築山殿/wikipediaより引用

今川家

家康に捨てられた瀬名が氏真に「遊女」扱いされるなどあり得るのか?

大河ドラマ『どうする家康』の第4回放送でちょっとした驚きのシーンがありました。

徳川家康の正室である瀬名に対し、今川氏真が側室になるよう迫ったのです。

戦国大名だったら普通のことでは?

と思われたかもしれませんが、そこで瀬名の母である巴(真矢みきさん)が放った言葉が衝撃的でした。

「これでは遊び女になれと言われたようなものだ!」

要は、正式な妻としてではなく、遊び相手という扱いのようで、確かにそれが本当なら母親がキレて当然の話でしょう。

この一件だけで、大手メディアの記事になるほど話題となりましたが、

◆【どうする家康】瀬名を「遊び人」扱い、血文字手紙強要…闇落ち氏真にネット悲鳴「むごい」「架純ちゃん…」(→link

果たして「遊び人」扱いとはどういうことなのか?

こんな酷いことが、実際に起きうるのか?

当時の状況を振り返ってみましょう。

 

瀬名は「遊女」のような扱いなのか?

近年の大河ドラマにも「遊女」とみなせる女性は登場しています。

『麒麟がくる』の伊呂波太夫は孤児出身で、踊り歩く一座を経営していました。同じく孤児であった駒の面倒を見ていたこともあります。

歌や踊りという特殊技能を持ち、多くの大名家を渡り歩くことができる芸人は諜報活動もこなし、そのことは劇中でも描かれました。

彼女らのような人物が「芸だけで生活」と主張できるのは、時代が進歩してからのことです。

令和においても舞妓の搾取が問題視されるほどですから、現実問題としてその手の活動はあった。

例えば伊呂波太夫は松永久秀から妻にならないかと誘われる場面もあり、性的な関係を金銭でやりとりしていたことがほのめかされています。

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あるいは『鎌倉殿の13人』でおなじみの源範頼は、母が池田宿の遊女でした。

宿場にはつきものであり、そこに泊まった父・源義朝との間に生まれたのです。

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はたまた源義経に寵愛された静御前は、男児を産んだ後、宿場で遊女になった姿を見かけたという台詞が出てきます。

こうした「遊女」とはどういう状態を指すか?

金銭を媒介し、不特定多数の男性に性的なサービスを供給する女性となります。

つまり瀬名の状態としては正しくありません。

氏真が瀬名を駿府の宿に置き、金銭を媒介して性的なサービスを提供させたりしないでしょう。

瀬名と氏真の間にも、金銭的なやり取りはありません。かつ、彼女が不特定多数の相手をするわけない。

ゆえに今回は「遊び女」などではなく「妾」という言葉を使うほうが適切ではないでしょうか。

 

大河ドラマでの「妾」

では大河ドラマにおける「妾」とはどのような女性か?

近い立場として描かれたのは『麒麟がくる』の深芳野でしょう。

彼女は斎藤道三の寵愛を受けているとはいえ、その扱いはあくまで酒席に侍る女性の上位版のように見えました。

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つまり、小見の方には敬愛があるようで、一方の深芳野は、彼女自身がどこか怯えや遠慮が道三に対してありました。

その恐怖心は、道三と我が子・義龍の対立が深まることで悪化し、酒に走り溺死してしまったのです。

寵愛されているようでも不安定な女性の苦悩が描かれていたんですね。

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2021年の大河『青天を衝け』からは伊藤兼子にも注目です。

ドラマでは相当ぼかされた描き方をされていましたが、彼女は実質、妾として渋沢栄一に囲われ、千代の死によって妻に据えられています。

兼子にあっさり追い出されてしまった女性・くにも妾でした。

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『鎌倉殿の13人』では亀の前が近いでしょうか。

源頼朝がコソコソと逢瀬を楽しむ相手で、日陰者の扱い。

彼女はあっけらかんとした性格で気にしてない様子ではありましたが、立場は弱いものです。

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そうしたことを踏まえて再び『どうする家康』へ。

家康の正室だった瀬名は、こうした特定の男性に囲われる女性にされかけていたということになります。

にもかかわらず、ある記事では、彼女のことを以下のようなキャプションで記していました。

見捨てられ遊女のような扱いとなった元康の妻・瀬名

前述のように「遊女」とは不特定多数に性的サービスを行う女性を指します。

上記のキャプションに当てはめて、正しく表現すれば次のような感じではないでしょうか。

見捨てられ「妾」のような扱いとなった元康の妻・瀬名

人気作品『鬼滅の刃』に「遊郭編」があったから、わかりやすさを求めて言葉を変えたのかもしれませんが、酷い間違いだと思えます。

そしてもうひとつ重要なこととして、瀬名を「妾」とすることが適切なのか、という問題があります。

彼女が可愛らしいとか、元康の妻だからとか、そういうことではなく、今川一族の姫である瀬名は血筋が良すぎるのです。

例えば『麒麟がくる』の深芳野は、史実では稲葉一鉄と同族という説もありますが、劇中では採用されず、土岐頼芸の妾あがりで身分の低い女性でした。

『青天を衝け』の兼子は没落した商人、くには戊辰戦争で夫を失った未亡人です。

渋沢栄一の生きた明治初期は、彼のような権力者にとっては妾漁りのボーナスタイム。生きることのできぬ幕臣や旗本の“お姫様”が身を売る羽目に陥っていましたので、渋沢もその恩恵に浴した代表格です。

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『鎌倉殿の13人』の亀の前も、史実ではそれなりの血筋という説もありながら、劇中では漁師の妻に過ぎません。

しかし瀬名は全く異なります。

ゆえに、もっと使い道があります。

 

上級家臣の娘は使い道がある

瀬名は今川家でも上位で、御一門に連なる関口氏純の娘でした。

それだけ身分が高い女性を、三河の国衆に過ぎない松平元康の正室とすることは、今川の傘下に繋ぎ止めておくには良い手だったから結婚させたのです。

ドラマでは甘酸っぱい恋心が強調されましたが、あくまで創作。

そういったことを踏まえれば、瀬名が自由の身となったからには、繋ぎ止めておきたい別の家臣にでも与えた方が使い道があるわけですね。

「使い道」とは言い方が悪いかもしれませんが、現実問題そうなるほうが自然です。

なぜなら桶狭間の戦いで義元を失った今川家は、家臣が離反し、家を保つのに四苦八苦でした。

そんなとき有力な武将に瀬名を与えておけばつなぎ役として機能する。

氏真に「夜伽役」が必要なら、それこそプロの女性でも、領民の美女でも見繕ってくればよい。

瀬名の使い方は一石二鳥にもなります。

離反した者の妻は奪う!

だが、従う者にはよい妻を与えよう!

という信賞必罰をアピールできるわけですね。

妻を盾に脅迫なんてつくづく酷いかもしれませんが時代は戦国です。

あの直江兼続には『地下人上下共身持之書』という著書があり、そこには「年貢を納めなければ、妻を質入れする羽目になってしまう」と記されています。

そうなったら妻は若い連中に好き放題されるぞ……と生々しく脅迫しているんですね。

卑劣で、最低ですが、これぞプロの脅迫というものでしょう。

『どうする家康』の氏真のように「俺の妻にする!」なんて鼻息荒くさせるより、裏切ったら「あの国衆の妻にしてやるぞ!」「足軽部屋に叩き込んで、荒くれ者どもに好き放題させるぞ!」とでも言った方が効果的。

ドラマのような氏真の描き方では、ヤンキー漫画で闇堕ちした高校生程度の悪知恵しか回っていないように思えてなりません。

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