忘羨

『陳情令』と『魔道祖師』/amazonより引用

陳情令・魔道祖師

“忘羨”こそ最上の幸福! 陳情令と魔道祖師は“知音”の世界だった

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忘羨
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中国文学は、ブロマンスを否定できるわけがない

中国共産党は同性愛を禁じるつもりだ。そんな中でブロマンスを扱うなんてすごい!

そんな声もあります。真偽のほどはわからないレビューで、推察を書かれていることもあります。

中国では伝統的に門派結成を警戒する傾向はあります。

どんな思想信条であろうと、無害なようでも、人間が集まって行動するとなると爆発力を発揮するかもしれない……そんな警戒心です。

実際に本作ファンは役者への嫌がらせといった過激な行動をとったこともあり、その歯止めをかける意図もあるのです。

のみならず、中国ではヒットが出ると二番煎じが増える。なまじ財力があるだけに、ドーンとブロマンス路線で突っ走ろうという算段も見えてきます。

過熱し過ぎると規制が入る。これは宿命と言えます。

しかし、この理論には反論させていただきます。

「中国は伝統的に同性愛に不寛容……」

それはいかがなものか。

キリスト教圏やイスラム教圏と異なり、東洋の儒教文化圏ではそこまで同性愛は忌避されません。

のめりこんで職務放棄する。寵愛するものを重職につける。そういった弊害でもない限り、恋愛のバリエーションとして認められます。

色の道を極めたいと自認するものは、バイセクシャルになることもしばしば。『金瓶梅』が典型例です。

同性愛か、異性愛か。そこではなく、過激な性愛描写や、歴史人物の侮辱的な描写に厳しい傾向があります。

「そりゃそうよ。日本のゲームみたいに、歴史上の人物を少女にしてスケスケ衣装を着せるのはやりすぎでしょ。それにこのキャラクターにはまるで史実が反映されていないぞ!」

そんな反論も十分成立することは念頭におきましょう。

そうしたレイティングでの規制と同性愛禁止を混同すると、いろいろ誤解が生じかねません。

歴史を遡りますと、中国史と文学は、ブロマンス天国だということは主張しておきたいところです。

歴史書や文学にも、男性同士が仲良しであることの証拠として、こんなことがあげられます。

・同じ車で外出する

・手を繋いで歩く

・寝室まで招く

・同じベッドで眠る

・同じベッドでおしゃべりを楽しむ

・楽器をともに演奏し合う

・果物や佩玉(はいぎょく、腰に下げる玉)を贈呈しあう

・書画、詩の合作や交換をする

・もちろん飲酒も!

漢詩でも、男性が男性を思い、「この切ない気持ちがたまらない!」と訴えるものは定番です。

男性同士の友情を扱った漢詩は実に多い!

たとえば……。

青青(せいせい)たる子(し)が衿(きん)

青々としたキミの学生服姿(*ここでは学生または若者の服をさす)

 

悠悠(ゆうゆう)たる我が心

想像するとめっちゃテンションあがる俺の心!

 

但(た)だ君が為(ため)故(ゆえ)に

ただキミを思うがあるからさ

 

沈吟(ちんぎん)して今に至る

こんなに悩んじゃってるんだ!

 

曹操「短歌行」より抜粋超訳

なんだか曹操が気持ち悪く思えてきますが、彼の名誉のためにフォローします。

ここでは有能な人材を募集していると解釈しましょう。

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男性が男性を思うことは美しいとされるがゆえに、自由に解釈できます。

もっと情熱的な漢詩もあります。

月下独(ひと)り坐し伯虎を懐(おも)う有り

月の下でひとりぼっち、伯虎のことを考えてる

 

経月(けいげつ)君を思うも会すること未(いま)だ能わず

何ヶ月もきみのことを思っているのに、会えないんだね

 

空牀 見(あ)わんことを想(おも)いて 青綾(せいりょう)を擁す

空っぽのベッドを見ていると会いたくて胸がキュンってなる、青い絹のお布団抱きしめちゃう

 

若し酒を縦(ほしいまま)に非ざれば 応(まさ)に病を成すべし

お酒飲みすぎちゃったの? それとも病気?

 

梳頭(そとう)除却(じょきゃく)すれば 即ち是(こ)れ僧なり

髪の毛さえ剃っちゃえば、きみはまるで出家しちゃったみたい……それくらい浮世離れしてるもん

 

友道斯(か)くの如く 誰か汝(なんじ)を念(おも)わん

こんなに友達としてきみのことを考えている奴、いないと思う!

 

才名 古(いにしえ)自(よ)り 人の憎しみを得るなり

才能ある人って、周囲から憎まれるって昔から言うもんね

 

夜斎 月に対するも 共にする由(よ)し無し

夜の書斎で月を見ていても、ぼっちだと切ないだけだよぅ

 

幽懐を賦(ふ)さんと欲するも思いに勝(た)えず

この切なさを大長編ポエムにしたいけど、つらすぎてもう無理……

 

文徴明「月下独坐有懐伯虎」

なお、この文徴明は唐寅ともども、前述の『江南百景図』に、ぼーっとしたマイペースタイプ、イケイケにいちゃんとして、それぞれ登場しております。

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男同士が思い合い、布団を抱きしめる詩を詠んでも周囲は「うんうん、なかよしだもんね」と見守る。それが伝統です。

ドラマなりアニメを見ていて、周囲から「なんだかイケメン同士がベタベタしすぎじゃない?」と突っ込まれたら?

「何を言っているんですか? これはお互いに、才能や人柄が素晴らしいがゆえにそうしている。友情です。それをそういうことだけだと解釈するなんて、心が汚れているんじゃないですか? 古くからの伝統ですよ!」

士は己を知る者の為に死す――。

立派な男性は、自分を知るもののために命を捨てることだってできる! そう引用すればバッチリです。

男同士の友情は、中国に生きる人々の心を掴んできました。

激しい政治闘争に疲れ果て、老荘思想に耽溺し、琴棋書画(琴の演奏、囲碁、書道、画。文人の嗜み)、酒、美食……そうしたものを莫逆の友と楽しんだらどれほど素晴らしいか――そう思い続けていました。

それが形を変えて、ブロマンスになったところで、伝統からは逸脱していない。

同工異曲――それまであった伝統を変えて、現代の人の心をも揺さぶるようにした。まったくもって文句を言われる筋合いはない。

そう主張できるのです。

中国では伝統的に男性同性愛として「分桃(余桃とも)」とか「断袖」といった言葉があります。こうした言葉は性愛を示すもので、あまりよい意味はありません。

しかし、友情となれば美しい語彙がある。

そうした言葉からは性愛があるかどうかはわかりません。大事なのはそこではない。あくまで麗しい友情こそが大事なのです。

莫逆の友、断金の交、膠漆の交、刎頸の交、管鮑の交……さまざまな言葉がありますが、これこそある意味ふさわしい言葉もあります。

知音(ちいん)――。

春秋時代に、伯牙(はくが)という琴の名手がいました。

親友の鐘子期(しょうしき)は、その琴の音を知るだけで、伯牙の心まで理解したと言います。

その鐘子期が亡くなると、伯牙は琴の弦を切り、二度と弾くことはありませんでした。

唯一無二の、琴を奏でる友人がいないのに、弾いても意味がない。

このことが「伯牙絶弦(はくがぜつげん)」、そして「知音」という言葉を残しました。

音を知る人こそ、かけがえのない存在である。転じて親友。そんな意味の言葉です。

こうした関係性は、学術的にも結論が出ないもの。

中国史における男性同士の濃厚な関係は、多くの学者が論じてきました。

本国だとむしろ当たり前すぎて曖昧になりかねないし、かといって他国、こと西欧圏からすれば困惑させられてしまう。

キリスト教圏ならばこれはもう恋人同士と思えることだけれども、果たしてどうなのやら。ホモソーシャル(同性間の結びつき)の有り様が東西であまりに異なるのです。

ギスギスしたマウンティング合戦にならず、穏やかに琴を演奏して詩を交換し合うとなれば、もはやそれはワンダーワールド!

別に中国人男性同士が争わなかったわけでもなく、熾烈な闘争はつきもの。それとは別の友愛空間も存在するのです。

「これはもう、恋愛関係もあったとみていいんじゃないですかね」

「いや、それは発想の飛躍ではありませんか?」

「男女双方に慰めを求めたとしても、何もおかしくないでしょう!」

と、研究者にも諸説あります。ゆえに好きな解釈をしてもよいのです。

このようにブロマンスがいくらでも言い逃れができる。それが中国のよいところです。

華流ドラマの華麗なるブロマンスは、西欧からも熱い眼差しが送られるようになっています。

伝統をふまえて、堂々と華流ブロマンスを楽しみましょう。そのことに問題は何もないのだから。

 

華流と伝統回帰で風雅の極みをめざす

「中国文学ってなんて素敵なのだろう! 私も創作に織り込まなきゃ」

こう書くと、華流ドラマにはまった同人作家のつぶやきのようにも思えます。

しかし、これは紫式部清少納言も通ってきた道といえるのです。

前述の「広陵散」は『源氏物語』に登場します。

「明石」で「かうれう(こうりょう)」という曲を弾くのです。

「明石」は政治闘争に疲れた光源氏を描く場面であり、そこで弾くのであれば「広陵散」がふさわしいとされたのでしょう。

紫式部も、清少納言も、中国文学を取り入れてこそ教養であると取り入れてきた。

だからこそ、日本では国語の時間に漢文を習います。

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「国語なのにどうして漢文を習うの?」

それには明確な答えがあります。

中国文学を取り入れて、日本の文学は成立してきたのです。

◆グローバルな時代だからこそ、古文・漢文は大事(→link

それに対する反論は当然あるわけですが、私は敢えて主張したい。

漢文知識がなければ、華流の楽しみが半減しますよ!

漢字を読み、文献を調べられるからこそ、日本のファンは大いに楽しめる。実に恵まれた環境にいるのです。

そうして調べあげてゆくうちに、勉強になり、教養も身につき、音楽や文学を愛する風雅な心も身につきます。

紫式部や清少納言と同じ道を辿ることができるのです。

もう、華流ブロマンスを楽しむ心を止める理由はありません!

ただ、盛り上がるだけではない。鑑賞することでまるで心が洗われてゆく――それこそが華流の魅力です。

そして誰かと語り合うことで、相手の心を知り、高めあう。友情を育ててゆく。そんな関係が築き上げられるのだとしたら、それは素晴らしいことではありませんか。

誰かとかけがえのない時間を過ごし、羨むことすら忘れてしまう――そんな素晴らしい時間が過ごせるよう、作品を噛み締めつつ、めざしてゆきましょう。

風雅なあなたこそまさしく“賢媛”、あるいは“聖哲”です。

 

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文:小檜山青
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【参考文献】
井波律子『中国文章家列伝』(→amazon
井波律子『中国の隠者』(→amazon
井波律子『奇人と異才の中国史』(→amazon
R.H.ファン・フーリック『古代中国の性生活―先史から明代まで』(→amazon
スーザン・マン『性から読む中国史』(→amazon
佐藤信弥『戦乱中国の英雄たち』(→amazon
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