、優しそうで、まったくそんな風には見えないのですけれども……。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
トマス・クローウェル/蔵持不三也/伊藤綺『図説 蛮族の歴史 ~世界史を変えた侵略者たち』(→amazon)