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【ドラマ『大奥』感想レビュー第1回八代将軍吉宗・水野祐之進編】
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ホモソーシャルの女版はありえるか?
2023年1月2日、Eテレの『100分de名著』は「フェミニズム」がテーマでした。
ここで上野千鶴子さんがセジウィック『男同士の絆―イギリス文学とホモソーシャルな欲望』を取り上げました。
セジウィックの議論は画期的で「ホモソーシャル」という概念を定義しています。
男性同士が財産と地位を分け合う社会のことです。
このホモソーシャルの女性版はあるのか?と番組で問われると、女性同士は財産と地位がないから成立しないと上野さんは語っておられました。
その歴史的な意味での例外が、日本の大奥といえます。
大奥は権力を有しており、金も飛び交っていました。京都の朝廷でも江戸時代までは女官が財産と権力を握っていたとされます。
それを解体したのは明治政府です。
明治4年(1871年)、薩摩閥の吉井友実が日記にこう記した言葉がそれを象徴しています。
「数百年来の女権唯一日ニ打消シ愉快極まりなしや」
東洋の女性版ホモソーシャルを踏まえまして、そんな大奥を男が運営するとどうなるか?
その問いかけへの答えがそこにあります。
男性だけの軍隊や学校といった組織とはまた違う。陰湿で、ジェンダー的な「女性らしさ」がある。そんな空間が展開されます。
歴史的に近いものを探すとすれば、中国宮廷の宦官同士ですかね。
いじめ。嘘。性暴力。
ドロドロと渦巻く様を見ていると「女同士のドロドロ! まるで大奥」というのは、セックスではなくジェンダーの問題だとわかってきます。
こんな賢い解き方をするなんて、原作のよしながふみさんと、それを受け止めた森下佳子さんはなんて聡明なのだろう。
どこもかしこも隅々まで問題提起にあふれていて、ドラマを見ているのではなく、講義を受けているような知的好奇心もどんどん刺激してきます。
ちなみに大奥では、猫がかわいがられている場面もあります。
『おんな城主 直虎』で猫の扱いが上手だった森下さんがいるからということだけでもありません。
大奥では狆や猫といったペットが大人気だったのです。
かわいいから? さみしいから? といった癒やしの存在だっただけでなく、財産と権力の証でもあります。
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権力者からペットを譲り受けることで、人脈が広がったのです。
姫君の飼い猫がお腹を大きさせると、子猫をもらいたい予約であっという間に埋まったと言います。
大奥というのは、人類の歴史やジェンダーを考える上でも実に興味深いものです。
セジウィックの話が出たのでもう一点
セジウィックが定義する家父長制の要素に「ホモフォビア」(同性愛嫌悪)があります。
男女間の異性愛だけで社会を動かしていく一方で、同性愛には強い嫌悪感を示すことがあるというもの。
西洋由来の感覚でもあり、日本では、明治時代以降にこのホモフォビアが根強いたとされます。
日本では長いこと同性愛は性的なバリエーションとして受容されていました。
しかし大河ドラマを思い出してみてください。
2022年『鎌倉殿の13人』では源実朝の丁寧な同性愛描写が話題となりました。
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それまでは、省かれるか、あるいはBLだのなんだの仰々しく取り上げられるか。
暴力、脅迫、権力者に取り入るための同性愛が『大奥』の場合はいともたやすく描かれている。
男性が男性にしなだれかかる姿は、まるでNHKではこんなこととっくにできると主張するほど手慣れているようにも見えました。
やればできるじゃないですか!ま、深夜帯だからでしょうけど。
愛と権力がよい方向に一致する大団円
たとえ高度な作劇であっても、ドラマとして面白くなかったら失敗です。
が、森下さんが脚本家であり、ぬかりはありません。
主人公である水野の悲恋。吉宗の持つ将軍としての器量。権力闘争。騙し合い。そして恋愛。ありとあらゆる要素をまとめあげてきます。
大奥が舞台ならば、それこそセクシーな盛り上がりが期待されそうですが、そこがきちんとわけられている。
水野は情愛。吉宗は政治権力、そして国の行く末。
両者の利害が一致するようにまとめるところが実にうまい。
時代劇ならではの強みも生かされています。
現代劇では誰かと一晩共に夜を過ごしたくらいで、権力によって片方が抹殺されるような状況にはなりません。
それがこの大奥ではあり得る。
処刑場で刀身が不気味に光り、そこに水を吹きかけられることで、緊迫感は増大します。
こうした時代ものならではの残酷さがあればこそ、光る仕組みもあるのです。
大河だけの時代は終わるかもしれない
かつて日本では時代劇が娯楽の定番でした。
それがいつしか民放でも、NHKですら作られなくなり、大河ドラマの一人勝ちが続いています。
一方で、韓国と中国では時代劇が活発に作られています。
本数が多いだけに、さまざまな作品が自由自在に作られています。
タイムスリップもの。歴史を元に改変したフュージョン時代劇。そしてミラーリング時代劇。
テレビから時代劇が消えても、視聴者側の時代劇を見たい欲求は変わりません。
VODがこれだけ発達した時代となると、日本以外に時代劇ファンが流出してしまう時代。
そこに危機感を覚え、敢えてこの時間帯に『大奥』を作り上げたのではないか。そう思える力作です。
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文:武者震之助
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考】
ドラマ『大奥』/公式サイト(→link)