ゴールデンカムイ 歴史書籍

『ゴールデンカムイ』ファンが押さえておきたい参考書籍3冊レビュー

こちらは3ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
ゴールデンカムイ参考書籍
をクリックお願いします。

 

インチキ「骨相学」の時代

タランティーノの映画『ジャンゴ』に登場する悪役奴隷農場主・キャンディは、黒人奴隷の頭蓋骨を片手に、骨相学について語り始めます。

骨を見れば、黒人が白人と比較して劣っていることがわかる。

あいつらは奴隷にするくらいしか、使い道がないのだと。

 

胸が悪くなるような描写ですが、これがまかり通っていた時代があります。

帝国時代、植民地主義の時代です。

幕末の混乱をくぐり抜け、西洋から学び始めた和人たち。彼らはアメリカやヨーロッパで、人種差別を学びました。

岩倉使節団
実はトラブル続きで非難された岩倉使節団 1年10ヶ月の視察で成果は?

続きを見る

西洋人だって、先住民や有色人種を差別している――そう理解したのです。

かつて、こうした人種差別を後押ししていたのは、宗教でした。

アメリカを揺るがす「リー将軍の銅像撤去問題」とは何なのか? 歴史的見地から紐解く

続きを見る

「奴隷制度は神が創ったものなのだ」

そんな意識が蔓延していたのです。

時代が下ると、その言い訳は通用しません。科学が新たなアプローチとなります。

そして生み出された学問が「骨相学」です。

アイヌ差別
和人はアイヌをどう差別してきた? 古代から1,000年以上の歴史を振り返る

続きを見る

アイヌの骨が盗まれた背景にも、こんな差別的な学問がありました。

アイヌの骨を調べれば、学術的な研究になる――。そんな西洋からの差別思想を持った和人が、アイヌの墓から骨を盗んでいったのです。

「骨相学」そのものは、現在では一切根拠のないものとして否定されています。

それならば、そのソースとなった骨だって戻すべき。

ところが、それがそうなっていないのです。

 

学問の道具ではないのに

繰り返しますが、「骨相学」には何の根拠もありません。

それなのに、大学からの骨返還は進んでいない。そんな状況があります。

本書には、大学側がいかにして変換要求を退けてきたのか。

その経緯がまとめられております。

なぜ大学側は、こんな苦しい言い訳をしてまで、変換を拒むのか?

本書の行間から、何か黒いものすら見えてくる。そんな気がします。

 

怒りと苦しみがドグマとしてそこにはある

一冊目は楽しい。

楽しいだけではありませんが、それはそうなのです。

しかし、二冊目、そして三冊目は読むと怒りでどうしようもなくなるほど、そんな揺さぶられる暗い感情を伴います。

杉元にせよ、鯉登にせよ、怒りのあまり絶叫する人物が劇中には存在します。

とめどない怒りを秘めたまま、策略に走る鶴見や尾形も。

そして忘れてはならない、ウイルクとキロランケ

彼らの激烈で、犠牲をものともしない言動の数々。

その背後には、どんな苦しみや悲しみがあったのだろう?

二人の背景には、こんな歴史があったのだ。

それがわかる二冊です。

そしてそんな歴史背景を伴う怒りを知ったからこそ、あの作品にはドグマのような何かが込められたのだと。そう感じることができます。

それだけではない、生きる力、明日を目指す力も。読後感は必ずしも軽いだけではありません。

しかし、是非ともこの三冊を読んで『ゴールデンカムイ』の世界に浸かっていただければと思います!

あわせて読みたい関連記事

第七師団
第七師団はゴールデンカムイでなぜ敵役?屯田兵時代からの過酷な歴史

続きを見る

北海道開拓
ゴールデンカムイ舞台 現実の北海道開拓は想像以上に過酷だった

続きを見る

ヒグマの歴史~危険な羆と共生してきたアイヌと開拓民の対処法とは?

続きを見る

土方歳三
土方歳三35年の生涯まとめ~生き急いだ多摩のバラガキが五稜郭に散る

続きを見る

永倉新八
永倉新八こそが新選組最強か?最後は近藤と割れた77年の生涯まとめ

続きを見る

南樺太の歴史~戦前の日本経済に貢献した過去をゴールデンカムイと知る

続きを見る

松浦武四郎
蝦夷地を北海道と名付けた松浦武四郎~アイヌ搾取の暴虐に抵抗する

続きを見る

文:小檜山青

【参考】
中川祐『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』(→amazon
岡和田晃/マーク ウィンチェスター『アイヌ民族否定論に抗する』(→amazon
松島泰勝/木村朗『大学による盗骨』(→amazon

TOPページへ

 



-ゴールデンカムイ, 歴史書籍
-

×