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【NHKドラマ『柳生一族の陰謀』徹底レビュー】
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いたぶり嬲る強い麻呂
日本全国では浪人が50万人を超えました。
しかも、甲府城下に仕事を求めて集まって来ます。こういうフリーランス戦闘員が危険であるのは、古今東西そんなものです。
柳生一族は土井大炊頭の首を取りに行くとやる気を満々に見せています。
宗矩としては十兵衛を使いたいのですが、左門が初陣を任せられないと言い出す。なんだこの狂った世界観は。まあいいや。
根来衆の左源太も首取りに向かう中、その娘・マンは大奥に潜入し家光警護にあたるそうです。嫌な予感がする。
なんでも土井は、京都まで麻呂を送迎するサービスをするそうですが……そこを襲撃されます。
油断も隙もないな、おい!!
「何者じゃ! 朝廷の使者と知っての狼藉かっ!」
「お命頂戴致す!」
「曲者じゃ、出会え、出会えー!」
忍者が屋根から飛び降りてきた。やはり、今こそこういう襲撃を見たい。そういう気持ちはあるわけですよね。
土井大炊頭はあっさり討ち取られます。まあ、そうなるよね。
すると笑い声が響く。
「オホホホホ、そなたら柳生の手ェのものか」
ちょっと待って、その朝廷からの使者、安全ですか?
はい、強い麻呂です。
「そなたらには、諍いの火種になってもらわねば。柳生の首ひとつ、いただいとこ」
あまりに軽い宣言のあと、主膳をいたぶり嬲り殺す麻呂。この軽やかにいたぶるあたりに、令和の強い麻呂感があっていいと思います。オリジナルよりゲスで、そこがいいですね。
無茶苦茶なようで奥深いとは思う。
幕末、朝廷が政治を取り戻す際には、第14代将軍継嗣問題(徳川家茂か、一橋慶喜か)が、発端の背後にあるんですよね。
主膳を殺した文麿は、猫がネズミをいたぶるように弓矢で左源太を打ちまくります。
楽しそうだなぁ。左源太は敵を食い止めるため自爆。ここもいいですね! 最近の時代劇にはこういう爆発が足りないと思っていたんです。
文麿は死体で身をかばいつつ、こう来た。
「ふぅ〜剣呑、剣呑。汚れるとこやったで」
軽やかにそう宣言します。
関東とは違う、関西人の目指すべき何かを見た気がします。ゲス麿、さすがだわ。
「主膳の仇は、俺が必ずとる」
十兵衛は左門の報告を聞いています。
主膳の骸は、追手に迫られ、いったん柳生ゆかりの寺に置いてきたとのこと。史実での主膳宗冬は死んでいないという突っ込みは、ここでは必要ないでしょう。
十兵衛は弟の仇討ちのため、立ち上がろうとする。
しかし、機は熟しておらぬと止められます。そして茜が泣く姿を見てしまう。
「私が死ねばよかったんです……貰い子の私が主膳の身代わりとして死んでいれば……」
「たわけたことを申すな。俺や親父殿にとっては身内。柳生の血が流れておらぬとも、命の重さは俺たちと変わらぬ。だからもう二度と、そのようなことは申すな」
「十兵衛兄様……」
「主膳の仇は、俺が必ずとる」
茜を庇う十兵衛が眩しくて、なんだかいい話になりそうではありますが。
ちょっと待て……。
・そもそも主膳宗冬は別に若死してないでしょ! そういう史実はどうでもいいんです
・茜も、暗殺集団にいたわけですし。貰い子を暗殺者にする柳生一族は紛れもなく外道
・柳生の血を覚えておこう。それ、呪いですよ
・仇討ち宣言=麻呂を斬り捨てる。十兵衛は殺陣宣言をさわやかにソウルフルにしました。柳生一族とは……
全ッ然、いい場面が、ない……感動的なほどに、ない! やっていることはヤクザ。組織暴力なんですよ。
やはり、こういう時代劇が見たい気持ちはありましたよね。
なんせオリジナル版は、ヤクザ映画で名をあげた深作欣二の作品です。武士道とヤクザの近似。それは妄想でもなく、そういういう見方はある。氏家幹人氏が本を書いております。
淡々と大量虐殺も辞さない宣言
宗矩は家光から謝罪を聞いています。宗矩の子を失ったことを許せと言うわけです。家光ってば、ピュアだなあ。
「許せとは意外なお言葉。合戦で討死するのは当然のことでございましょう。将軍家としてはまだまだ未熟。この先何があろうと、ご案じあそばせますな」
宗矩、戦国の気風を言うようで、淡々と大量虐殺も辞さない宣言とも取れるわけでして。
柳生一族が本当にしみじみと、最低最悪に思える。いいんだ、それでこそ柳生一族だ!
ここへ錫杖を鳴らしつつ、小笠原玄信斎がやって来ました。こういう剣豪は時代劇だと神出鬼没ですね。で、いきなり宗矩と真剣勝負を挑む。
宗矩はここで「危険だ!」とか、「アポなしで?」とか、ましてや「何言ってんだ!」とは答えない。
柳生新陰流は門外不出で他流試合は禁じられているってよ。
断るときでも「くやしかったら将軍指南役になってからいらっしゃい!」的なマウンティングを忘れない。それでこそ宗矩です。
すると十兵衛がいきなり斬りかかる。挨拶はいりません。
この対決は、十兵衛が目を斬られ、玄信斎も重傷を負い撤退することで決着がつけられます。
はい、今回は玄信斎による失明パターンでした。
玄信斎はよろめきつつ、こう言うわけです。
「流石は十兵衛、天下無双……」
川面に血が流れる。少年漫画? 順番が逆。これぞ日本の伝統フィクションです。
あるあるなんだよな。リアリティはさておき、かっこつけながら血を流してこういうことをしゃべると。
そして血。本作は血のりの使い方に気合を入れています。それも時代劇の伝統よ。
人体切断面からブシャアアア! お約束です。本作でも見られるかな?
敵も味方も酷い奴ばかり……だが、それがいい
このあと、玄信斎は阿国と話しています。日の目を見たと思ったらこの様じゃと自嘲するのです。
「もしや柳生のものに……」
あっ、阿国も只者じゃなかったぞ。玄信斎の養女でした。史実はどうでもいいんです。ここで玄信斎は、今柳生を倒し、悲願である忠長擁立のためには家光を殺して欲しいと言ってくる。
「家光の命を絶てば天下はおのずと……柳生はなすすべはない」
茜を暗殺者にする柳生一族も大概ですが、こちらも酷い。敵も味方も酷い。これぞ日本史を描く時代劇の醍醐味だと思うんですよね。
阿国はみなしごの私を育てて、芸を志しても見送ってくれた恩返しだと言い始める。
あー、典型的な洗脳ですわな。
ヤクザ映画でも、逮捕されそうになったり、困り果てた若者に飯を食わせる。そういうことをして恩義で釣って鉄砲玉にするんです。
そして阿国は潜入を果たし、次の場面では刀を抜いて大奥で振り回しているのだから、スピード感がたまらない。
場面ごとに刀で斬り合っているような世界観が大事なんです。
この屋内戦闘の殺陣が見事です。ジャンプして、長押に隠した刀を取って、襲いかかります。まずは長刀の女中が立ち向かい、そのあと男の武士も出てきます。
そしてあいつが出てくる。宗矩が素晴らしい抜刀をし、構えてくる。吉田鋼太郎さんの刀の構え方がかっこいい。ゆっくりとじっくりと映すのは、それだけ端正で美しく、絵になるからでしょう。そして宗矩は、阿国をあっさりと斬り捨てます。
家光襲撃時、かばって負傷したのはマンでした。根来衆の武功です。
このあと、玄信斎は阿国の肩身である笛を忠長に渡すのです。娘最後の願いだそうです。
「阿国、なぜじゃ、なぜ、命を粗末にした」
そう嘆く忠長。於江与はちょっと安心していそうですが。
これも汚い話なんですよね。阿国が家光を討ち果たす可能性は限りなくゼロに近く、低い。でも、忠長の愛する女を殺せば、憎悪は煮えたぎると。
人間を駒としか見ていない。そういう殺伐たる嫌な世界観は、伝奇時代劇のお約束です。
「姿は隠しても獣は臭いでわかりまするぞ!」
ハヤテはそっとマンの枕元に来て、自分たちの薬草をつけています。
マンの父である頭・左源太はやられてしまった。皆を守ろうとして盾になった。その仇討ちを絶対にすると言い切るハヤテ。マンは「あんたが死んだら私……」と胸いっぱいです。若い二人は愛し合っています。
でもだんだんみなさんもわかってきたとは思いますが、伝奇時代劇の恋は死亡フラグです。
そして十兵衛は、主膳の刀の鍔で眼帯を作っています。
金属なのでこすれて痛い。実用性はあまりないとは思うのですが、十兵衛といえばこの眼帯でないといけない。
隻眼の人物って、そもそも眼帯をしていたのか判別できない場合も多い。
つけなくてもよい。ずれるし、面倒だし。それでもフィクションでつけるのは、そうでないと隻眼だとわかりにくいからでしょう。コンタクトレンズで片目だけ白濁にするような演出も、今後はありだとは思いますが。
十兵衛の場合、史実で隻眼であるかどうかも、伊達政宗ほどはっきりしているわけでもない。
そういうあれやこれはことはありますが、ともかく十兵衛の場合、刀の鍔眼帯がお約束です。
このころ、主膳の首をとった文麿はこう語って、風流な風情で月を見ています。
「帝……武家どもに天下を奪われて以来、長い長い屈辱の日々でおじゃりました。しかし今、ようやく、朝廷復興の兆しが見えておじゃりまする」
はぁ、よかったですね。鎌倉幕府あたりからずーっと武士どもムカつきますもんね。
何をどうやって朝廷を復興させるのか。そのためにはどうして柳生一族と戦うのか? そういうことは、考えたら負けなんです。
とはいえ、幕末から明治にかけては、実際にそういう流れて政権交替が起きたという見方もできる。
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ありとあらゆる歴史に、喧嘩を売るようなことをしてこそ、伝奇時代劇ですから。
そしてこう言い出す。
「柳生の者よ、姿は隠しても獣は臭いでわかりまするぞ!」
はい、『ポプピピテック』の元ネタです。
文麿の出番は短いながらも、オリジナル版のファンが絶対に見逃せないセリフを全部綺麗に、場面と状況を変えつつ入れ込んでいます。オリジナル版を敬愛していることがわかって素晴らしいと思います。
「烏丸少将文麿、引導を渡しに参ったぞ」
獣臭い柳生十兵衛が来る。
自動ドアじみた演出で、重たい門が開いてそこにいる。どういう登場なのかと考える必要はない。お約束演出だからさ。
一時期、荒唐無稽とされてきたこういうベタな時代劇演出が、一周回ってとてつもなくクールに思えて来たのを噛み締めています。
「烏丸少将文麿、引導を渡しに参ったぞ」
引導を渡す――今から殺す宣言でも、時代劇にはいろいろな語彙があるんですね。脅迫語彙を学べる時間です。
「興が醒めるとはこのこと、無粋な男よ」
ここで公家らしい優雅さで煽ってきます。公家でありながら剣豪。やはり強い麻呂はいいですね。
文麿は飛び、跳ね回りながら十兵衛と闘います。
惜しまれるところは、放送時間の短さゆえに殺陣が短めのところでして。スペシャル版でもっとじっくり見たいところではある。
さあ、文麿はどうなったのでしょうか。
「烏丸殿、烏丸殿」
座っている彼のもとへ、別の公家が来る。すると、文麿は死んでいて、それを座っているようにされていたのでした。
汚い。さすが柳生一族、汚い。その公家に刃をつきつけ、無駄のない脅迫をする十兵衛。このスマートな脅迫で、朝廷は騒然となったそうです。
柳生一族の陰謀が絶好調ですね。
これで強い麻呂は退場ですが、最初から最後まで出番が全て見どころであり、聞きたいセリフも全部あったと思えます。
オリジナル版と比較すればきりがないし、放映時間はじめ制約はあるとは思えます。
けれども、現状でできる強い麻呂として、堂々たる合格点ではありませんか。もっとこの強い麻呂が見たい。連続ドラマにならないかと期待してしまいます。
強い麻呂がいない日本なんて、あってはならないと思うんですよ! もっと強い麻呂が見たいぞ!
将軍の首がむやみやたらと安くてこそ
もののふおそろしや、これ以上いたずらにことを荒立ててはならん――。
そう悟った朝廷は、急ぎ江戸へ出向き、家光さんのご機嫌を取ると言い出します。
絵図を描いた九条三房はなんとしても禍根をたつべく、江戸へ向かいます。
釈明に追われる三条西大納言は、江戸(家光)と甲府(忠長)の対立を煽ったのは烏丸少将文麿のせい、勝手にやったこと、吹聴して回っただけだと言います。帝はただ、家光さんと忠長さんの仲をお嘆きであると。
「絵図を描く」とか、東映ヤクザ映画でもありがちな語彙がなんとも面白い。
家光自らお詫びに参内することとなります。宗矩もグイグイと強引にこの上洛に同行して、将軍宣下を賜ると言い出す。
嫌な予感がする中、京都へ向かいます。
このころ、甲府城では家光上洛の知らせが駆け巡っています。もはや家光がチェックメイト状態だ。浪人たちは不満を募らせているのです。これも、「浪人ども、いいから傘張りでもしておけ!」と済ませられないのがおもしろい。
というのも、「大坂の陣」にしたって、浪人の不満が蓄積して暴発したことは否めません。
伝奇時代劇は無茶苦茶をしているようで、史実からエッセンスを抽出しているところがおもしろいんですね。
そしてここで、忠長の家臣と名乗って浪人を焚きつけているのは、なんと柳生左門なのです。嫌な予感がますます強まりますな。
家光を襲い、首を取れと煽る左門。茜はそんな兄に不安を感じています。
「皆のもの、家光の首を取るぞー!」
嫌な一致団結を見せる浪人ども。予告でこのセリフがあったあたりから、ワクワク感がありましたね。将軍の首がむやみやたらと安くてこそ、伝奇時代劇ですから。
そのころ、主膳の仇討ちを果たして十兵衛は帰路を急いでいます。
十兵衛の悲劇的なところは、彼自身も柳生一族の陰謀における歯車なのに、利用されているのに、なかなか気づけないところでして。
十兵衛が気づいたらどうなるのか? そういう話ではあるのですが……。
慌てふためく三条西大納言を斬殺
柳生一族が配った武器を取り、浪人どもは武装しています。
そして家光一行は富士川へ。甲府盆地と駿河湾を半日で結ぶ場所です。
「まだ撃つな。もっと引きつけろ」
そうハヤテが指揮しています。宗矩を見かけ、こう言うのでした。
「今だ、撃てー!」
銃声が響き、ワラワラと襲い掛かる組織暴力集団! 川にいる一行に襲いかかります。
三条西大納言は籠から出て、バシャバシャと川面を逃げ惑います。
するとそこには、あの男がいました。
「宗矩さん!」
はい、宗矩さん、「はぁはぁ、おそろしや!」と慌てふためく三条西大納言を斬殺。手際の良い暗殺です。
茜がそれを見てしまいます。
「父上、これは!」
「三条西大納言は、襲撃の浪人により御落命……」
汚い。本当に柳生宗矩、汚い。最低だ。茜は死屍累々の川で大いに嘆きます。
柳生一族の団結力を陰謀で見せよう!
宗矩:全ての謀略担当
十兵衛:朝廷工作担当
左門:煽り担当
茜:襲撃担当
主膳:襲撃と捨て石担当
酷いフォーメーションだ……。
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