おんな城主直虎/amazonより引用

井伊家 おんな城主直虎感想あらすじ

槍で胸を突かれた政次が最期の会話をできたのはなぜ?おんな城主直虎

槍で胸を刺されて会話できるのおかしくない?

2017年大河ドラマ『おんな城主直虎』は色々と衝撃的でした。

大名に運命を翻弄される国衆たちが、国の事情で簡単に殺されたり、領地を奪われたり。

従来の戦国モノの定番・国盗り物語は描かれず、どちらかというと庶民に近い目線から土着した武士たちの生活も描かれたわけです。

そうした中で、最も衝撃だったシーンがこちら。

絵・霜月けい

柴咲コウさんの井伊直虎が、小野政次の胸を槍で一突き!

高橋一生さん演ずる政次は、息も絶え絶えに直虎を睨みつけながら、口から血を吐きながら、最期のセリフを絞り出す。

「お前こそが井伊の未来だ! 生き抜け! 家老の俺がいなくとも生き残れ。絶対にやり遂げろ。地獄の底から、見届けるぞ……」

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あまりに壮絶なこのシーンに視聴者の多くはボーゼン。
放心して翌月曜日は仕事が全然はかどらなかった――と、私の周囲では溜め息が漏れておりましたが、一人、小憎たらしいばかりに冷静だったのが、私の担当編集サンです。

ドラマが終わった翌日、ヌケヌケとこう語ったんです。

「あのシーン、不思議なんすよねぇ~。普通、心臓を刺されたら即死じゃないんすか? あんなセリフを吐いてる暇あるんすか? なんかウソ臭くないスか?」

いや、もう、世の中にはヒネくれ者がおるもんですね。

わかりましたよ。
だったら、担当編集さん、アナタで実践してみましょうか(・∀・)

なんて冗談はさておき、ここは医学的見地からあの名シーンを分析してみたいと思います。

今回のテーマは「小野政次の死因を考える」です。

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“磔”は打ち首よりも重い罰だった!?

直虎ファンの方はご存知かもしれませんが、小野政次の最期について史実とドラマは異なります。
大河ドラマでは“磔”にされた政次でしたが、実際には井伊谷の蟹淵(静岡県浜松市)で斬首されました。

斬首であればほぼ即死ですので考証の余地がありません。
ちなみに史実では、政次の処刑から一ヶ月おいて幼い息子2人も殺されたそうで、独身設定であったドラマとは異なりますね。

話を磔に戻します。
江戸時代のことになりますが、庶民に課される死刑のうち、磔はきつい罰でした。首を斬られる刑罰より重い扱いです。

たとえば首をはねる刑罰(下手人、死罪、獄門)は、座敷牢の中など人目に晒されないところで行われます。獄門はその後、さらし首になりますけどね。

これに対し磔は、死ぬ場面も「公開+即死せずに苦痛が伴う」ため、より重い罰となるのです。

江戸時代の磔刑の手順は、ざっとこんなもんです。
執行役の二人が受刑者の左右に立ち、まずは槍を受刑者の面前で交差させた後、掛け声をかけながら右わき腹から左肩に向けて一突き! 今度は左わき腹から……という具合で20~30回も繰り返した後に喉をついて終わる形式でした。

いかにもムゴたらしく、死ぬ方の苦しみもキツそうですが、たいていの場合は外傷性ショックか出血のために、数回突かれて絶命していたそうです。
まぁ、それでも痛々しいですけどね。

 

全身に血液を送る左心室が左下にやや突出しているワケで

ではドラマの映像を見直してみましょう。

執行役の槍を直虎が奪い取り、左胸にズブリ!

これで心臓一突きだから即死だろう――
話すヒマなんてなかろう――
と、ヒネくれ者の担当編集サンは思ったワケです。

しかし!
ドラマで直虎と政次が会話できたのは、チャンチャラおかしい設定でもないのです。

実を申しますと、心臓は左胸にあるわけではありません。
胸腔のほぼ真ん中に位置し、全身に血液を送る左心室が左下にやや突出している形となります。

直虎が政次を刺すシーンを見ると、左胸を外側に向けて突いております。
私の推測ですが、
「心臓を突いてはいない!」
のでは?

仮に、槍が左心室へジャストミートした場合、おそらくショックで血圧が低下し、意識もスグに飛んでしまうでしょう。

では、直虎は一体どこを刺したのでしょうか?
ヒントは口から「喀血」しているところです。

あの部分を槍で刺され、消化管から出血しての吐血は考えにくいです。
なので、おそらくは肺を損傷して気管支に血が入り、それが咳反射でゴボッと出てきたのではないでしょうか。

死因は、肺からの出血による窒息か、あるいは『外傷による気胸』+肺損傷ではないかな?

 

喋る(呼吸する)に従い、どんどん弱っていく政次

胸腔というのは通常の状態で陰圧に保たれております。
ここにどこかから空気が入り込むと肺がぎゅぎゅっと押されて縮こまります。
これが「気胸」です。

こうなると肺が虚脱してしまい、呼吸困難に陥ります。
槍で刺されることが原因で胸壁が破れ、開放性気胸を起こしたとすると、その症状は呼吸運動により強まる胸の痛み、息切れ、呼吸困難などを引き起こします。

開放性気胸の中で、外からの空気は入りますが、胸郭の外へ空気が出行かない状態(チェックバルブ様)になってしまうんですね。
こうなると外側の空気に押されて肺がどんどんしぼみ、心臓を圧迫、更に進むと血圧低下やショック症状を起こします。

喋る(呼吸する)に従い、どんどん弱っていく政次の姿と一致しませんか?
唇が紫色になっているのも呼吸がうまくできずに、動脈血の酸素飽和度が低下し、チアノーゼを起こしているからだと考えます。

以上をまとめますと、槍が突いたのは心臓ではなく肺。
だから喀血。
その際に胸郭に穴も開くので開放性気胸を発症。

経過が重篤なことから、創部はチェックバルブ様になり重篤な気胸(緊張性気胸)を発症していることでしょう。

かなり専門的な解説になってサーセン。
最終的にドラマの小野政次は、緊張性気胸による心臓の圧迫が原因でショックを起こし、加えて肺損傷や出血も伴って死亡した可能性が考えられます。

これならば多少しゃべる時間があっても矛盾はないかと思います。

とまぁ、色々と理屈をコネさせていただきましたが、このドラマ、要は面白い!
それでいいのではないでしょうか( ^ω^)

イラスト/霜月けい
文/馬渕まり(忍者とメガネをこよなく愛する歴女医)
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【編集部より】
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【参考】
日本救急医学会
胸腔/wikipedia
Yahoo!ヘルスケア
恩賜財団済生会

 



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