こちらは2ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
【新野左馬助親矩】
をクリックお願いします。
お好きな項目に飛べる目次
虎松だけは助けねばなるまい
直満に続き、直親までもが殺されてしまった井伊家。
『なんとしてでも直親の子・虎松(後の井伊直政)だけは助けねばなるまい』
そう思ったのは、誰あろう新野親矩だった。
親矩は「虎松を養子にして新野家で育てる!」と断固主張し、井伊谷の新野屋敷で母親と共に匿ったという。
ただしこれには諸説あり、虎松は近隣の浄土寺で育てられたとか、「出家させる」として鳳来寺に送られたとか、はたまた「井伊家でも新野家でもなく、奥山家で育てる」(新野親矩の妻も、虎松の母も奥山氏)とか伝わっており、ハッキリしない。
母と共に龍潭寺の松岳院で暮らしたなんて話もある。
いずれにしても虎松は生き延びて後に徳川四天王・井伊直政となるが、この虎松を助けた新野親矩にはその後、2つの死亡説が流れている。
一つは、引馬城の飯尾氏を討つ討伐軍の大将として出陣し、永禄7年(1564)9月15日に「天間橋」で討たれたというものだ。
飯尾氏は、武田、徳川と寝返りを繰り返し、今川から狙われていた。
このとき親矩の義兄である新野親道や、井伊家の宗主代行をしていた中野直由(中野家は井伊家庶子家)も同時に討たれており、結果、井伊直虎が虎松の後見人とならざるを得ない状況に陥る。
おんな城主直虎はこれを機に誕生したのである。
もう一つの死亡説は、飯尾氏が駿府の今川館へ行った際、今川氏が飯尾氏を誅殺しようとしたところ、抵抗にあって親矩が討たれたというものだ。永禄8年(1565)12月20日のことだという。
現段階では、どちらが正しいか分からない。
新野親矩は駿府の新野屋敷から井伊谷の新野屋敷に転居して、今川館には詰めていなかったと思われるし、新野親矩の同心であった幡鎌半兵衛(本貫地は静岡県掛川市幡鎌)が、「(新野親矩の死亡により?)今後は幡鎌山虎の同心になるように」と申し付けられている永禄7年10月20日付の文書があるので、合戦による死亡説の方が自然だろう。
小田原合戦で恩人の子を殺してしまったのか!?
新野親矩の墓は、井伊谷の龍潭寺と、渋川の東光院にある。
渋川の東光院は住職を能仲和尚(龍潭寺・南渓和尚の弟子)が務めており、能仲は新野出身で親矩の弟とも言われる。
東光院には「新野塚」という親矩の墓があったが、そこに渋川小学校を建てることになって墓石が運ばれた際、行方不明になったという。
また、東光院に保管されていた新野親矩の遺品は、新野親良(井伊直弼の異母兄)に懇願されて差し上げたので、今は無いそうだ。
最後に、新野親矩の子らの数奇な話を掲載しておこう。
親矩の一家は系図によって異なるのだが、『新野村誌』などによると以下の8名となる。
・長女:上田又右衛門秀光室 号:清光玅秀尊尼
・次女:三浦與右衛門元貞室 号:花山昌栄大姉
・三女:井伊信濃守直盛室 号:松岳院殿壽窓祐椿大姉
・四女:瓜木右近室 再嫁戸塚左太夫正次 号:生誉曅性大姉
・五女:狩野主膳室 再嫁木俣土佐守守勝 号:栄光大姉
・六女:和田新左衛門常閑室
・七女:庵原助右衛門朝昌室
・長男:新野甚五郎 号:貞岩忠公大居士
井伊直盛の妻(「おんな城主 直虎」では千賀)は、新野親矩の妹ではなく娘になっている(狩野主膳と新野甚五郎は北条家の家臣)。
一方、千賀を新野親矩の「妹」とする系図によると、親矩の子は、
・長女:三浦與右衛門元貞室
・次女:戸綿太郎右衛門正金室
・三女:戸塚左太夫正次室
・四女:和田新左衛門常閑室
・五女:三条殿御廉中 ※「御廉中」は貴人の室(妻)のこと。
・六女:木俣土佐守守勝室
・七女:庵原助右衛門朝昌室
・長男:新野甚五郎 号:貞岩忠公大居士
の8人。
いずれにせよ子の数が多いのは側室の子が含まれているからであろうか?
男女比が女に偏っており、多くが「養女」の可能性も考えられる。
なお、数奇な話とは新野親矩の長男・甚五郎のことであり、彼は後北条氏の家臣となっている。
このことを知った徳川家康は、井伊直政に「呼び寄せ申すべし」と言ったが、呼び寄せる前に「小田原籠城之節戦死」してしまい、新野家は絶えてしまった。
「小田原城の戦い」といえば、井伊直政隊による蓑曲輪と捨曲輪への攻撃が豊臣側唯一の攻撃だと言ってよい。
だとすると、直政隊の誰かが直政の命の恩人である親矩の子・新野甚五郎を殺し、新野家を絶やしてしまった可能性も否定できない。
井伊直政はその後悔や「今川庶子家の人間でありながら、井伊家を救った情けの武将」である新野親矩への恩もあって、新野親矩の娘達を家臣に嫁がせた。
また、直政の次男・直孝は、新野親矩の娘達に10人扶持(10人の1年分の扶持米)を与えている。
著者:戦国未来
戦国史と古代史に興味を持ち、お城や神社巡りを趣味とする浜松在住の歴史研究家。
モットーは「本を読むだけじゃ物足りない。現地へ行きたい」行動派。今後、全31回予定で「おんな城主 直虎 人物事典」を連載する。
自らも電子書籍を発行しており、代表作は『遠江井伊氏』『井伊直虎入門』『井伊直虎の十大秘密』の“直虎三部作”など。
公式サイトは「Sengoku Mirai’s 直虎の城」
https://naotora.amebaownd.com/