マンガでの連載が終わってもアニメでの盛り上がりが止まらない『ゴールデンカムイ』。
かつてはアシリパが大英博物館の展示ポスターに選ばれるほど評判となり(TOP画像:撮影馬渕まり)、ファンの熱は冷めるどころか加熱している勢いさえ感じます。
◆大英博物館で日本漫画展「Manga マンガ」開催 シンボルは『ゴールデンカムイ』のアシリパさん - ねとらぼ(→link)
そこで今回は、必読の参考書籍に注目!
特にオススメの3冊を紹介させていただきますので、物語を二重三重にお楽しみください。
※アシリパの「リ」はじめ、アイヌ語表記とは異なる部分がございます
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『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』
アシリパの表紙が美しい一冊。
それが『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」(→amazon)』です。
本書については、この一言で終わります。
「ゴールデンカムイファンなら読め! 以上!」
読めば読むほど、あの作品が楽しくなる、そんな必読の書。
これで終わらせてもよいところですが、具体的にドコを読むべきか、ファン以外にも価値はあるのか、併せて解説したいと思います。
◆アシリパの斬新性
中川氏も指摘しておりますように、アシリパというヒロイン像はかなり斬新だと思います。
読者ならばご理解いただけるでしょう。
彼女は従順性があるヒロインではありません。
比較対象として『サムライスピリッツ』のナコルル(アイヌの巫女)がわかりやすいかと思います。
ナコルルの特徴は、こんなところです。
・性格は聖なる巫女タイプである
・動物を含め、殺しを好まないように思える
・言葉遣いは丁寧であり、いつでも穏やかな口調だ
・表情は柔らかいことが多く、おしとやかなタイプに見える
・合理的というよりは情緒的
紫ナコルルといったバリエーションやパロディは、ここでは横に置きまして、これはどうも、こう言いたくなってしまうのです。
あ、アシリパが格闘ゲームキャラクターとして高性能である点も、ここでは関係ありません。
ナコルルは、こんな存在ではないでしょうか。
【マジカル・アイヌ】
元となる言葉は【マジカル・ニグロ】です。
◆「マジカル・ニグロ」、米ハリウッド映画に見る人種差別問題(→link)
マジョリティにとって都合良く、優れた才知があっても、あくまで手助けとなるだけであり、歯向かわない。
彼らは賢く敬愛されていないから、差別じゃない。
そういう言い逃れも通りかねません。
しかし、そういうものでしょうか?
それでいいのでしょうか?
ナコルルだって、人気キャラクターではあります。
しかし、だからといって平等な扱いをされたアイヌであるか。そこは議論の対象となるものでしょう。
ところが、アシリパは結構なバッドガール。
罠や弓矢で獲物を仕留め、杉元や白石が引くほどの残酷さで、淡々と食材にしてしまいます。
おまけに、ネタバレとなるのでここでは触れませんが、彼女には秘めた目的があるかもしれないのです。
時に狡猾であり、相手を騙し抜く手だって持っています。
無邪気で可愛い少女かって?
そりゃ違うでしょ!
この違いは、ディズニーにおけるポカホンタス、メリダやモアナの変化にも通じるものがあります。
心優しいナコルルやポカホンタス。
それに対して、アシリパ、メリダ、モアナは武器を持って立ち上がり、不敵な笑みを浮かべて困難へと立ち向かってゆきます。
アイヌは魔法の世界に生きているのか?
そんな強くたくましく、思考回路は徹底してクールであり、合理的なアシリパ。
その源流が、本作からはみえてきます。
読めば読むほど、脳内にあったぼんやりしたアイヌ像が消えてゆくのです。
アイヌは自然を愛していて、傷つきやすく、繊細。
そんなエコロジスト的なイメージが、ぼんやりとある方も多いと思います。私もそうでした。
しかし『ゴールデンカムイ』のアイヌは違いますよね。
あの漫画は、鶴見や尾形を筆頭にして、どこか二面性があり、策略に長けている人物が多数出てきます。
アイヌも、この中に入るでしょう。
アシリパの父であるウイルク、キロランケ、インカラマッ。
本当に信頼してよいのかと疑ってしまいたくなる、そんな人物が多いものです。
まだ幼いエノノカだって、そろばんをパチパチと弾いて計算することに余念がありません。彼女は鯉登あたりより、計算高いかもしれない。
これが、本作が【マジカル・アイヌ】を否定するところではあるのです!
ただ、それは野田先生の意識だけが作り上げたものではない、そう思えて来ます。
本書で解説されるアイヌの知恵は、合理性に満ちています。
厳しい自然の中、狩猟をして生きていくからには、それもその通りだと頷けるのです。
むしろアシリパは、感傷的になる杉元を嗜めることすらあるほど。それも、アイヌの生き方だったのだな、と深く頷いてしまうのです。
エコロジカルで魔法の世界を生きる、そんなふうにアイヌを定義したいのは、和人の驕りではないか? 高慢さではないか?
そう深いところまで感じられて、もう圧倒されるばかりです。
そして、合理性と知恵だけではない、別の何かもそこにはあります。
敢えて言うのであれば、それが【カムイ】かもしれません。
なぜ、野田先生はこの作品を描いているのだろう?
なぜ、中川先生はこの作品の監修者なのだろう?
なぜ、私たちはこの作品を読み、こんなにも感動しているのだろう?
それはただの偶然ではなくて、何かの力によるものなのでは?
そんな力も、本書からは伝わって来ます。
野田先生の考証と創作テクニック
野田先生がいかに気を使っているか。その一方で、大胆に踏み外しているのか。
そこも、本書でわかってきます。
彼の作風はこれですね。
【わかった上で踏み外す】
アイヌ関連の説明は、本書にお任せするとして、一例として、鯉登関連をあげておきましょう。
◆攻撃時に「チェスト!」と叫ばない
興奮していると毛筆手書きでざざっと書いてあるため、わかりにくいのですが「きえー!」です。
これは考証的に正解。
フィクションでは「チェスト!」と叫びながら攻撃する描写が多いものです
考証的に正解である「自顕流の猿叫」
考証的には不正解でありながら、採用されることが多い「チェスト!」
・ただし、常にキエエエエ!と叫ぶのは、ただ彼の性格が残念だから
正解をわかったうえで、外す。
そんな創作テクニックがわかります。
※以下のリンクは、良くも悪くも薩摩隼人らしさをまとめた記事となります
実際の薩摩隼人はフィクション以上にパワフルだった?漫画やアニメで検証だ
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「チタタプ」や「ヒンナヒンナ!」の正しい意味は使い方もありますから、これはもう読まなきゃね!
そうそう、本作でも紹介されているアイヌ料理は、東京・大久保の居酒屋「ハルコロ」で味わえます。
一度訪れてみてください。
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