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【サン・バルテルミの虐殺】
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めでたいはずの結婚式が惨劇の場に
1572年、8月24日。
その日は聖バルトロマイ(フランス語でサン・バルテルミ)の祝日前日にあたりました。
めでたい婚礼のため、招待客が続々とパリへ。
その中には、マルゴの初恋の人であるギーズ公アンリの姿もありました。そして、ユグノー派指導者のガスパール・ド・コリニー提督の姿も。
ここで事件が起こります。
コリニーが窓の下を通過中、狙撃手が彼を撃ったのです。
致命傷を負わなかったものの、事態はこれでおさまりません。
「怒ったユグノー派が殺しにくるゾ! 殺られる前にやれ!」
マルゴの兄・国王シャルル九世とその側近、そしてカトリーヌはそう判断し、先手を打つことにします。
コリニーの元にギーズ公アンリの兵を送り込んだのです。
ギーズ公アンリは、父の暗殺に関与したとされるコリニーを憎んでおり、兵たちはコリニーの元へと殺到。
病床で治療にあたっていたコリニーは敢えなく惨殺され、首を落とされてしまいます。
胴体はバラバラにされ、焼き捨てられました。
カトリーヌは、これで殺しの連鎖を止めたかったのかもしれません。
しかし逆効果でした。
「ユグノーの指導者が殺されたということは……」
「ユグノーを殺していいってことだろう!」
そう考えたカトリックたちは荒れ狂ってユグノー教徒を虐殺し始めるのです。
パリだけでも2千人から1万人。
この「サン・バルテルミの虐殺」と呼ばれる惨劇は、フランス全土に広がって「ユグノー戦争」へと発展し、各地で殺戮されたプロテスタントの数およそ5万人とされています。
一体これはどういうことなんだ?
フランス全土のみならず、ヨーロッパ中が恐怖のドン底にたたき落とされました。
宗教戦争のもたらした惨劇は続き、最終的には300万人が犠牲になったと伝えられます。
フランス人が“トコトン争う”という性質も影響したのでしょう。
また、豊かな穀倉地帯を持つフランスはそもそも人口が多いため、内戦が起こると犠牲者数が莫大なものとなります。
不幸な結婚式の後、どうなったの?
ここで忘れ去られがちなのが、結婚式をぶちこわされたナバル王アンリと王妃マルゴです。
アンリは虐殺の最中、カトリックに改宗してやっと命が助かりました。
マルゴは虐殺の最中、寝室に逃げ込んで来たプロテスタントを匿いました。
カトリーヌは娘のマルゴにこう尋ねます。
「結婚はなかったことにしましょうか?」
するとマルゴは断りました。
「母上、もう無理です。私たちは既に閨をともにしています!」
しかし、ここで断っていたほうが、彼らは幸せだったでしょう。
こんな酷い目にあえば当然といえば当然ですが、二人の仲は冷え切ってしまいました。
口論を繰り返し、互いに公然と愛人を作るのです。
結局2人は離婚 マルゴは「淫乱マルゴ」と呼ばれ……
二人の間に子は産まれず、アンリは離婚しようとします。
しかしそうなると、カトリック教徒ですのでなかなか面倒なことになります。
そこでアンリは、カトリーヌの実家であるメディチ家(フランス語読みはメディシス)からマリーを娶ることにしました。
莫大な財産を持つメディチ家であれば、離婚のためローマ教皇にもかけあってくれるだろうと読んだのです。
これは当たりました。
アンリとマリーの間には無事世継ぎが生まれ、彼がのちのルイ13世になります。
多くの愛人を作ったマルゴは、彼らとともに悠々と生き、かなりの長寿を保ちました。
マルゴは「淫乱マルゴ」と呼ばれてあきれられるほどでした。
しかし、結婚式を実母、実兄、初恋の人に、よってたかって無茶苦茶にされたのです。
タガが外れてしまったところで誰がマルゴを責められましょうか。
★
結婚式で新郎が新婦の右側に立つのは、右手に剣を持って新婦を守る為だそうです。
しかし歴史的に、ぶち壊された結婚式を見ていると、守る間もなくアウトではないか?という気がします。
襲撃相手は多人数で飛び道具。
剣を持って守るなんてトロいことを言っていないで、謀略をめぐらせ、事前に察知するのがよいでしょう。
いやいや、その前に宗教的対立は避けてしかるべきですね。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考】
マシューホワイト/住友進『殺戮の世界史: 人類が犯した100の大罪』(→amazon)