世界史的に見て、コロンブスはもはや偉大なる英雄とはされません。
ところが日本では、2024年6月に3人組バンド「ミセスグリーンアップル」がミュージックビデオ『コロンブス』を公開して物議を醸し、早々に閲覧できなくなりました。
いったい何が起きていたのか?
というと、ミュージックビデオの中で、コロンブス、ナポレオン、ベートーベンに扮したメンバーが、猿の着ぐるみを身につけた人々に様々な文明を教えるというストーリーが描かれ、差別的と見なされたのです。
たしかにアメリカでは、10月の第二月曜日を「コロンブス・デー」という祝日にしていました。
1492年10月12日にコロンブスがアメリカ大陸を発見した日を記念するものでしたが、疑義と批判が噴出し、各州で「先住民の日」と改められてゆくのです。
わざわざ祝日を変更するとは……英雄の銅像撤去にせよ、こうした世界的な歴史の見直しは行き過ぎと思われるでしょうか?
しかし、ミセスグリーンアップルのMV撤回騒動から見えてくることは、行き過ぎどころか「日本国内ではあまりに歴史観への変換に鈍感ではないか?」ということです。
もう二度と同じ過ちを繰り返さないためにも、コロンブスを英雄視することがなぜ問題なのか、歴史を振り返ってみましょう。
大陸発見、それは地獄の始まりだった
結局コロンブスの乗ってきた船は何という名前だったのか?
そもそも第一発見者なのか?
そういう話はもはや色々あってわからなくなってきています。
ただ、確かな点はあります。
彼らが原住民にとっては恐ろしい殺人者であり、略奪者であったということ。
鈍器のような石斧や弓矢しかない原住民にとって、鋼鉄の剣とマスケット銃で武装した彼らは恐怖そのものでした。
マスケット銃の命中率は悪く、威力はさほどではありません。
しかし、雷鳴のような音を立てたと思った刹那に人が負傷して倒れるという銃の性能は、それを持たない者にとっては悪魔のような武器でしょう。
長い航海を経て、原住民の元にたどり着いた欧州人たちがどう考えてふるまったか?
何ヶ月も男だけの船で過ごしてきて、裸同然の原住民女性を見てどうなったか?
想像に難くないことでしょう。
冒険を求めて旅にでた。
たどりついた先には女性、貴金属、簡単に奴隷にできる人々がいた。
彼らにとっての天国は、先住民にとって地獄でした。
真の脅威は病原菌 抵抗なき人たちは次々と……
しかし実のところ、剣も銃も決定的な人口減をもたらしたわけではありません。
アメリカ大陸に持ち込まれたもので原住民にとってもっとも危険であったもの。
それは目に見えない病原菌でした。
・天然痘
・はしか
・かぜ
アメリカ大陸の人々は、ヨーロッパから持ち込まれた細菌に抵抗がありませんから、病は集落を襲い、全滅させるほどの猛威をふるいます。
天然痘患者が使っていた毛布をイギリス人がわざと原住民に渡した、という逸話もあります。
そういう記述が手紙に残されているようです。
仮に毛布を渡さずとも、ヨーロッパからの天然痘患者が上陸する時点で、遅かれ早かれ原住民に感染は広まったことでしょう。
毛布が感染を早めたであろうことは言うまでもなく、この行為自体は邪悪なものではあります。
ともかくバタバタと斃れ死んでゆく原住民を見て、ヨーロッパ人は納得しました。
「彼らが倒れる病に、我々は抵抗できている。つまり我々は彼らより上位の存在だ」
「これはきっと神の意志である。野蛮な先住民が死に絶えたあと、我々がここを支配しろということだ」
「この地を支配する権利は、神によって与えられたものである」
なんと野蛮な神様もあったものだ……と嫌味のひとつも言いたくなるのは、私が現代人だからでしょう。
黒人奴隷には同情を示したリンカーン大統領すら、原住民には極めて酷薄な態度を取っています。
そうした背景には「劣る原住民を支配することは神によって証明された権利だから」という考えもあったのでしょう。
犠牲者は最小で200万人 最大で1億人!?
では、アメリカ大陸の原住民は、一体何人が犠牲になったのか?
諸説あわせると最小200万人、最大1億人と目されるようです。
数字の幅が広すぎるがため「信憑性ないじゃん」というのもまた違います。
この算出が、なかなか難しいのです。
というのも、ヨーロッパ人が来る前に一体人口がどれほどであったか――それが把握しづらいからで、おおよそ4000万人程度、というのが現在最も支持される数値です。
この4000万人という人口が減り続け、ようやく底を打ったのが500万人でした。
マイナス3500万人、つまりは87.5%の減少。
仮に元の人口が1000万人だったら875万人、1億人だったら8750万人が犠牲になったわけですから、いずれにせよ途方もない数の死者が出たのは間違いないでしょう。
「原住民が死に絶えると言うことは、神がこの土地を支配する権利を与えたのだ」
そんな当時の欧州人の考え方は、どう見たって許されたものじゃありません。
ゆえに「コロンブス・デー」の変更は妥当ではないか。個人的にはそう思います。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
マシュー ホワイト/住友進『殺戮の世界史: 人類が犯した100の大罪』(→amazon)