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【鉄砲伝来】
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普及した鉄砲が戦場を変える
鉄砲が普及し、数が確保できるようになると、弓矢とは異なる性質がメリットとなりました。
◆扱いが楽である
訓練して覚えさせれば、運用がそこまで大変でもありません。足軽のシンボルと言える長柄鑓と同じく、扱いが楽な武器として認識されました。
和弓は腕力がなければ扱いが難しい武器です。
しかし、鉄砲はこの点も克服している。
つまり、生粋の武士ではない者たちが扱う武器として、鉄砲はうってつけでした。
◆装填と発射を分担でき、腕力がそこまで必要でもない
他の武器は、装填装備から攻撃まで一人で行います。
しかし鉄砲の場合、装填と発射を分担して行うこともできます。
籠城戦のような局面では、交替しながら攻撃することもできるようになりました。
◆発射音と煙幕による制圧兵器としての運用
鉄砲の発射音は大きく、また黒色火薬が立ち込め、煙幕の役割を果たしました。
不慣れで音に敏感な馬ならば、パニックを起こしてしまってもおかしくなく、制圧用の武器としても有効でした。
普及と共に日本でも、ヨーロッパと同じく命中精度を高めるのではなく、弾幕を張る戦法へと変わっていったのです。
三段撃ちはあったのか?
鉄砲を用いた戦術といえば、圧倒的に有名なのが織田信長の【三段撃ち】でしょう。
例えば3,000丁の鉄砲なら、一列目で1,000丁が同時発射し、次の弾込めをしている間に二列目の1,000丁、三列目と続けて絶え間なく敵に銃弾を浴びせるというもの。
あたかも無敵かのようなこの戦術は、ヨーロッパの戦い方が反映されているように思えます。
日本はじめ東アジアでは、近世以降に戦争が減り、一方で争いが続いていたヨーロッパでは操兵術も進歩してゆきます。
兵士は銃の装填から、弾幕を効率的に張るための一斉射撃が訓練されるのです。
戦国時代にそうしたヨーロッパ近世式の操兵術があったかどうか?
同時に発射する戦術は、ナポレオン戦争に衝撃を受け、学び始めた幕末以降だと思えるのです。
日本では、大正時代からアジア太平洋戦争敗北まで、奇妙な発想が蔓延しておりました。
明治維新以降、脱亜入欧を目指してきて、日清および日露戦争勝利まではそれでよかったものの、その後は行き詰まりを感じるようになる。
軍事力や経済力を高めようにも、どうにも限界があった。
銃器にせよ、日露戦争までは性能が良いものを開発実装できており、日本製の武器は海外へ輸出されました。しかし、前述のようにその後がどうにもうまくいかない。
となると、精神論をふりかざし、現実逃避に向かうようになり、その象徴が旧参謀本部『日本戦史』といえるでしょう。
行き詰まった軍部が、歴史にまで介入してきたのです。
「日本人は、大軍勢相手だろうと、奇襲で勝てるんだ!」
そんな現実逃避にうってつけだったのが織田信長。
特に【桶狭間の戦い】は、寡兵で大軍勢を撃ち破った理想の勝利として崇められました。
「日本人は、西洋人と同じくらい斬新なことを習う前から思いついていたんだ!」
こんな発想もあってか、近代以降のヨーロッパ陸軍の戦術を、あたかも織田信長が採用していたかのような“神話”が流布されていったのでしょう。
こうした厄介な現実逃避と歴史修正が、敗戦によって封印されればよかったのですが、どうもそうはなっていません。
司馬遼太郎の描く織田信長像は、儒教規範などとらわれない斬新な人物として描かれています。
今だって織田信長といえば、月代も反らず、南蛮鎧にマント姿が定番。肖像画では月代を剃っているのに、奇妙な話です。
織田信長は、そんな強引なこじつけをせずとも十分強い。
【長篠の戦い】において、織田・徳川軍が大量の鉄砲を装備していたことは、史実と考えられます。
くどくどとここで書いてきたように、それを用意できただけでも十分すぎるほど強い。金、技術、物流ルートが備わっていたのです。
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倭寇との交流を経て日本に伝わり、各地で発展していった鉄砲。
江戸時代には非常に限られた範囲でしか使われず、長い月日が流れてゆきました。
幕末ともなると、火縄銃は時代遅れの象徴とされます。
かくして日本でも新たな銃の時代へと流れてゆくのでした。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
樋口隆晴『図解 武器と甲冑』(→amazon)
宇田川武久『鉄砲伝来の日本史』(→amazon)
佐々木稔『火縄銃の伝来と技術』(→amazon)
他