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インチキ「骨相学」の時代
タランティーノの映画『ジャンゴ』に登場する悪役奴隷農場主・キャンディは、黒人奴隷の頭蓋骨を片手に、骨相学について語り始めます。
骨を見れば、黒人が白人と比較して劣っていることがわかる。
あいつらは奴隷にするくらいしか、使い道がないのだと。
胸が悪くなるような描写ですが、これがまかり通っていた時代があります。
帝国時代、植民地主義の時代です。
幕末の混乱をくぐり抜け、西洋から学び始めた和人たち。彼らはアメリカやヨーロッパで、人種差別を学びました。
実はトラブル続きで非難された岩倉使節団 1年10ヶ月の視察で成果は?
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西洋人だって、先住民や有色人種を差別している――そう理解したのです。
かつて、こうした人種差別を後押ししていたのは、宗教でした。
アメリカを揺るがす「リー将軍の銅像撤去問題」とは何なのか? 歴史的見地から紐解く
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「奴隷制度は神が創ったものなのだ」
そんな意識が蔓延していたのです。
時代が下ると、その言い訳は通用しません。科学が新たなアプローチとなります。
そして生み出された学問が「骨相学」です。
和人はアイヌをどう差別してきた? 古代から1,000年以上の歴史を振り返る
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アイヌの骨が盗まれた背景にも、こんな差別的な学問がありました。
アイヌの骨を調べれば、学術的な研究になる――。そんな西洋からの差別思想を持った和人が、アイヌの墓から骨を盗んでいったのです。
「骨相学」そのものは、現在では一切根拠のないものとして否定されています。
それならば、そのソースとなった骨だって戻すべき。
ところが、それがそうなっていないのです。
学問の道具ではないのに
繰り返しますが、「骨相学」には何の根拠もありません。
それなのに、大学からの骨返還は進んでいない。そんな状況があります。
本書には、大学側がいかにして変換要求を退けてきたのか。
その経緯がまとめられております。
なぜ大学側は、こんな苦しい言い訳をしてまで、変換を拒むのか?
本書の行間から、何か黒いものすら見えてくる。そんな気がします。
怒りと苦しみがドグマとしてそこにはある
一冊目は楽しい。
楽しいだけではありませんが、それはそうなのです。
しかし、二冊目、そして三冊目は読むと怒りでどうしようもなくなるほど、そんな揺さぶられる暗い感情を伴います。
杉元にせよ、鯉登にせよ、怒りのあまり絶叫する人物が劇中には存在します。
とめどない怒りを秘めたまま、策略に走る鶴見や尾形も。
そして忘れてはならない、ウイルクとキロランケ。
彼らの激烈で、犠牲をものともしない言動の数々。
その背後には、どんな苦しみや悲しみがあったのだろう?
二人の背景には、こんな歴史があったのだ。
それがわかる二冊です。
そしてそんな歴史背景を伴う怒りを知ったからこそ、あの作品にはドグマのような何かが込められたのだと。そう感じることができます。
それだけではない、生きる力、明日を目指す力も。読後感は必ずしも軽いだけではありません。
しかし、是非ともこの三冊を読んで『ゴールデンカムイ』の世界に浸かっていただければと思います!
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文:小檜山青
【参考】
中川祐『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』(→amazon)
岡和田晃/マーク ウィンチェスター『アイヌ民族否定論に抗する』(→amazon)
松島泰勝/木村朗『大学による盗骨』(→amazon)