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【ドラマ『大奥』感想レビュー第3回】
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『源氏物語』の女たちは幸せだったのか?
「若紫」で登場した紫の上は、光源氏最愛の妻となります。
しかし、彼女が幸せだったかというと、『源氏物語』読者であればあるほどそうとは言い切れない悲運の女性でもあります。
何も知らぬ幼い少女の頃、光源氏によって強引に連れ去られた紫の上。
彼女が成長すると、光源氏は強引に我がものとする。
ずっと信じてきた優しいお兄さんに突如わけのわからぬことをされ、恐怖のあまりびっしょりと汗を掻き、涙を流した紫の上。
光源氏の妻となったからには、初めてのときに味わった恐怖と嫌悪は封じ込めなければなりません。
紫の上は完璧な愛妻として振る舞い続けます。
しかし、紫の上が三十歳を超えたとき、光源氏は女三宮という幼い妻を迎えます。
彼女は藤壺中宮の姪でした。
そして紫の上は悟ったのです。
光源氏が自分をものにした理由として、彼が憧れていた藤壺中宮の姪であり、その面影を探していたのではないかということに。
誰かの代用品として求められていたこと。そして愛を頼りに生きてきて、それが崩れたらそれまでということ――「若紫」として登場した紫の上は、そんな淵に沈み、死を迎えます。
こう考えると「若紫」という名の猫は、なんと複雑な存在でしょうか。
微笑ましいようで、何か嫌な予感がしてしまう。
と、若紫は、有功に仕える部屋子・玉栄によって殺されてしまいました。
しかも御中臈・角南重郷の脇差を使うことで、罪を着せたのです。
玉栄の策により、角南は死を命じられ、物語はますます暗さが増してきます。
消えぬ傷をつけられた者たちは
玉栄はなぜそうしたのか?
彼は御中臈の三人組によって手篭めにされていました。
有功の前では何もなかったように振る舞いながら、どこか暗い雰囲気を漂わせていた玉栄。
彼が受けた心の傷が暗い音として響いてきます。
そしてそこに家光の情緒不安定さ、秘めた怒りも重なってくる。
この玉栄は、俗名が「お玉」であった桂昌院がモチーフのようです。
前回放送の冒頭で、髪を切られた少女が出てきました。
女の髪を切る賊の正体は家光であったことが明かされます。
若紫を弔う有功。共に弔おうと声をかけても、心を開くどころか、狂気を増してゆく家光。
そしてついに家光は、有功を御役御免だと言い出します。
大奥から出るには死ぬしかない――春日局は彼にそう告げていました。
そこで冥土の土産として、稲葉正勝が家光の身の上を語ります。
家光は、父である将軍・家光が、辻斬りの際、戯れに手をつけた女が身籠ったのでした。
父を知らぬ千恵という名の平凡な少女として生きていた彼女。
その父が急死したため、母と引き離され、幼くして無理に身代わりとされたのです。
そんな境遇からなんとか抜け出そうとした家光は、ならず者に捕まってしまい、その相手を斬り殺す。
以来、彼女は狂気を増していました。
身代わりにされたこと。
自由になれず、閉じ込められた運命。
望まないまま手籠めにされてしまった苦しみ。
皮肉にも、家光の悲運は紫の上と通じるものもありました。
そんな家光のそばにいながら、彼女の悲しみを見抜けなかったことを有功は悔しがります。「それでも仏の身に仕えるものか」と自らを恥じるのです。
家光を蔑むことはない。憐れむわけでもない。
それよりも先に我が身の不覚を悔いる優しさが有功にはあります。
傷ついた心を受け止め、ひらく
女の身でありながら髪を切られ、男にされてしまっていた家光。
彼女はその憂さ晴らしのように、女から切り取った髪の毛と装束を身につけさせ、男たちを舞わせます。
笑い飛ばす家光。
こうして誰かに自分の痛みを味合わせ、笑うことでしか憂さを晴らせないのでしょう。
するとそこへ、女の格好をした有功がやってきます。
無理強いしたわけでもないのに、何もかも悟り切ったように優しい顔で家光の前にやってくる有功。
泣き笑う家光の姿は圧巻でした。
彼女はこんな風に自分を見つめてくる誰かがいなくて、どうしたらよいのか、わからなかったのかもしれない。
心を開くことができず、恨みや苦しみが先にきてしまって、安心できなかったのかもしれない。
深く傷つき、心を閉ざしてしまった相手は、まず安心させるしかない。それも相手の気持ちを確かめながらそうしなければいけない。
そんな優しく繊細なアプローチで、有功は家光の心を救うのでした。
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