映画『RRR』

映画『RRR』公式サイトより引用

歴史ドラマ映画レビュー

映画『RRR』はアクション映画の傑作だ!が、歴史背景を考えると……

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この映画がずっと好評であるかどうか?

楽しめるところはあった。

まるで神像のような二人が派手なアクションでバッタバッタと敵を倒す――そりゃテンションがあがらないわけがありません。

ただし、その気持ちを突き詰めて解剖してゆくと、パッと見の派手さを愛でたい気持ちの奥に、ひっかかる何かがある。これは一体なんなのか?

特に、世界的とりわけ英米で受けているということに嫌な予感がします。

前述の通り、常識的なイギリス人は近代史教育は理解していて、吹き上がることはないでしょう。

しかし、持て囃されすぎなだけに、反動があるのではないか?という懸念が湧いてきます。

頭をよぎるのはディズニー映画『ムーラン』です。

1998年のアニメ版では好意的な受け止め方でした。

アジアの可愛い頑張り屋さんのヒロインを見つけてきたという、純粋な喜びに満ちていました。

それが2020年実写版となると、あることないことケチをつけられだした。

中国語圏の観客が「考証をもっと真面目にやれ!」と怒り、評価しなかったことはわかります。私もそこには不満がかなりありました。

不可解なのは、主に英語圏の中国叩きの文脈による批判です。

ヒロインが父に代わって従軍し、匈奴と戦うことが愛国心と結びつけられ、やたらと叩かれたのです。

『花木蘭』そのものが難しい題材であり、もっと無難でディズニー向けの『白蛇伝』や『梁山伯と祝英台』といった題材もあるというのに、あえてこの題材で作っておいて、そのリメイクになると騒ぎ出すとはどういうことなのか。

アニメ実写版というディズニー側の事情で取り上げておいて、政治的に絡めて叩くのはどういうことなのか。

1998年と2020年という時代の差なのでしょう。

まだ中国に対し、欧米が余裕を持って見られた時代と、余裕を失い切羽詰まってきた時代の差があるのだと私は思いました。

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これは『RRR』のような映画でも同じ状況になりうるのでは?

インドの経済力が飛躍的に伸び、人口も多く、世界中で技術者などが活躍している。

世界でも重要度を増してきていて、今後、欧米の思う通りに動かなくなれば、手のひらを返されて叩かれることになる危険性がある。

そう考えると、アカデミー賞にナートゥダンスが出てきた盛り上がり方にも、白けた目しか向けられませんでした。

例えば同じような映画を、香港舞台で中国がリメイクしたらどう評価されるでしょう?

「こんな愚かで暴力的な映画で盛り上がる中国人は、中国共産党のプロパガンダに騙されている!」

とかなんとか、風刺画つきで茶化されるのでは?

 


日本だからこそ考えたいこと

さらにめんどくさいことを指摘させていただきます。

前述の通り、1970年代のカンフー映画では日本人は悪役で、ひたすらボコボコにされていました。

悪役として大人気だったのが、倉田保昭さん。

主役を務める役者よりスタイルもよく、美男で、身長もあり、アクションも素晴らしい。

にもかかわらず、いつまでたっても悪役でしかない立場には、本人ですら納得できないこともあり、思わず愚痴をこぼしたところ、香港の映画人にこう諭され納得するしかなかったとか。

「なあクラタよ、香港の観客は殴られる日本人が見たいんだ。我慢してくれよな」

そして倉田さんは、悪役を演じ続けた結果、今では中国語圏で「亜州映帝」(アジアの映画王)と呼ばれるほどにまでなりました。

そういう時代からくだりますと、こういう往年のカンフー映画らしさを残した作品は「反日だ!」とやたらと叩かれるようになります。

むしろ時代考証は進歩し、別の文化圏の武道家として描かれ、イギリス人ボクサーあたりよりはまっとうな扱いであることも多い。

映像技術やアクションだって進歩しているのに、そうなってしまう。

要するに、見る側の受け止め方が変わったということです。

このことを考えますと、どんな映画にせよ、欧米圏が叩き始めたら、日本人だってその影響を受けないとは言えないでしょう。

そして肝心なことですが、日本もイギリス領であったインドと対峙した歴史がある。

この映画で実に憎たらしいイギリス人、彼らはアジア太平洋戦争の際、インド人兵士をこう叱咤激励したと言います。

「お前たち、香港が日本軍によって陥落したニュースは聞いているよな。われわれの支配も快適ではないだろうが、それでも連中がインドを支配するよりはマシだと目が覚めたんじゃないか? さあがんばって祖国を日本軍から守るんだ」

日本でも悪名高いインパール作戦は、インドの都市への進軍です。

それを時代背景にして、インド兵が日本兵を無双で倒す作品だって、作ろうと思えばできます。

日本は、この映画ならばむしろイギリス側だということは意識しておいた方がよいかもしれません。

第二次世界大戦時にはアジア解放だのなんだの取り繕うとしましたが、明治時代から大正末にかけて日英同盟を破棄するまで、日本はイギリスの同盟国です。

さらに遡ってゆくと、明治維新とはイギリスが傀儡国家を建設したとも言える。

『RRR』で例えるならば、ラーマがイギリスの支援を得るうまみを見出し、武器を買い付ける。その武器でビームらの勢力を叩き潰す。そして自分たちが仕切れる政権を樹立したという流れですね。

あまりに不愉快で否定したい気持ちはわかります。

だからこそ、さまざまなプロパガンダを総動員していて、そういう印象が日本近代史から漂白されてきた。

大河ドラマも一役買っていて、逆に2013年『八重の桜』は、それを打ち破ろうとした形跡が冒頭に見えます。

あの作品は第一回冒頭がアメリカ南北戦争であり、終戦後に余った武器を日本に売りつけるビジネスチャンスを主導したのがイギリスだと描かれていた。

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ところが2015年『花燃ゆ』、2018年『西郷どん』では全く触れられない。

大英帝国の有能外交官ですら「日本スゴーイですね」とはしゃぐ観光客のようなノリで描かれました。

幕臣サイドからじっくり描けたはずの2021年『青天を衝け』も同様の体たらくで、渋沢栄一五代友厚の青春バトルのようなノリで誤魔化され、よくわからなくされていた。

『青天を衝け』を名作だとする方もいますが、当時の政治外交面からすれば非常に厄介な描写でした。

『RRR』のスピンオフとして、総督夫妻の優雅な休日というものがあったら、笑顔で見られるでしょうか?

本編よりずっと善良そうで、美しく描かれた夫妻が、優雅に紅茶を楽しむ。

そんな美しい総督夫妻に、ジェニーはもちろん、マッリも笑顔で、すっかりなついている。

それが単品でいかに美しく愉快な作品だったとしても、ビームたちの苦悩を無視してそんな日々を見せられて、どう感じるか。笑顔でニコニコと楽しむのは無理でしょう。

『青天を衝け』とは、言うなればそういう作品です。

渋沢栄一や徳川慶喜せいで血と涙を流した人は最低限の描写でうっちゃっておいて、まったり胸キュンと日本スゴイを描いていた。

私はそんな作品にずっと疑念と違和感を覚えておりましたが、なかなか理解され難いものでした。

そう、実物の渋沢栄一は、大河ドラマよりも『RRR』の総督の方が見た目が近いと思います。

「どうして純粋に楽しめないの?」

とは仰る通りですが、思ってしまうものは仕方ない。

映画『バーフバリ』は好きですよ。愛すべきインド映画も観てきました。

ただし、近代史を扱うからには無邪気に楽しむだけで終われません。

インドだろうと、日本だろうと、それは同じ。昨今のインドのニュースを観ていると、その思いは深くなります。

作品のより深い楽しみ方はいろいろありますよね。

グッズを買う。繰り返して見る。ファンアートを描き、同人誌を作る。SNSで語り合う。

そして歴史作品なら歴史を学んでもいいし、ニュースを見て世界の中でどういう立ち位置にある作品なのかを考察することだって、深い楽しみ方と言えるでしょう。

頭をからっぽにして、純粋に、映画なり、ドラマだけを、楽しむ。

それは幼さゆえの特権かもしれませんが、すっかり年老いた私にはちょっとできない相談。

素直に楽しめなくて申し訳ありません。

個人的な体験談でも。

現地の方に「今日本で『RRR』が話題です」と話をそれとなく振ったところ、困惑した対応をされたので話をやめました。

そこでインド近代史に詳しい方に聞いてみたところ「アクションはいい。けれども……」と、理由の説明と共に苦い顔をされました。

万人受けするようで、実はそうでもないような……。

歴史作品は、ファンの熱量が評価の全てとなるわけではないことがよくわかります。

【参考】
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著:武者震之助

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